
カントという人が書いた書物の解説本で、「感性」と訳されているものは、元はSinnlichkeitらしいのですが、文脈から言うとSinnlichkeitよりもEmpfindlichkeitのほうが相応しいのではないかと思いました。
もちろん、カント氏が書いた文書を否定する訳ではございませんが、私が違和感を持つのは、独日辞書の記述が間違っている(いや、ミスリードと言うべきか)からではないか、などと疑問が尽きません。
カントの著作からいったん離れて、一般にドイツ語でSinnlichkeitと言うときにには、なにかエロティックな「ウッフン、感じちゃうわよ!」的な感性を示すのではないでしょうか。
それに対して、Empfindlichkeitは、エロチックな「感じちゃう」ではなくて、「生物が外界の現象を情報として入力する」的なニュートラルな感受性を意味しているのではないでしょうか。
ドイツ語の学生、教員、ドイツ以後の母語話者、それに市井のドイツ語愛好家など、ドイツ語の知見をおもちの諸兄より、アドバイスいただければありがたいです。
どうぞよろしくお願いします。

No.1ベストアンサー
- 回答日時:
疑問はごもっともですが、Empfindlichkeitは「感性」の意味には使えません。
empfindlichという語は、外界からの物理的な刺激に対する感覚の反応が「敏感」であるという意味で、
「光が眩しいと感じる」(視覚)とか、ちょっとした雑音でも「うるさいと感じる」(聴覚)とか、
少しの刺激でも「皮膚に異常が出る」(触覚)などのような状態を形容します。
心理的に使う場合でも、「他人の言うことに敏感、傷つきやすい」などのような意味です。
いずれにしても、感じ方の「度合」を意味する語で、写真のフィルムなら「感度」を意味します。
カントのいうSinnlichkeitは、上位の認識能力であるVerstandに対する下位の認識能力で、
感覚による受容能力を指します。感覚によってのみ、対象が直観できるとされます。
感覚によってとらえられた対象が理性によって思考され、そこから概念が発生します。
Die Fähigkeit (Rezeptivität), Vorstellungen durch die Art, wie wir von Gegenständen affiziert werden, zu bekommen, heißt Sinnlichkeit. Vermittelst der Sinnlichkeit also werden uns Gegenstände gegeben, und sie allein liefert uns Anschauungen; durch den Verstand aber werden sie gedacht, und von ihm entspringen Begriffe.
現代ドイツ語では、確かにSinnlichkeitは性的なニュアンスに使われることが多いのですが、
独和辞典を引いても、普通、その意味は最初には書かれていないはずです。
もちろんSinnという名詞からきていますが、これは語源的にはsinnenと同系で、
「行くこと」「旅すること」などが最初の意味です。
そこから、ラテン語などとのからみでいろいろと意味の変遷が起きたようです。
現代ドイツ語のSinnは多義ですが、sinnlichに直接関係する第一の意味は、
「感覚器官に依存する感受と知覚の能力」
Fähigkeit der Wahrnehmung und Empfindung (die in den Sinnesorganen ihren Sitz hat)
(Duden)
ほかに、「ユーモアのセンス(Sinn für Humor)」という場合の「センス、感覚」、
「言葉の意味(der Sinn des Wortes)」という場合の「意味」、
「人生の意義(der Sinn des Lebens)」という場合の「意義」などいろいろです。
形容詞のsinnlichは、まず第一にSinnの最初の意味からくる「感覚的」に当たり、
「sinnlich wahrnehmen」といった場合は、視覚や聴覚などにより直接感じ取ることを言います。
古い時代のことを言うと、sinnlichという語は最初意味が明確ではなく、
sinnigのように「賢い」「気の利いた」の意味でも使われており、
性的なニュアンスが出てくるのは近世になってからです。
もちろんカント以前、ルターの時代にはその意味がすでに出てきています。
しかし、18世紀でもまだ「sinnvoll」「sinnreich」「sinnig」「geistreich」の意味は残っています。
以下、グリム兄弟のドイツ語辞典からの抜粋です。
(グリム兄弟は、固有名詞以外は大文字の使用に反対の立場を取っていたので、すべて小文字表記です)
sinnlich
1) die bedeutung des wortes zeigt nach ort und zeit beträchtliche verschiedenheiten. in den früheren zeiten wird es noch nicht scharf von den andern ableitungen von sinn, besonders sinnig, gesondert (…) so wird es mhd. mnd. für 'verständig, klug' u. ähnl. gesagt (…) noch im 18. jahrh. bei Wernike für 'sinnvoll, -reich, sinnig, geistreich'
2) dagegen hat in neuerer zeit die bedeutung von sinnlich consequent eine abweichende richtung eingeschlagen, welche nicht vom sinn (willen, verstand u. s. w.), sondern von den sinnen als den organen der äuszern wahrnehmung und einer mehr körperlichen lustempfindung und begierde ausgeht, und sich reich und mannigfach entfaltet hat
上記2)が、性的な意味(mehr körperlichen lustempfindung und begierde)についての解説です。
現代ドイツ語でのSinnlichkeit、およびsinnlichの「感性」という意味での用法の例。
Die Sinnlichkeit der Kunst des Barocks バロック芸術の感性
Die literarische Sinnlichkeit 文学的感性
Der sinnliche Höreindruck 感覚的な耳で聞いた印象
グリム兄弟より前で、カントと同時代のAdelungによる辞書では、
Sinnlichkeitを性的なニュアンスで使うのはまだ「まれ」となっており、
主な意味は、「外界の事物の知覚」「外界の事物を感覚によって知覚する能力」、
「感覚的な知覚に基づいて決定する技量」です。
カントに先立って、「美学」を最初に提唱したバウムガルテンが、
「感性」の意味でsinnlich、Sinnlichkeitを使っており、
カントはそれを受け継いでいますが、
すでにバウムガルテンがこのSinnlichkeitという語の多義性に用心しており、
誤解を招かないよう説明、定義していることがグリムの辞書にも出ています。
感性と理性の区別はバウムガルテンにすでにありますが、
本質的な区別はカントによって達成されます。
Sinnlichkeit(感性)はpassiv(受動的)、Verstand(理性)はaktiv(能動的)ということになります。
日本語の文章からドイツ語に翻訳するときは、
文脈によっては「感性」をSensibilität(感受性の強さ)と訳した方がよい場合もあるかもしれませんが、
これもニュアンスとしてはEmpfindlichkeitに近くなるので、
哲学で使う「感性」に当てられる語はSinnlichkeitしかないと思います。
私は昔、ドイツ語で書いた小文で、「感性」の意味でSinnlichkeitを使ったことがありますが、
のちに知らない間に英訳されており、sensuality(官能性)と誤訳されていました。
たぶん翻訳ソフトを使ったのだと思いますが、注意しなければいけないことは確かです。
深い知識をベースにご丁寧なアドバイスを頂き、大変ありがとうございます。
Sinnlichkeitがpassivで、Verstandはaktiv、大変参考になります。
Vernunftもaktivでないとならないでしょうね。
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