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ダールの提唱する手続き的な民主主義論について教えてください。

アメリカの民主主義は本当の民主主義ではないと言われているが、ダールは多元主義の見方からアメリカを擁護していると聞きました。

これはどういうことでしょうか?
教えてください。

A 回答 (2件)

失礼だけど、デモクラシーとリベラリズムの関係はわかっていますか?


デモクラシーとリベラリズムはよく混同されますが、全く意味が違います。

デモクラシーはギリシャの時代からあるもので、自己統治、つまり治める者と治められる者が一致する体制のことです。その実現には、積極的な政治参加が必要になります。

一方で、リベラリズムは近代国家が生まれてからできたもので、国家が個人の生活に介入しはじめてから、それに対抗して国家の介入できない自由の領域を確保するために生まれたものです。
ですから、もともとリベラリズムは個人主義と関係が深いのですが、もうひとつの側面として、個人の自由を守るといういう意味で、リベラリズムは国家権力と戦うための拠点としてアソシエーションを重視する点にもあります。
結局、リベラリズムというのは国家権力からの個人の自由を唱える個人主義と、結社の自由を強調する多元主義、という2つの(一見矛盾するような)特徴を持っているのです。

ともかく、デモクラシーとリベラリズムが性格を異にすることは踏まえないといけません。

“デモクラシーの牙”というのは、回答に何度も書いている「専制の危険性」と、それを回避しようとして起きがちな「エリート主義の危険性」です。
例えば、これはトクヴィル以来の見解ですが、アメリカは新天地ですから人々の平等が過剰に信仰されやすい国です。これが行き過ぎると、多数意見だから正しい、というふうになりがちで、多数者の専制を招きがちになります。
しかし、この「専制の危険性」を懸念するあまり、大衆のレベルを信用しないで少数者エリートによる政治に重心を移してしまうと、デモクラシーそのものの存立が脅かされてしまうことになります。
つまりデモクラシーという理想は、現実に成立されるには割と微妙なバランスが必要なのであって、この辺りの感じを“デモクラシーの牙”と書いたのです。

ダールは、この問題に対する彼なりの解決として、先の回答に述べたように多元主義をデモクラシーに導入することで、リベラル・デモクラシー(この言葉自体はダールが作ったわけではない)として安定化させようとしたのです。
これを、デモス、つまり政治参加の単位を個人からアソシエーションに移したデモクラシーと見ることもできるでしょう。
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この回答へのお礼

>失礼だけど、デモクラシーとリベラリズムの関係はわかっていますか?
全くの初心者ですので、よくわかりません。
neil_2112さんの丁寧な説明で、ココをまず踏まえないことには正しい理解は得られないのだな、ということが分かりました。
アメリカの民主化支援や軍事介入って何なのだろう?どこからこのような概念が生まれたのだろう?という疑問から素人なりに調べた末に生まれた質問でした。
neil_2112さんが難しいコトを噛み砕いた表現で説明してくださったお陰で、縺れていた糸が少し解れたように思います。
ありがとうございます!

お礼日時:2002/07/23 23:43

>ダールは多元主義の見方からアメリカを擁護している



ダール自身の整理によると、アメリカのデモクラシー論は大きく2つあります。

ひとつは、人民主権、政治的平等、多数決を原理とするもので、言わばポピュリズム的なデモクラシーです。
これにはいろいろと批判があって、たとえば政治的単位の問題に加えて、多数者がデモクラシーそのものを否定したらどうなるのか、つまり多数者の統治はそもそも可能なのかどうかはっきりしない、というような批判をダールも提示しています。

これに対して、そもそもどんな個人や集団も自然に任せれば他者に対して専制的になってしまう、という認識から考えられたデモクラシーのモデルがあります。これがダールの採用したモデルの原型です。

このモデルでは、少数者の専制に対しては、まず議会制度の多数決制度でこれを排除しようとしました。
また多数者の専制についても、規模が十分に大きな社会では利害が多様化するので、単純な多数者形成が難しくなる、という風に考えたのです。
立法・司法・行政の間で権力分立を図ったり、各州代表による上院を設けて多数意見を直接に国の施策に反映しにくくしたり…といった仕掛けは、各機構間や州・連邦間に緊張感を作り、デモクラシーに抑制と均衡を生むことを狙ったものです。

ダールは、基本的にこの後者の立場に立ち、そのうえで、いわゆる多元主義(彼のいうところの“ポリアーキー”)を提唱しました。

多元主義というのは、デモクラシーの欠点を補正して、多数者であれ少数者であれ、専制を防ぐために、ひとつの意見が全体を覆ってしまわないようにする必要から生まれたものです。そのために、政治活動だけでなく企業活動、人種、階層、宗教、民族…など社会の各方面で多数のアソシエーションがいろいろなレベルで存在することが健全なデモクラシーのもとになる、とダールは考えたのです。つまり、社会の内部に多元的な組織が存在し、それらの間で適切な緊張関係が維持されることで専制を防止する、という立場です。
あるアソシエーションの中で仮に少数者の専制があったとしても、社会に十分な数のアソシエーションがあって、競争関係が保たれていれば、どんなアソシエーションであれ、社会的に独裁を行うことは不可能になるわけです。
別の角度から言えば、ダールは社会に多元性を持ち込むことでリベラリズムを強化し、デモクラシーの危険な牙を抜いた、と言うこともできるでしょう。

>アメリカの民主主義は本当の民主主義ではない

そもそもルソーの言ったような本来のデモクラシーの原則は、自己統治のために内部の同質性が必要(=誰もが政治に参加し得る能力や意識を等しく持つ)ですし、そのためにどうしても社会は小規模なものにならざるを得ません。
これを本来のデモクラシーだとする観点からすれば、ご質問のように“アメリカの民主主義は本当の民主主義ではない”という批判もできるのでしょう。
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この回答へのお礼

早速の回答をありがとうございます!
非常に参考になりました。

>ダールは社会に多元性を持ち込むことでリベラリズムを強化し、デモクラシーの危険な牙を抜いた、と言うこともできるでしょう。

これは具体的にはどういうことなのでしょうか?
教えてください。

お礼日時:2002/07/23 21:50

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