No.3ベストアンサー
- 回答日時:
凄い研究やってるんですね。
楽しそうです。「帰謬法」は「背理法」の別名です。Pという命題を証明しようとするとき、「Pでない」と仮定して矛盾を導くんですね。正確に言えば、適当な命題Aについて
「PでないならばAである」と「PでないならばAでない」を証明して、これらから「Pである」と結論します。ご質問の場合、
P: √2は無理数である
を証明しようという訳ですけど、
・√2って何か。「x^2 = 2 を満たす正の数x」
これは良いでしょう。では、
●無理数って何か。「有理数でない数」「どんな整数nについてもnxが整数にならないような数x」「小数展開したときに、循環小数にならないような数」
いずれも「××でないもの」と定義されています。だから帰謬法が有効です。すなわち、『「××でない数」ではない』は『××である数』と同じですから、
「√2は有理数である」と仮定する。
「或る整数nが存在してn√2が整数である」と仮定する。
「√2を小数展開したときに、循環小数になる」と仮定する。
などから出発して、矛盾を導く。
○良く知られた帰謬法による証明は:
「√2は有理数である」と仮定する。
すると整数n,mが存在して「m>0かつ √2 = n/mかつn/mは既約分数」を満たす。
(√2)^2 = 2
であるから
(n/m)^2=2
よって
n^2 = 2(m^2)
従ってnは偶数である。すなわち
n=2k
を満たす整数kが存在する。ゆえに
4(k^2) = 2(m^2)
2(k^2) = m^2
従ってmは偶数である。
だからn,mは共に偶数であり、n/mは既約分数ではない。これは矛盾である。
つまり『「√2は有理数である」ならば矛盾である。』が証明された。
ゆえに「√2は有理数でない」が証明された。
●ほかの証明方法と言いますと、
○対偶を使う。
「xが√2ならばxは有理数でない」の対偶は「xが有理数ならば、xは√2でない」です。
つまり、「どんな有理数xも x^2=2 を満たさない」ことを示せば良い。
○ジレンマ(場合分け)を使う。適当な命題Aを見つけて、
「Aならば√2は有理数でない」および「Aでないならば√2は有理数でない」
の両方を証明できたら、「√2は有理数でない」が言えます。
○三段論法を使う。適当な命題Aを見つけて、
「xがAならばxは有理数でない」および「√2はAである」
の両方を証明できたら、「√2は有理数でない」が言えます。
○数学的帰納法(累積帰納法)を使う。例えば
Q(m) : 「どんな整数nについてもn/mは√2ではない。」
とするとき、
「Q(1)である」と
「自然数mがm>1のとき、『自然数jがm>j≧1を満たすならQ(j)である』ならばQ(m)である」
を証明する。
などが考えられます。しかしながら、これらの代替え案も皆、どこかで「××でない」を言わねばならないのは同じで、ここのところで帰謬法を使っちゃいます。具体的に見てみましょう。
●上記の帰謬法による証明を、対偶「xが有理数ならば、xは√2でない」の証明に変えるのは簡単です。
「x^2=2を満たす有理数xがある」と仮定する。
すると整数n,mが存在して「m>0かつx= n/m かつ n/mは既約分数」を満たす。
仮定により(n/m)^2=2だからnもmも偶数である。(ここの詳細は既に、帰謬法の例で見ました。)
だからn,mは共に偶数であり、n/mは既約分数ではない。これは矛盾である。
以上から、『「x^2=2を満たす有理数xがある」ならば矛盾』が証明できた。
ゆえに「xが有理数ならば、xはx^2=2を満たさない」つまり、「xが有理数ならば、xは√2でない」が証明できた。
やっぱりこれも帰謬法を含んでいます。
●帰納法にしてみましょう。ついでにジレンマの例も見てみましょう。
Q(m) : 「どんな整数nについてもn/mは√2ではない。」
