民訴の既判力(114、115条)について教えて下さい。
(1)114条1項について
既判力の客観的範囲は、原則として、主文に包含するもの(訴訟物)にのみ及び、理由中の判断(先決法律関係や事実認定)には及ばないとされています。
例えば、売買契約に基づく売買代金請求訴訟(訴訟物は、売主による売買代金債権の存否)において、請求認容判決が出た場合、理由中の判断に既判力が生じない以上、売買契約の成立、及び代金債権の発生(555条)自体には既判力が生じないことになります。
そうだとすると、後訴において、買主が売買契約無効確認訴訟を提起しても、既判力に遮断されないことになり、仮に、その訴訟において請求認容判決が出てしまえば、既判力の趣旨である「裁判の安定」は害されることになるように思います。
そして、この場合に、例えば、信義則によって妥当な結論を導くとすると、一体何のために、既判力は理由中の判断に及ばないとしているのか私には分からなくなります。
初めから、既判力は理由中の判断に及ぶとすれば、こんな面倒なことにならないと思うのですが、この点についてご教示頂けないでしょうか?
(2)114条1項について(その2)
上記と同様の事例(売買契約に基づく売買代金請求訴訟)において、裁判所が、契約の無効を認定して、請求棄却判決が出た場合でも、同様に、売買契約の成立、及び代金債権の発生(555条)自体には既判力が生じないことになります。
つまり、契約の不成立によって棄却されたのか、それとも、弁済等の抗弁によって棄却されたのかは既判力が生じないことになります。
そうだとすると、後訴において、買主が、契約の有効を前提として、例えば建物明渡請求訴訟を提起しても、既判力に遮断されないことになり、仮に、その訴訟において請求認容判決が出てしまえば、既判力の趣旨である「裁判の安定」は害されることになるように思います。
そして、この場合も同様に、信義則を用いるとすると、一体何のために、既判力は理由中の判断に及ばないとしているのか私には分からなくなります。
この点もご教示頂けますでしょうか?
(3)114条2項について
上記と同様の事例(売買契約に基づく売買代金請求訴訟)において、裁判所が、相殺の抗弁を認定して、請求棄却判決が出た場合は、既判力は、相殺の自動債権(被告側の債権)にまで及ぶとされています。
確かに、訴訟物は異なるとはいえ、被告側の債権が審理されている以上、「裁判の安定」「手続保障」の観点からも納得がいく結論です。
むしろ、なぜ、相殺だけ、既判力が理由中の判断に及ぶとしているのかが分かりません。
民訴が、相殺だけ特別扱いをしている理由をご教示頂けますでしょうか?
以上、質問が多岐に渡りますが、ご回答よろしくお願い致します。
No.3ベストアンサー
- 回答日時:
基本書読みましたか?基本書を読んでも理解できないのなら、ここでの紙幅と時間と知識と表現力ではるかに基本書に劣る回答を読んで理解できるとはとても思えないのですが。
それはともかく、疑問はもっともです。その通りだから争点効って話があるんです。
既判力の客観的範囲をどこまで認めるのかは、究極的には立法政策の問題でしかありません。
広ければ紛争の解決は一回で図れますがその代わりに既判力の及ぶ範囲全体について不利益を受けないように当事者は慎重かつ徹底的な争いをすることになるので間違いなく訴訟に時間が掛かります。訴訟経済という観点からは争点は絞り込んだ方がいいに決まってます。
一方で、狭ければ当然既判力の及ばない部分について別訴による蒸し返しができるし、判決の矛盾抵触のおそれも出てきます。更に何度も蒸し返せば全体としてみると訴訟経済的にも不利になる可能性はあります(実際にそう細々と訴訟を起こす暇人は滅多にいませんが。既判力が及ばない範囲ごとに個別の訴訟をやるなんてのは相当金と暇をもてあましている人だけ)。まあそういうのを防ぐために中間確認の訴えがあるわけですけどね。
そこで、どこまで既判力を認めるのが法制度として妥当かという立法政策の問題に帰着するわけです。
要するにトレードオフの問題です。完璧な答えなどないんですよ。それを求めるのなら、ご自分で理想と考える理論を構築するとよいでしょう。新堂先生の争点効理論をとりあえず学んでみればよいでしょう。もとより、新訴訟物理論とか争点効というのは判例通説に対して、紛争解決の一回性を重視して出てきたくらいですから、紛争解決の一回性を強調するなら争点効理論によることになります。ただし、判例通説実務じゃありませんけどね。そして紛争解決の一回性という点で弱いし矛盾抵触を避ける必要がある場合があるからこそ判例はいわば“仕方なく”信義則を使って後訴を制限したわけですよ。
この辺は、有斐閣大学叢書の新民事訴訟法講義の既判力の説明のところに詳しく載ってます(他の基本書でも載ってると思いますけど)。後はご自分でお読みください。
