No.1
- 回答日時:
本人が無権代理人を相続した場合について、判例・通説は、いわゆる資格併存・信義則説を採ります。
すなわち、相続人たる本人が追認を拒絶しても、信義にもとるところはないので(被相続人が生存中は、当然に追認を拒絶できるのだから)、被相続人たる無権代理人の行為が相続によって当然に有効となるものではない、と考えます。無権代理人の責任(117条)は、相続開始の時において被相続人たる無権代理人に属した義務です(ただし、義務の発生は本人の追認の有無にかかっているので、被相続人が死亡した後に追認を拒絶する場合は、停止条件付きの義務を相続するということになるでしょう)。そして、相続は、被相続人に属するいっさいの権利義務を承継するものですから(896条)、これによって無権代理人たる地位を承継します。
したがって、本人たる相続人は・・・
(1) 本人として追認し、本人としての義務を履行する。
(2) 本人として追認を拒絶し、無権代理人の責任を負う。
という選択ができることになります。
(2)の場合には、相続放棄をすれば、無権代理人の責任も承継しないことになります。
(2)を選択した場合に、相手方は、義務履行まで求められるのか、損害賠償だけに留まるのかは議論がありますが、判例は、原則として、金銭債務・不特定物の給付債務については履行義務を承継し、特定物の給付債務については履行義務を承継しない(よって損害賠償だけ)、とします。
したがって、不動産の引渡し義務は特定物の給付義務ですから、引渡し自体は拒むことができ、損害賠償請求は拒むことができない、ということになります。
なるほど、大変よくわかりました。ご教授ありがとうごございます。
基本的なことなのですが、追認すると、無権代理行為が遡及的に有権代理行為となるため、もはや117条責任を負わず、本人としての義務を履行するだけとなるのですよね?
また、被相続人が死ぬ前に本人が追認拒絶していなかったとしても、相続するとやはり117条責任は免れないのですね??
No.2
- 回答日時:
>基本的なことなのですが、追認すると、無権代理行為が遡及的に有権代理行為となるため、もはや117条責任を負わず、本人としての義務を履行するだけとなるのですよね?
そのとおりです。117条責任は、代理権を証明できず、かつ、本人の追認を得ることができなかった場合に、相手方の善意無過失を要件として発生するものですから、本人の追認を得られた以上、117条責任が発生する余地はありません。
>また、被相続人が死ぬ前に本人が追認拒絶していなかったとしても、相続するとやはり117条責任は免れないのですね??
無権代理人の地位(…というよりも、「無権代理行為をした地位」の方が分かりやすいかもしれません)を本人が相続するわけですから、地位は並存します。相続した後で追認すれば、無権代理ではなく、遡及的に有効な契約であったことになり、117条責任は問題となりません。契約内容に従い、本来の義務を履行するだけです。
反対に、追認を拒絶すれば、無権代理が確定し、117条責任が問題となります。この場合、無権代理人の地位を相続したことになる以上、117条責任も相続することになります。
相続後でも、追認すれば有効な契約としての義務を負い、追認拒絶すれば、無権代理人としての義務を負います。
そうなんですか…
最後に一つだけ質問させてください。
相手が追認も追認拒否もしないときは、117条責任を追及できないのですか?自主的に追認拒否するか、催告によって追認拒否するかして、無権代理が確定しないと117条責任を追及できないのですか?
No.3ベストアンサー
- 回答日時:
>相手が追認も追認拒否もしないときは、117条責任を追及できないのですか?自主的に追認拒否するか、催告によって追認拒否するかして、無権代理が確定しないと117条責任を追及できないのですか?
通常、無権代理が問題となるのは本人に履行を請求し、これが拒絶された場合ですので、無権代理が確定している場合がほとんどです。無権代理について善意無過失であれば、まずは本人に請求するはずで、これをせずに、いきなり無権代理人の責任を追及するってことは、無権代理であることを知っていた(=悪意)んじゃないの?という疑問もわきますが、世の中は複雑ですから、設例のような問題も起こりうるのかもしれません。
理論的には、追認がされると、遡及的に有権代理となるだけのことであって、追認がない場合、その時点で無権代理であるということに変わりはありませんから、いきなり無権代理人の責任を追及することはできると思います。
No.4
- 回答日時:
すでに、No. 2, 3で詳しく補足していただいているので、蛇足かと思いますが...
実際に追認拒絶が問題となるのは、無権代理人が本人を承継する場合だけです(本人が無権代理人を相続する場合は、先の通り、本人の地位に基づいて追認拒絶をすることは可能だから。これについては、学説上も争いなしと見て良いでしょう)。
この場合について、判例は、いわゆる資格融合説を採ります。すなわち、無権代理人は処分権原を有しないところ、処分権者たる本人の地位を承継することによってこれが追完され、処分権者として処分したものとみなされます(多数学説は不支持であり、資格併存を妥当としているようです)。
しかし、被相続人たる本人が生前に追認拒絶の意思を表明していた場合には、「追認拒絶をした本人の地位」を承継するものと考えて、けっきょく、無権代理人の地位と「追認拒絶をした本人の地位」が併存するものとします(したがって、無権代理人の責任としての損害賠償の問題だけが残る)。
以上を整理すると・・・
<判例>
・本人が無権代理人を相続→資格併存説
本人の地位に基づいて追認し、有権代理であったものとして本人の義務を履行する。または、追認拒絶もできるが、その場合は無権代理人の責任を承継する。その際の責任は、特定物給付義務の場合は損害賠償のみ、それ以外のときは物の引渡し義務も負う。
・無権代理人が本人を相続→資格融合説
はじめから有効な契約が成立したものとして扱う(したがって、追認拒絶は議論の対象でない)。
・無権代理人が、追認拒絶をした本人を相続→資格融合説
相続開始前に、本人が追認拒絶をした時点で無権代理であったことが確定しているから、相続によっては治癒されない。
<通説>
・以上のすべての場合について資格融合説(無権代理人が本人を相続するケースでは、相続人たる無権代理人が本人の地位に基づいて追認拒絶するのは信義則に反して許されない、とするのが一般的)
・・・ということになります。
ただし、より細分化して類型化すると、追認拒絶の可否を信義則に基づいて決めるのか、信義則を問題としないのか、承継される無権代理人の責任の内容はいかなるものか、といった部分については、論者によって差異があります。その意味では、単に「資格併存説」といっても、実質的には様々な立場があるということです。
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