とするとき、「Q(1)である」と「自然数mがm>1のとき、『自然数jがm>j≧1を満たすならQ(j)である』ならばQ(m)である」を証明します。
Q(1) : 「どんな整数nについてもnは√2ではない。」
すなわち「√2は整数でない」を証明する問題です。これをジレンマで証明しましょう。
つまり
A: 整数nがn≦1のとき、nは√2ではない。
B: 整数nがn≧2のとき、nは√2ではない。
を証明すれば、Q(1) が言えたことになります。
Aは√2の定義から明らかです。Bは数学的帰納法を使って簡単に証明できます。
自然数mがm>1のとき。『自然数jがm>j≧1を満たすならQ(j)である』と仮定する。
この仮定の下で、ジレンマを使いましょう。
C:「n/m≠√2であるならばn/m≠√2である」
D:「n/m=√2であるならばn/m≠√2である」
この両方を証明すれば、Q(j)であることが証明されます。
Cの証明:トートロジーです。n/m≠√2と仮定すればn/m≠√2。
Dの証明:
n/m=√2であるとすると、(既に見たように)nもmも偶数であることが分かる。
従って、n/mは既約でない。すなわちh/j = n/m, m>j≧1を満たす整数h,jが存在する。
仮定『自然数jがm>j≧1を満たすならQ(j)である』によりh/jは√2ではない。
ゆえにn/m≠√2。
ゆえに、Q(m):「どんな整数nについてもn/mは√2ではない。」が証明された。
以上から、どんな自然数mについてもQ(m)であることが示された。
★ここでは帰謬法が使われていない! でもジレンマを使っています。
ジレンマは、「AならばPである」と「AでないならばPである」から「Pである」を導く推論ですが、上の例ではAの所にPを代入して、「PならばPである」と「PでないならばPである」から「Pである」を導く、という形で使いました。前者は自明であり、実質「PでないならばPである」を証明するだけです。
一方、帰謬法は「PでないならばAである」と「PでないならばAでない」から「Pである」を証明します。Aの所にPを代入すると、「PでないならばPである」と「PでないならばPでない」を証明することになり、後者は自明ですから、実質「PでないならばPでない」を証明するだけです。つまり、ジレンマと帰謬法はA=Pとしたときには同じものになる訳です。
言い換えれば、帰謬法をジレンマの形に化けさせて使うことができます。これはズルですよね。
●どうにも、帰謬法が止まりません。じゃあ、もっと他の方法は?
√2を計算するには近似値g[0] = 2 からスタートして、
g[n]=g[n-1] /2+1/g[n-1]
を繰り返し計算する方法があります。(てゆーかー、今作りました)
ε[n] = g[n]-√2
と定義すると、n=1,2,....について(2-√2)≧ε[n-1] , (1/√2-1/2)ε[n-1]>ε[n] ≧0, g[n]>√2が成り立つことは簡単に証明できます。ここで、0<(1/√2-1/2)<1だから、ε[n]は0に単調に収束し、従って、g[n]は√2に単調に収束します。計算方法から、g[n] (n=0,1,2,....)はどれも有理数であることは明らかです。
同様に、h[0]=0、h[n]=2-2/(h[n-1]+2) は√2に、h[0]<h[1]<....<√2と単調に収束する有理数の列です。だから、
h[n]<√2<g[n]
である。こうして、√2は「x^2=2の解」なんて抽象的なものではなく、幾らでも正確に計算できる具体的なアルゴリズムで記述されるようになりました。でも、「h[n]とg[n]の間」という範囲に入る有理数は、nをどんなに増やしてもなお無限個あります。そのどれもが√2ではない、ということを証明しなくてはならない。つまり、ここまで絞り込んでも、結局「××ではないもの」というパターンからは逃れられません。
●では、「帰謬法を使ってはいけない」というルールの数学を考えたとき、√2が有理数でないことを証明できなくなるんでしょうか?
