プロが教える店舗&オフィスのセキュリティ対策術

学術書を読んでいると、そのうち集中力が切れてか、同じ文を何度も読んでいたりします。これは、生物学的、特に分子生物学的にどういう状態なのでしょうか?

できれば、専門用語を使って説明していただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。

A 回答 (1件)

こんにちは。


中枢神経系における覚醒状態の変化といいますのは、NA(ノルアドレナリン)や5-HT(セロトニン)といった「修飾系伝達物質」の広域投射によるものと考えられておりまして、「分子生物学」といいますならば、現在の脳医学・神経生理学では主にこのような神経伝達物質による細胞間化学伝達の解明がその応用に当たります。
疲れたり、興味が削がれてしまったために思うように活字が追えないというのは、我々の日常で良く体験することですよね。このような状態を生理学的に述べるならば、それは青斑核A6を中心とするNAの広域投射によって亢進される中枢系の覚醒状態が一定のレベルを維持できず、腹側皮蓋野A10によるDA(ドーパミン)の前頭葉投射が損なわれるために、視覚言語の認知という作業の継続が困難になってしまったということになると思います。

我々の脳内で「集中力の因子」、あるいはビタミンと言えるものはNA(ノルアドレナリン)でありまして、DA(ドーパミン)系では腹側皮蓋野A10と呼ばれる前頭葉への投射経路が特定されておりまして、これが「報酬行動」を補助する「意欲の素」ではないかと考えられています。
NA系の広域投射といいますのは、身体内外の環境の変化に対処するため、主に中枢神経系全体の覚醒状態を亢進するものでありまして、「報酬刺激」「嫌悪刺激」のどちらに対しても発生し、青斑核A6を中心とする複数の投射経路によって行われます。これに対しまして、腹側皮蓋野A10DAの前頭葉投射は「報酬刺激」によって活性化されるものでありまして、基本的には、不利益や無報酬に対して「意欲」という反応が伴うことはありません。
知覚入力を基に「大脳辺縁系」で発生する「情動反応」は「快情動」と「不快情動」に分かれ、「報酬刺激」及び「好奇刺激」には「接近行動」が選択されますが、「嫌悪刺激」「無報酬刺激」は不快情動と判定され「回避行動」となります。NAの広域投射による覚醒状態の亢進といいますのは、このような情動反応によって選択される行動を円滑に実現するために行われるものです。ですが、飽くまでこのような反応は与えられた環境の変化に対処するためのものでありまして、「ストレス状態」といい、脳や身体にとっては決して楽な状態ではありません。このため、脳はそのような興奮状態をなるべく早く通常の安静覚醒状態に戻そうとします。
このように、NAの投射といいますのは、情動反応という価値判断に従って臨時的に行われるものでありまして、何らかの環境の変化や刺激がなければ脳の覚醒状態がそのまま高いレベルで維持されることはありません。疲労や刺激の慢性化などによって覚醒状態が低下してきますと、理解力や興味が薄れますし、利益・不利益の判断も変わってしまいます。このような理由から報酬が途絶えたり、それが不利益に転じたりしますと、選択されるのは不快情動に基づく回避行動ということになりますし、同時に「DAの意欲作用」も失われますので、それ以上の作業の継続が困難になります。そしてこのような状態を、我々は「集中力の低下」として自覚します。

