
ヘミングェーの短編「キリマンジャロの雪」の冒頭。
死の予感に包まれた主人公(傷を悪化させ片足が腐敗)が、女に向かって口を開きます。
"The marvellous thing is that it's painless." he said."That's how you know when it starts."
気になるのは、"it starts"という箇所です。
いったい何が「始まる」んでしょうか?
翻訳では「いよいよおさらばだ」(谷口陸男)、「いよいよおいでなすった」(龍口直太郎/大久保康雄)、「また来やがったな」(佐伯彰一)、「とうとうきたか」(高見浩)、という具合に、バラツキがある。
いっそう疑問が深まります。
解釈としては、いわば“死へのプロセス”とでもいうべきものが開始する、と読むか(谷口、龍口、大久保、高見)、あるいは、激痛が舞い戻ってくると理解するか(佐伯)、鋭く分かれそうです。
これが、すぐ後の部分、男が冗談半分に女に言うセリフの翻訳にも、影響してくる。
"You can take the leg off and that might stop it, though I doubt it."
つまりは、"stop it"です。
谷口訳「そうすりゃ、おしまいになるかもしれん」、龍口訳「そうすりゃ、それでおしまいになるかもしれんから」、高見訳「ケリがつくかもしれん」、この3者は、あくまで“死”を念頭に置いているようですが、大久保訳「そしたら、おさまるかもしれない」、佐伯訳「そうすりゃ痛みもおさまるぜ」は、激痛の存在を訳文に打ち出しています。
私個人としては、「激痛」で一貫させた佐伯彰一の訳に信頼を置きたい気がします。
みなさんのご意見をお聞かせください。

No.3ベストアンサー
- 回答日時:
文学に関してはまったくの素人ですし、日本語訳は読んでいませんので、参考にもならないかもしれませんが、昔何度も読んだ本ですので懐かしくなりまた見直してみました。
本文の意味について私が読んだ限りでは、“死へのプロセス”だと思います。 冒頭の部分は男はずっと「自分は死ぬ」といい続け、女は「あきらめないでくれ」といっていると思われます。
"..... case I ever wanted to use them in a story. That's funny now."
"I don't want to move," ....
"I don't give a damn about the truck."
"You do it," he said. "I'm tired."
男は自分の死期を悟り、それに抵抗するのをやめたというのが読んで取れます。 marvellous と painless という単語の組み合わせからもitが示唆するのは死ぬことであると思います。
「(本当は痛そうに思えるが)驚くべきことに痛くないんだよ」
"You can take the leg off and that might stop it, though I doubt it."
こちらの"stop it"については最初の“死へのプロセス”について語っていると思います。
"though I doubt it" がつくことによって、「可能性は低いが、足を今切断すれば助かるかもしれない」というような意味で、さらに「君にそんなことができるはずもないしね」 というような意味もあると思います。
なのでその後「いっそのこと俺を撃ってくれるかい?」
"Or you can shoot me. You're a good shot now. I taught you to shoot didn't I?"
と続くのです。
文学を翻訳をされる方々は、意味訳ではなく作品をそのまま日本語にされるということを行われるため、会話の中のitが何を指しているかは読者が読み取るように訳されていると思います。特にこの話では登場人物やバックグラウンドなどの説明をほとんど会話から行っているため、原文でも読者ははっきりとわからない状態から話が進んでいきます。 そのため、日本語に訳す場合も同じような状況を作るために、いろいろな訳が出来上がってしまうのでしょう。
回答に感謝いたします。
「足を今切断すれば助かるかもしれない」という部分の訳とご説明が、とても勉強になりました。
結局、「激痛を止める」と解釈した大久保康雄と佐伯彰一の訳は、間違いで、かたや「ケリをつける」等の訳をつけた高見浩、谷口陸男、龍口直太郎も、皆ピントがボケているように思います。
まともな翻訳が無いということになってしまいますが……
No.4
- 回答日時:
こんにちは。
回答を試みましたが、もし、頓珍漢なところがあればお許し下さい。
>"The marvellous thing is that it's painless." he said."That's how you know when it starts."
>気になるのは、"it starts"という箇所です。
いったい何が「始まる」んでしょうか?