誤謬はあるかもしれませんが、既判力を原則として主文に限定するのはいろんな意味で“その訴訟の解決”ということを最優先したからと考えるのが妥当でしょう。その上で、相殺については起こりうる問題が容易かつ具体的に予想できるし、そもそも反対債権の主張というのが実質的に反訴のようなものなので例外として既判力の範囲を“立法的に”必要最小限の範囲で拡張しただけと考えていいと思います。新堂先生なんかはそれをもっと拡張して争点効を認めるべきだと主張しているわけです。
まあ、ここは難しい話ですよ。
で、傍論について少々言いたいことがあるのですが、眠くなったのでまたいずれ。傍論なんで余談みたいなものですから締め切っても構いません。
基本書は、判例実務ベースの記述がされているということで司法協会の講義案の該当部分を読みました。
また、知り合いの弁護士をつかまえて質問したのですが、やはり争点効や信義則の話だったり、実際、そんな後訴を立てる人間も少ないということで、直接的な回答をもらえませんでした。
まぁ、当たり前といえば当たり前なんですが・・。
学者の先生の基本書は、かなり立ち入った記述が多くて二の足を踏んでいたのですが、疑問を持ってしまったときには確かに有用ですね。
楽をせず、ご提示頂いた文献を拝見させて頂きます。
また、相殺は「実質、反訴」という回答は私の疑問に対して非常にしっくりくるものでした。
記述内容から推察するに、単なる暗記を超えた深い理解をお持ちの方かと存じます。
よろしければ、是非「傍論」についてお聞かせ下さい。
No.4
- 回答日時:
No.2の回答者です。
追加質問の前半部分については、No.3の回答者が詳しく解説されているので、あえて蛇足を付する必要はないかと思います。
後半部分について。
確かに、「売買契約の成立(555)は法律レベルの問題」といえます。「意思の合致」という法律要件を満たせば、「契約の成立」という法律効果が生じるからです。
ただ、だからといって、それを訴訟物にすることはできません。なぜなら、売買契約が成立すれば、その時に所有権が移転して目的物引渡請求権が生じ、代金請求権が発生し、この2つこそが「実体法上の請求権」となるからです。売買契約が有効に成立したかどうかは、これらの請求権が発生する前提問題に過ぎません。故に、攻撃防御方法の1つにしかなり得ません。
もっといえば、過去に一定の権利・法律関係が存在したとしても、現在においてそれが存続しているとは限らないので、その意味でも「売買契約の成立」の確認を求める利益(確認の利益)がありません。訴えの利益は訴訟要件なので、仮に訴状が受け付けられても訴え却下の判決になります。
No.2
- 回答日時:
(1)について
>> 後訴において、買主が売買契約無効確認訴訟を提起しても //
まず、ここに間違いがあります。
売買契約が成立したか否かは、つまり売買の意思の合致があったかどうかという話なので、事実レベルの問題です。その事実があるとき、法的効果として代金請求権と目的物引渡請求権が発生します。
原則として、確認訴訟は、事実の存否の判断について提起することは許されません。すなわち、代金請求権や目的物引渡請求権の存否については判断を求めることができるとしても(もっとも、一般的には給付請求をすべきとされます)、その前提問題である売買契約の成否については判断を求められません。「買主が売買契約無効確認訴訟を提起」したら、訴状却下になります。
また、通説・判例に従えば、契約の無効は、当該契約に付着した瑕疵であること、前訴において攻撃防御方法として提出する機会を与えられていること、前訴の口頭弁論終結時までに生じた事由であること、を理由に、既判力によって遮断されるとします。
したがって、判断の矛盾は生じず、既判力の趣旨に抵触しません。
>> 信義則によって妥当な結論を導く //
よくいわれることですが、「信義則」「公序良俗」「権利濫用」は伝家の宝刀です。無闇矢鱈に振りかざして良いものではありません。
そして、「妥当な結論」というのは、「当該事案の個別的事情に照らして妥当」という意味なので、抽象的な事例で信義則を持ち出すのは意味がありません。すなわち、信義則の内容は、いわゆる禁反言(エストッペル)や矛盾挙動の禁止、相手方の信頼保護、社会的妥当性などをいいますから、判決理由中の判断に既判力が及ばないのを良いことに、後訴で手の平を返したような訴訟活動をして、相手方に無用な応訴の負担を強い、裁判所を翻弄して、訴えを提起すること自体が社会正義に著しく反するような特段の事情がある場合に、最後の手段として用いられるものだということです。
その証拠に、信義則で後訴を却下したり、後訴における当事者の主張を信義則で許さないとしている裁判例・判例は、かなり背信的なケースです(毎回訴訟物は違うが、結局のところ同一土地の所有権の有無を争う趣旨で、10数年来にわたって同一被告を相手に訴えを提起し続けたケースなど)。
