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私は人が書字するメカニズム(人が言葉を聞いて、それを書くまでの段階)は下のようになるのではないかと考えています。
〔聞く〕
↓
〔環境音と音声とを区別〕
↓
〔言語音と判断し、日本語と分かる〕
↓
〔語彙として捉える〕
↓
〔イメージしてカテゴリー化〕
↓
〔意味理解〕
↓
(1) (2) (3)
↓ ↓ ↓
〔文字を想起〕 〔絵をイメージ〕 〔音韻想起〕
↓ ↓ ↓
〔書く〕 〔意味想起〕 〔音韻配列〕
↓ ↓
〔音韻想起〕 〔文字と結ぶ〕
↓ ↓
〔音韻配列〕 〔書く〕
↓
〔文字を結びつける〕
↓
〔書く〕
意味理解の後は、こういう三つに分かれて、書く段階に至ると思うのですが、これであっているでしょうか。
どなたか教えてください。
A 回答 (1件)
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No.1
- 回答日時:
こんにちは。
このようなものは、生理学的にはある程度の脳の機能や構造に基づいて、あるいは、最低でも心理学的な行動分析によって記述されるものでありまして、質問者さんのお考えが正しいかどうかは別と致しまして、残念ながらこれでは、やはり独創的な見解としか申し上げられません。
このような条件が必要であるはずだ、これもあり得るはずだ、質問者さんがそのようにあれこれとお考えになるのは、経験上、私にも良く分かります。それは、我々の脳内では言語行動というものを実現するために、言語処理機能を有する複数の言語中枢がたいへん複雑なネット・ワークを組んで一斉に信号をやり取りしているからなんです。従いまして、これを上手く整理しようとするならば、少なくとも神経系の一般的な構造と、それぞれの言語中枢の機能というものをそれなりに理解する必要があります。
「聞く」というのは感覚神経系を介した入力情報に対する「認知作業」であり、「書く」といいますのは運動神経系への出力に基づく骨格筋の随意運動です。大脳皮質などの高次領域を中継中枢とするこのような神経系の複雑な入出力反応は、基本的には「知覚」「認知」「行動」というプロセスを辿ります。そして我々人間の場合、そこに「言語中枢」というものの働きの伴うものは、それぞれ「言語知覚」「言語認知」「発語行動」ということになります。
言語中枢としての働きを持つ大脳皮質の領野は大雑把に四つありまして、「言語認知」の作業に関わるのか「言語行動」に携わるのかによって「感覚性言語野」と「運動性言語野」に分けられます。
「聴覚言語野(ウェルニケ野)」及び「視覚言語野(角回)」は、それぞれに話し言葉や文字など、感覚性の言語情報の入力に対する知覚・認知を行う「感覚言語野」です。これに対しまして、「運動言語野(ブローカ野)」は、運動中枢を介して口の筋肉や声帯の動きなどを統合してコントロールし、正しく発話するための情報処理を行います。そして、ご質問の「書字」に関しましては、中前頭回後部に「書中枢」と言われる機能中枢がありまして、これが、我々が文字を書くという発語行動を実現するための、もうひとつの運動性言語中枢であると考えられています。
このような、大脳皮質における言語中枢機能の局在に基づきまして、「話し言葉を書き取る」という、聴覚性言語の知覚・認知による発語行動のプロセスを簡単に纏めますと、以下のような流れになります。
1.「聴覚器官(耳)」:聴覚情報の信号化
2.「聴覚神経(内側膝状帯)」:聴覚情報の伝達
3.「聴覚野(一次聴覚野など)」:聴覚情報の階層的な分類処理
4.「聴覚言語野(ウェルニケ野)」:聴覚情報の言語知覚及び認知
5.「視覚言語野(角回)」:聴覚言語の視覚化
6.「運動言語野(書中枢):視覚言語の構造化
7.「運動前野・補足運動野」:運動計画の組み立て
8.「一次運動野」:運動神経系への命令出力
聴覚器官で信号化された外界の聴覚情報は、聴覚神経を通って聴覚野に送られます。一次聴覚野といいますのが大脳皮質における聴覚情報の入り口であり、ここから二次・三次といった高次中枢に伝達される過程で聴覚情報の階層的な処理が行われます。
耳から取り込まれた聴覚情報は「音の大きさ」や「音の高さ」、「音質」「音の変化」「音の方向」といった細かい性質によって分類され、聴覚野内を分岐しながら伝達されます。聴覚言語処理の最終中枢であります「聴覚言語野(ウェルニケ野)」は、分岐処理され、選別されながら送られてきた情報の中でも、言語としての特徴を持つものにしか反応しません。ですから、ここが情報を受け取った時点で知覚作業は完了することになります。聴覚言語情報として知覚処理された知覚情報は、しばらくの間ここに短期保持されますので、それで初めて意味や対象の理解といった、ウェルニケ野を中心とした認知作業や記憶処理、行動選択といったものが可能になります。
ですから、質問者さんが例に挙げました
〔環境音と音声とを区別〕〔言語音と判断〕〔語彙として捉える〕