我々の脳が感覚情報を処理するための作業は「注意」「知覚」「認知」といったプロセスを辿ります。
「注意」といいますのは、例えば何かが動いたとか、たまたま目に止まったといった環境の変化に対する反応のようなものでありまして、我々が本を読むときなどは、ページを開くとか、活字に目を向けるなどして自発的に注意を促しています。
視覚などの感覚器官の情報保持能力は0.1秒程度とされておりまして、何の注意も払われなければ全てが一瞬のうちに破棄されてなくなってしまいます。ですから、感覚情報といいますのは、まず「注意」という第一のプロセスを通過することによって初めて情報として扱われ「感覚知覚野」に取り込まれるわけでありまして、これ以外の場合は、見えてはいるけれども実際には脳に入って来ていないということになります。
知覚野における「知覚」の作業が完了しますと、それは「感覚連合野」と呼ばれるより高次な部位に送られて「認知」されるわけですが、これと同時に、この「知覚報情」は大脳辺縁系や生命中枢といった脳のもっと深い部分にも出力されておりまして、これを基に、生得的な反射や情動反応といった価値判断が行われます。青斑核などのNA(ノルアドレナリン)保有神経核は、このような生得的反応や情動反応によって活性化するわけですから、覚醒状態の亢進というのはこの時点から始まるということです。
これに伴い、感覚連合野での認知能力や記憶能力は必然的に高まると共に、知覚器官ではその状態が「選択的注意」に移行します。そして、「決断」「実行」といった作業を消化したのちに、問題が解決されるならば脳は再び安静覚醒状態に戻ります。
言語情報などの認知の場合には、このような状態は比較的安定して継続される必要があります。何故ならば、それが不安定では文章全体の理解が困難になるからですね。そして、脳の覚醒状態が高いレベルで維持されるためには、問題がまだ解決されていないか、何かしらの利益の獲得、あるいは未来報酬といったものが想定される必要があります。

視覚情報の認知とは、対象の知覚情報が既知の概念と結び付くということでありまして、このような比較・判断を行なう連合野の機能を「ワーキング・エリア」と言います。活字などの視覚情報は、「視覚言語野」での知覚に対して意味が宛がわれるだけではなく、その順序や組み合わせに対する論理的な概念が整然と認知される必要があります。そして、感覚言語のワーキング・エリアとしてこのような論理的な概念の認知を扱っているのが「海馬」でありまして、ここは脳内での記憶という作業にもたいへん大きな役割を担っています。
NA(ノルアドレナリン)の広域投射による覚醒状態の亢進に伴って、脳内では各連合野の認知機能が高まるというのは既にご説明致しましたし、それは全く必然的なことなのですよね。ですが、異にこの海馬に至りましては、その関係がたいへんはっきりとしています。
海馬といいますのは、通常、安静覚醒時には5-HT(セロトニン)の恒常的な分泌によってその機能が「抑制」されています。これは、普段我々の目や耳から次々と入って来る膨大な情報を、全て記憶として保管するということはとてもできないからです。このため、安静覚醒時、海馬本来の認知・記憶機能というのは継続的な抑制状態にあります。この、脳内では恒常的に分泌されている5-HTの抑制を解除し、海馬の機能というものを正常に働かせてやるのがNAの「脱抑制作用」です。
ですから、疲れたとか、刺激が足りないとか、難解、もしくは難解と感じられるなど、何らかの理由でこのNAによる脱抑制が不足しますと、言語情報の論理的な認知を受け持つ海馬の機能は著しく低下します。従いまして、この状態で一生懸命に活字を追ってみましても、その意味を理解するということが困難になり、分からない、ちっとも覚えられないということになります。
それまでは理解できる、興味が持てるというのが報酬刺激であったわけなのですが、分からない、興味が持てないという時点で、それは一挙に無報酬・不利益に転じます。そして、もはやDA(ドーパミン)意欲回路の働きに頼ることはできず、やがて注意という作業も怠るならば、それは知覚さえ成されることもなく、ただ訳の分からない模様を眺めているだけということになってしまうのではないか思います。
このようなときは、やはり少し休みましょう。お勉強も結構ですが、余り無理はなさらずに、ご自分のペースというものを工夫して下さい。

但)例に挙げましたのは極一部の作用でありまして、我々の脳の営みや神経伝達物質の働きというのはこんなに単純ものではありません。飽くまでこれを参考に、集中力の喪失というものがどのようなものであるのかをイメージして頂ければ有り難く思います。
    • good
    • 1

お探しのQ&Aが見つからない時は、教えて!gooで質問しましょう!