(2)について
>> 既判力の趣旨である「裁判の安定」 //
具体的に、どのような意味で使われているのか不明ですが、「紛争の一回的・終局的解決」という趣旨であれば、結果的に矛盾するかに見える判決が出る可能性は、すでに立法において織り込み済み、というのが回答になります。
すなわち、当事者主義・弁論主義を採用し、職権調査・職権取調べを原則として禁止する建前をとって、事実および証拠の提出を当事者の権能かつ責任とした以上、結果的に見て矛盾を生じたのは、当事者の訴訟活動の結果であって、裁判所や訴訟法の不備ではない、ということです。そして、そのような不利益を予定することで、当事者が積極的に攻撃防御を展開し、豊富で有用な資料が提出され、正義公平にかなった審理ができることを、法は期待しているということができます。
したがって、このような結果を不都合と考えるのであれば、それは立法論の問題でしょう。
(3)について
No.1の回答者がご指摘の通りで良いかと思います。相殺の抗弁に既判力を認めないと、反対債権の存否について紛争が蒸し返されるおそれがあります。
他の理由中の判断について既判力が生じない理由は、No.1の回答者が(1)(2)への回答でご指摘の内容が妥当するかと思われます。
ご回答ありがとうございました。
申し訳ないのですが、理解が悪いもので、再度質問させて下さい。
(3)について、『反対債権の存否について紛争が蒸し返されるおそれがあります』とありますが、反対債権の存否について蒸し返しはありますが、前訴と後訴の訴訟物は異なるわけで、理由中の判断に蒸し返しが生じると意味では相殺の場合もそれ以外の場合も変わらない問題だと思います。
なぜ、一方が立法論の問題で、一方が明文で規定されているのでしょうか?
また、別件ですが、売買の意思の合致は事実レベルですが、売買契約の成立(555)は法律レベルの問題ではないのでしょうか?
この点もよろしければご教示ください。
No.1
- 回答日時:
私は実務家を目指している者なので,学究的なお答えは満足にできませんが,私の理解を述べておきます。
問1 114条1項について
114条1項が,理由中の判断には原則として既判力が生じないとしている趣旨は,民事訴訟法2条が規定する「公平・適正・迅速・経済」という民事訴訟の理念を守るためでしょう。
1 訴訟物でない事項について既判力が生じるとすると,
○当事者は訴訟物以外についても攻撃防御を,また,裁判所も関連事項について全般的な審理を,それぞれ強いられ,訴訟遅延の原因となる。⇔迅速
○十分に攻撃防御を尽くしていない事項について後訴における拘束力が生じてしまう(:不意打ちとなる)。⇔公平・適正:手続保障
:以上,必要性
理由中の判断に既判力を生じさせなくとも,当事者は,訴えの変更(143条)や反訴(146条)により,必要に応じ訴えを拡張できる。
:以上,許容性
問2 114条1項について(その2)
答 これについても,問1で述べた理由で,既判力が生じないとされていると思います。
質問者様の言われる「裁判の安定」が何を指しているのか分かりかねますが,紛争解決のことを言われているのなら,実質的に矛盾する判断が出ても,訴訟物自体の蒸し返しを許さなければ,単にそういう結果が押し付けられるだけのことですから,「裁判の安定」は害されないと思います。
また,前訴の訴訟記録は,後訴において有力な証拠となり,実際には,そうそう実質的矛盾判決は出ないのではないでしょうか。
問3 114条2項について
答 相殺の効果について既判力を認めないと,訴求債権の存否の争いが,反対債権を訴訟物とする後訴で蒸し返されてしまいます。
たとえば訴求債権(甲債権)を100万円,反対債権(乙債権)も100万円とすると,乙債権は前訴における甲債権との相殺により消滅し,甲債権に基づく請求権は理由がないとして請求棄却の判決がなされます。
乙債権の不存在について既判力がないとして,乙債権100万円を後訴で請求したら,甲債権が乙債権との相殺で消滅したのか,そうでなく最初から存在しなかったのかを審理する必要が出てきてしまうのです。
前訴の口頭弁論終結時において甲乙とも存在しないという既判力が認められれば,このような蒸し返しは起こらず,「裁判の安定」に反しません。
ご回答ありがとうございました。
ご回答頂いて、再度考えたのですが、再質問が長いため、以下に別スレッドを立てました。
http://okwave.jp/qa4319804.html?ans_count_asc=20
ご回答頂ければ幸いです。
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