No.3ベストアンサー
- 回答日時:
メルロ=ポンティの『知覚と現象学』の中に、失語症(のなかの色名健忘症)の人の話が出てきます。
彼らに、さまざまな色合いのリボンの寄せ集めの中から、たとえば青いリボンを集めてください、と言った場合、いくつかのリボンを並べたりして、一目で「青」を見出すことができず、集めるのに大変に時間がかかるばかりでなく、たとえば最後に持ってきたリボンが褪色した色調の青だったとすると、集めてきた青いリボンのグループの中に、同じように褪色した緑や赤などのリボンをつけ加えようとする、というように、通常では考えられない間違いを犯してしまう、というのです。
これは被験者が「青という色」を認識できないわけではなく、「青」という色名を失ったことによって、具体的なリボンのなかに「青」という本質を見出して、そのもとにカテゴライズする能力を失ったことを意味します。
逆にいうと、私たちは普段ものの「色」を見ている、と理解していますが、実は色そのものではなく、「色名」ということばによってカテゴライズし、認識している。それを「知覚」と呼んでいるのです。
よく知っているものごとであっても、それの名前が思い出せないとき、非常に居心地の悪い思いがする、あるいは、誰かと話しているうちに、漠然としていた考えが、具体的になってくる、といったことは、日常的に誰しもが経験していることです。
自らの内側にある「思い」を言葉にする、それは、自分に向けての内面的な言葉であっても、他者に向けての外面的な言葉であっても、なんであれ言葉にするということは、「われわれの思考を自分にあたえるという意味で、それはたしかにひとつの思考経験である、と。思考はなるほど瞬間的に、まるで稲妻の発するような具合に進んでゆく。しかし、そのあとにまだ、それをわがものとする仕事が残っているのであり、表現をつうじてこそ、思考はわれわれの思考となるのである。事物の命名は、認識のあとにもたらされるのではなくて、それはまさに認識そのものである」(メルロ=ポンティ『知覚の現象学』みすず書房)
このように、メルロ=ポンティは、私たちが考えることと言葉の間の非常に密接な結びつきを明らかにしてみせます。
では、私たちが考えている言葉を言葉として認識するのは、どのようなやり方なのでしょうか。
それはおそらく音以外に考えられないと思います。再度メルロ=ポンティをひきます。
「語り手は話すまえに考えるのではないし、話すあいだに考えるのでもない。語り手のことばが思考そのものである。(…略…)語はわたしの言語的な世界のひとつの特定の場であり、わたしの装備の一部である。わたしがそれを表象するには、ひとつの方法しかない。それを発音することである」
頭の中で言葉にする、というのも、一種の発音であるととらえることができると思います。
>また、聴覚の障害等で言葉を「音」として体験した事がない方の場合はどうなんでしょうか。
私は聴覚障害者の方が言葉をどのように認識していらっしゃるかはわかりません。
ただ私たちは通常、視覚、聴覚といった知覚は、眼や耳の感覚器官が行っていると思いがちですが、たとえば実際には網膜で見ているわけではなく、網膜はただのフィルムであって、実際には網膜からの情報が電気信号となって大脳皮質に伝わり、そこで形態的に認識しているのだそうです。
私たちが「見る」「聞く」と表現している行為も、実際には脳が司っている行為であって、それは言葉と密接な関係があることは、メルロ=ポンティがあげた実験の例からもあきらかであると思います。
聴覚障害の方がどのような言語認識をもっていらっしゃるのかはわかりませんが、やはりなんらかの形で「言葉」で思考していらっしゃることは同じだと思います。
>質問するカテゴリーが間違ってそうな気もしますが
間違っていません。
現代哲学の中心的テーマは、言語と思考の問題です。
ただ、この回答が質問者さんの問題意識と合致するものであるかどうかは、自信はまったくないのですが(^^;)。
ご回答ありがとうございます。
大変まずい文章での質問でしたが、ビンゴな回答を頂き感激です。
非常に丁寧な説明で、「言葉で思考する」と言う事が良く分かりました。
ポンティさんの話はとても興味深いですね。
ぜひ、その著書も読んでみたいと思います。
聴覚障害者の方の話は、面白いといっては大変失礼なんですが、
自分の知らない、まして外国語でもない、内側から編み出された言葉で
思考されているんだろう。それは頭の中で発音されているのだろうか。
…等々、考えただけで頭がクラクラしてきます。
頭の中で「う~ん」と唸ってる自分に気付き笑ってしまいました。
しかし、エキサイティングですね。これが哲学というものなんでしょうか。
フィクションなんかより、よっぽど面白いと思いました。
No.5
- 回答日時:
耳が聞こえないひとも言葉を理解するからといって、
言葉に「聴覚」は必要ではないとは言えませんよね。
じゃ、逆に
目が見えないひとも言葉を理解しますが、
言葉に「視覚」は必要ないとも言えないと思うんですが。
さらに目も耳も不自由なひとも・・・・
どうでしょう?