→『死の旅立ち』だと思います。「幸いなことに、死ぬのは意外に痛みを伴わないんだよ。だから、いつ死ぬかということが分かるんだよ。」 もし、it's painless の it は「傷」だったら、it starts は、「傷が始まる」となるので、おかしくはないでしょうか?#1さんがおっしゃっていることと結局は同じですが。
it を激痛に解釈すると、That's how you know when it starts. 「そういうふうにしていつ激痛が始まる」 となりますね。痛みが無かったら、激痛が襲ってくる時期が分かるというのはおかしくはありませんか?どうでしょう。
>"You can take the leg off and that might stop it, though I doubt it. Or you can shoot me.
「君が足を切断してくれ、そうしたら死ななくても済むかも知れない。もっとも疑わしいが。いっそのこと、一撃で殺してくれてもいいよ。」
ここでも、it はやはり「死」「死の旅立ち」を表していると思います。たしかに、激痛を避けるために足を切断するのは理解できます。が、それは生きることに望みをかけている姿勢ですね。それが、突然、殺してくれとなるのは、無理があるような気がします。
この二つの会話の間に、男がこういう場面がありますね。
"It's much easier if I talk. But I don't want to bother you."
「話していたら、ずっと楽なんだ。」これは、死を迎えるまでの時間を過ごすのが楽だということではないでしょうか。「君に迷惑を掛けたくない」というのも、死を覚悟した男のことばだと思うんです。
ということで、わたしも、皆さんの意見のように、it は『死への旅立ち』だと解釈しました。
お役に立てば幸いです。
この回答への補足
当問題に回答を寄せてくださる方が、残念ながらoumesanを最後に途切れてしまいましたので、2~3日後にでも再度、質問を投稿することにして、一旦打ち切ります。
No2氏へのお礼の中で、軽く触れておいた私の“新疑問”が、完全には氷解していませんので、そこにも言及してくれる方の登場を待つことにします。
この欄で、今回の回答者全員にお礼申し上げます。
回答に感謝します。
たしかに、激痛が周期的に再発するという解釈は、誤りでしょう。
先を読み進むと、ウイリアムスン将校が苦悶のなかで凄惨な死を遂げたのを主人公が回顧する部分で、対照的に、自分の苦痛を反省しています。
just when he had felt it breaking him, the pain had stoped.
つまり、苦痛は、もうなくなってしまっているのですね。
「君が足を切断してくれ、そうしたら死ななくても済むかも知れない。」とお訳しになった部分とそれに続くご説明も、No.3氏のものと同様、教育的で参考になりました。
No.2
- 回答日時:
こんにちは。
私も読みましたが、
解釈としては、#1さんに一票です。
最初の2文を読んで、「激痛が戻ってくる」と理解するのは無理があるように思います。
意訳からでなく直訳を見たらわかると思いますが、
「不思議な事に、それは全く苦痛がない」男は言った。「それによって、いつitが始まるかが判るんだ」
ですよね?
「死」を予感している男性と言う事で、最初の「it」は「死ぬ事」だと思います。
死ぬのは苦痛を伴なわないので、それによって激痛が戻ってくるのが判るとは、ちょっと意味が判らなくなりませんか?
私の場合は、
「不思議な事に、死には苦痛がない。だから(苦痛がなくなることによって)死がやってきたのが判るんだ」
という風に解釈してました。
こういう文章はいろいろ想像が膨らむから、いいのかもしれませんが・・・。
回答に感謝いたします。
おそらくNo.1氏の説明どおりなのでしょう。
私は、男が腐敗した脚を彼女に見せつけながら語るイメージで読んだので、it=「この脚(の傷)」かなと思ったわけです。
でも、そうすると、後続の"it starts"が分からなくなる。
ただ、it=dying だとすると、やぶからぼうに口を開いた男が何の話をしているのか、相手の女が理解できないような気もします……(これは別の問題ですが)
No.1
- 回答日時:
"The marvellous thing is that it's painless."
このitは "That's how you know when it starts." のitと同じと考えるのが自然です。そうすると「激痛」がpainlessな訳がありませんから、違うと思います。恐らく、dying is painless、That's how you know when dying starts. のような意味でしょう。死ぬ際には意識が薄れ、痛みを感じなくなるので、そのとき死んでいくということが分かるのだと思います。
回答に感謝いたします。
端的な置換《it=dying》で論理的に説明をしてくださったので、すんなり納得できました。
私は、startという語に引っかかりすぎて、いろいろ悩んでしまったようです。
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