などといいますものは、「知覚処理」の過程で行われることでありまして、そして、
〔イメージしてカテゴリー化〕〔意味理解〕〔日本語と分かる〕
といったものは「認知処理」ということなります。
ですが、「視覚イメージ」が「聴覚言語野(ウェルニケ野)」で知覚されるということはありませんし、「音韻イメージ」といったものも、恐らく聴覚野領域での分岐処理の段階でウェルニケ野には送られず、他の情報と一緒に「一般の聴覚知覚野」で認知・記憶されるのではないかと思います。そして、もしこれが再現される場合は、ウェルニケ野に想起された言語記憶に基づく「運動言語野(ブローカ野)」での発話行動の段階で、一般の聴覚記憶として保管されていた「音韻イメージ」が聴覚知覚野に呼び出されることによって連合されるということになるはずです。
「聴覚言語野(ウェルニケ野)」に保持される知覚情報は音韻処理されたものですから、これを文字として扱うためには、一度「視覚言語野(角回)」に送り、形態処理される必要があります。角回は、文字などの視覚言語を知覚・認知するための言語中枢ですので、ウェルニケ野の聴覚知覚は、ここに送られることによって視覚情報に変換されます。
このように、書字の運動言語中枢である「書中枢」に送られてきますのは、角回を通って視覚言語に変換された情報です。書中枢では、文字の種類や順序といったものを正しく扱うことができます。「運動前野・補足運動野」は、この書中枢内で構造化された言語情報に従い、実際に文字を書くためにどの指の筋肉を動かしたら良いのかといった運動計画が組み立てられ、運動命令は「一次運動野」を介して運動神経系に出力されます。
ですから、聴覚情報は文字と結び付けるために「視覚言語野(角回)」に送られて視覚情報に変換されるわけですから、質問者さんが(2)のプロセスで述べておられますような、「視覚イメージ」が音韻処理されて文字と結び付くというのはちょっとあり得ません。因みに活字を見て、それを声に出して音読するなどといった場合でありますならば、角回で知覚された視覚情報は、逆にウェルニケ野で聴覚情報に変換してから、喋るための中枢「ブローカ野」に送られなければなりません。また、言語記憶情報の想起といいますのは、感覚言語野でありますウェルニケ野及び角回内で行われるものでありまして、ここから運動言語野であるブローカ野もしくは書中枢に対して聴覚言語情報や視覚言語情報がきちんと送られますならば、それぞれに「喋る」「書く」といった発語行動は滞りなく実現します。
ここで、「聴覚言語野(ウェルニケ野)」と「視覚言語野(角回)」は、それぞれに音声言語や文字言語の意味を理解するという認知機能を持っています。ですが、ウェルニケ野にしましても、角回、書中枢にしましても、各言語中枢はお互いが直接連絡の経路を持っていますので、知覚情報さえやり取りされるならば必ずしもきちんとした認知が成されなければならないという理由はないんです。つまり、書くにしましても喋るにしましても、そのたびに意味をひとつひとつ理解したり、文字のイメージを頭に思い描いたりする必要は特にありませんし、我々がそれを日本語として認知するなどということは、恐らく日常ではほとんどないと思います。
では、認知する必要がないからしないというわけでは決してなく、例えば同じ漢字にしましても、自分の名前なんてのは誰だって何も考えなくともすらすらと書けてしまいますよね。ですが、ちょっと難しい字や纏まった文章となりますとそれほど簡単ではありません。
このように、どちらかといいますならば、これは情報に対する処理水準の高さに関わる問題でありまして、どの程度の認知が成されるのか、あるいはどのような情報が長期記憶として保持されるのかといったことは、情報の重要性や脳の覚醒状態によってもその都度変わってしまいます。試験勉強のために一生懸命に筆記暗記をしているならば、当然のことながら意識は高いレベルにありますが、取り敢えず書き取っておいてあとで読めば良いとった場合でありますならば、それほど頭を使う必要はありません。このように、復唱や書き取りなどといった単純作業であるならば、例え中枢神経系の処理水準が極めて低い状態であったとしましても、特に意識しなくともできてしまう熟練運動として、我の脳は難なくそれを実現してしまいます。
以上、言語中枢の機能を中心に我々の神経系における言語処理の流れを簡単に述べました。最初に申し上げました通り、脳内では言語処理を統合するために複数の言語中枢が「入れ子状態」のたいへん複雑なネット・ワークを組んでいます。もちろん、他にも様々な並列処理や分岐ループがありますし、また、同じ聴覚処理でも、出力が仮名であるか漢字であるかでは厳密には処理経路が違います。ですから、実際にはそれほど単純に整理できるものではないのですが、「知覚」「認知」「行動」といった神経系の基本的な情報処理のプロセスに言語中枢というものの働きを組み合わせますと、概ねこのようなことになるのではないかと思います。
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