No.2ベストアンサー
- 回答日時:
>空と実相とは同じ状態なのでしょうか
似た部分もありますし、かなり違う部分もあります。
「諸法実相」という言葉の解釈に幅があるからです。
「諸法実相」はいわば大乗仏教のひとつの旗印でもあります。
単に“法”と言えば多様な意味があり、歴史的にも少し変遷がありますが、大乗での“諸法”とはこの世のあらゆる現象、存在を指す言葉です(万法、一切などとも言います)。
また、“実相”とは真実の姿、本来の真理の様子というような意味です。
この二つをつなげて「諸法実相」とした時、大きく分けると「諸法の実相」とする解釈と、「諸法は実相である」とする解釈の2つがあるのです。
まず、「諸法の実相」と読めば「ありとあらゆるものの真実の姿」というような意味になります。これは言葉では理解できないものとされますし、その意味で「真如」「一如」「法性」など、いろいろな言葉と意味が重なってきます。これを体得することが究極の涅槃である、などとされるわけです。
もちろん、一切皆空の立場に立てば全てが空ですから、「実相」も空に他なりません。真実それ自体も含めて一切が空である、ということも真実の姿のいち側面ですから、現実問題として経論を作成したり翻訳する際に、諸法実相を空と関連づけて説く人たちも多くいました。
この意味では、「一切皆空」と「諸法実相」はかなり近寄ったニュアンスで使われていたと言えます。
ただ重要なことは、空と結びついて「実相」が説かれる場合には、多少なりとも現実に対する否定的な意味が込められがちであったこと、です。
空はそもそも何のために主張されたかと言えば、思い通りにならないこの世の存在すべてに対する執着を離れるためだったのですから、空のニュアンスを持った「諸法実相」も、現実そのままをまるごと肯定するものではあり得なかったのです。
これに対して、歴史的に後から生まれたのが「諸法は実相なり」という立場で、“世の中の存在や現象は、そのままの姿で真実の姿を表している”というのがその主張です。つまり、現実をまるごと肯定する論理なのです。
天台では「差別即平等」、華厳では「理事無碍」などの言葉でも表現されますが、物事を成り立たせている法則である理(理念)と、実際に存在する事(物事や現象)とを結びつけて、現実世界における仏性の開発を目指す教えとなりました。
禅宗もこの立場を受けついでいます。禅語には、たとえば「雲は自ずから往来し山は自ずから青し」とか、「高処は高平、低処は低平」など、自然の風光そのままを詠んだものが多くありますが、作為のないそのままの自然が仏の姿だ、という上記の立場にたって、自然の姿を詠みつつ“実相”を説いているわけです。
このような立場に立てば、「諸法実相」における「空」のウェイトは意識のうえでやや低いものになっているといっていいでしょう。ただもちろん、空をことさらに取り上げないだけで、根底では空である現実を肯定しているのですから、空を否定するものでないことは当然ですが。
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