って質問しちゃいました。
すいません。
No.4
- 回答日時:
言葉によってなされる思考があることはまちがいがないでしょうが、
言葉によらない思考も存在します。
そして、どの形態の思考が得意かは、人によると思います。
つまらない結論ですが。
囲碁・将棋などをやった人はわかるでしょうが、
ゲーム中の思考過程は視覚的なものです。
言葉は補助的にしか役に立ちません。
数学はわりと「言葉」に近い分野ですが、
それでもたとえば「位相空間」を理解するとき、
言葉だけではどうしようもありません。
視覚的な理解、あるいは視覚以前の概念的な理解を使います。
ときには、言葉でも視覚でもない、
はっきりしない概念を使って思考することもあります。
「あの概念がドーンと有って、この概念がガツンと来て、
だからニーチェはああいうことを言ったのだな…」
というふうに。
音楽・絵画なども、思考の産物であることはまちがいありません。
しかし芸術家は、おそらくは言葉によらず、
音楽そのもの、絵画そのものの概念によって思考しています。
それを無理に言葉に直そうと思うと苦労します。
芸術家の文章がわけのわからないのはそういうわけです。
ご回答ありがとうございます。
おしゃる通り、確かに言葉以外での思考も経験ありました。
自分は芸術家でも何でもないですが、
絵を描こうとする時等は、やはり視覚的なイメージで思考します。
ただ、まったく言葉無しで思考する事は自分には難しいですね。
ブルース・リーの「考えるんじゃない、感じるんだ」
という言葉を思い出したんですが、
もしかして天才と呼ばれる人達は、考えているのではなく
何かを感じ取っているのかも? と思いました。
No.2
- 回答日時:
こんばんわ、疑問はつきませんね。
さてご質問の件ですが、私自身少し学生時代に言語学を勉強したことがあります。(独学でしたので、実際は全くの素人ですが)
言語学の立場から言うと、音というより、言語で物事を考えているのだと言います。生まれたときからの聴覚障害の方であっても、手話等による言語体系の中で、論理的な思考を身につけていきます。
私たちが世界を見るとき実は、言語というめがねを通してみています。例えば空にかかる「虹」誰がどう考えても、虹は7色だと考えていますが。言語によっては、6色だったり、4色だったりします。これは、中間の色を表す言葉がない、ということに起因するのですが。実は、その言語を使っている人には、その中間の色が見えないのです。つまり、「赤に近い青」で合ったり「茶色に近い黄色」であったり。「紫」に該当する言葉がないため、その色事態を認識できないのです。
つまり、私たち人間は、目で識別できたとしても、それを認識する言語によって理解しているのです。その言語という部品によって、世の中を理解し、ひいては物事を考えていくことができるのです。
こう考えるのが「記号論」「構造主義」と言われる考え方です。音で考えるのではなく、音を使った言語で考えるのです。
ご回答ありがとうございます。
虹の色の話はどこかで聞いた覚えがあります。
その時はただ「へ~」と思っただけでしたが、
まさかこんな所でヒントになるとは。
「記号論」「構造主義」等、キーワードを頂いたので
ヒマを見つけて自分でも勉強してみようと思います。
今回ひとつの答えが見つかった気がして、すっきりしましたが、
まだまだ疑問はつきませんね。
それはまた改めて質問させていただこうと思います。
No.1
- 回答日時:
僕自身もものを考えるときは頭の中でしゃべりながら(状況が許せば実際に声に出しながら)考えます。
気分としてはもう1人誰かに自分の考えや疑問点を説明している感じです。言葉にすると結構自分の主張がハッキリしてきて意外と名案にたどりつきやすいですね。
あとこれは蛇足ですが人間は文章を読むとき必ず目で追うのと同時に頭の中でその文章を読んでいるそうです。(この文章を読みながら体感してください)なんでも「追唱」とか言うらしいです。
この辺はよく分からないんで誰か詳しい人が現れるのを待ちましょうw
ご回答ありがとうございます。
まずは、自分以外の人も同じ様に思考すると知って安心しました。(笑)
「もう1人誰かに考えを説明している感じ」という表現が面白いですね。
確かに、自分と対話する様な、そういう感覚があります。
「追唱」という言葉(体感させて頂きました)は始めて知りましたが、
こうやって言葉を覚えていく事で、思考力も上昇したりするんじゃないかと
思ったりしました。
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