帰謬法とは「Aでないならば矛盾である。ゆえにAである」ということですけど、「Aでないならば矛盾である」を証明するのを禁じる理由はありません。だから『「Aでないならば矛盾である(=「Aでない」は成り立たない)」から「ゆえにAである」と言ってはいけない』と決めるしかない。つまり「帰謬法を使ってはいけない」ってのは、
排中律:「どんな命題Aも、AであるかAでないかのどちらかである。」を使ってはいけない
ということに他なりません。(だからジレンマも対偶も使えません。)さらに言い換えれば、「『Aである』が成り立たない」と「Aでない」とは別の事を意味している、という論理体系です。
これは非常に制限が強い。たとえば、
「2=√2ではない」の証明:2はx^2=2を満たさない。
というのが証明になっているかどうか。詳しく考えますと
2=√2と仮定する。
√2の定義から、(√2)^2=2である。仮定により2^2=2である。
一方2^2=4だから、2=4である。
これは矛盾である。だから「2=√2ならば矛盾」が示された。
ゆえに「2=√2ではない」。
というわけで、帰謬法が(こっそり)使われている。
●きちんと定式化してみましょう。
「排中律を禁止する体系Xでは『√2が有理数でない』ことは証明できない。」を証明せよ
という問題です。これは、数学の体系を対象とした数学、すなわち超数学の命題です。証明せよと言っているこの証明は排中律を禁止する体系Xの中で行われるのではなく、従って排中律を使うことができます。体系Xではどんな推論が許されているのか(無論、排中律が定理として導かれるような推論規則は全部禁止です)をきちんと調べておかないと、この問題は解決できないでしょう。そもそも有理数とその四則演算を定義するまでの段階で排中律を使っていないかどうかのチェックをしなくては意味がありません。大仕事ですね。
もっと一般化して
「排中律を禁止する体系Xでは『xが命題A(x)を満たさない』ことは証明できない」ようなAとはどんなものか
という問題と捉えることができます。どんな命題なら『xが命題A(x)を満たさない』が証明でき、どんな命題ならできないか。
No.5
- 回答日時:
No.3にちと補足です。
> 「√2が無理数である前に、実数であることをしめさなければいけないんじゃない?」
No.4(ibm_111さん)のコメント、まさにその通りです。無理数とは「有理数でない実数」のことだから。
もし「√2が有理数でないことを示す」だけなら、「方程式x^2=2は有理数の解を持たない」つまり「xが有理数ならx^2≠2」が証明できればよく、√2が実数であることを示す必要はない。ご質問の重点はこっちにあるんでしょう。
一方、「√2が実数である」こと、すなわち「x^2=2のx>0である解が実数である」ことの証明は、解に収束する有理数の列を構成する方法を示せば充分です。(これはNo.3参照。)
ただし、「どんな実数xについても、xに収束する有理数の列を構成する方法が存在する」という訳ではない。そのような方法は高々加算無限個しか存在しませんが、実数の個数は加算無限個より多いからです。
ついでにNo.3の訂正です。
> ★ここでは帰謬法が使われていない! でもジレンマを使っています。 …つまり、ジレンマと
> 帰謬法はA=Pとしたときには同じものになる訳です。
の部分で、
×「一方、帰謬法は…後者は自明ですから、実質「PでないならばPでない」を証明するだけです。」
ってのは間違いでして
○「一方、帰謬法は…後者は自明ですから、実質「PでないならばPである」を証明するだけです。」
に訂正します。
No.2
- 回答日時:
Myrddin さんのご回答で「帰謬法」と「背理法」とは同じことです.
本題は自信がありません.
無理数の定義が,「整数比で表されない実数」ということですから,
背理法以外の証明はないような気がします.
No.1
- 回答日時:
ちくま学芸文庫に「オイラーの贈り物」(吉田 武 著)という本があります。
ここに、「無理数であることの証明」が出ており、ここでは「帰謬法」が使われています。
……これも背理法の一つでしょうかね?
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