
酸素分子O2の項記号について
酸素分子の項記号Σにおいて、結合軸を含む鏡映面に関する対称性を表す+と-の決定方法がわかりません。以下に、理解した部分をまとめました。
基底状態の電子配置は、(内殻) (1πu)4 (1πg)2 で、フントの規則より安定な配置は、
1πg [↑ ][↑ ]
1πu [↑↓][↑↓]
λ= +3 ? 3 = 0, Λ= 0 →項記号は、Σ
スピン多重度2s + 1 = 3。パリティーは、g x g x 4 u = g
O―Oの結合軸方向をz軸として、yz鏡映面に対して1πg軌道の波動関数(+-,-+の図)の符号の変化の有無を調べると、1πg (x)は符号が逆転するので反対称(-)、1πg (y)は変化しないので対称(+)となる。従って、トータルでは、(-) x (+) = (-) となる。よって、項記号は、3Σg-となる。
1πg [↑↓][ ]の場合、Λ=2なので項記号は、1Δgとなる。鏡映対称は省略できる。
さて、ここから理解できません。
1πg [↑ ][↓ ]
この時の項記号は、1Σg+となっていますが、なぜプラスなのでしょうか。
軌道の対称性(-) x (+) = (-) に加えて、反対向きの電子スピンということで、マイナスを掛けて、結果としてプラスということにしてもよいのでしょうか?
さらに、項記号、3Σu-と3Σu+の電子配置は、
1πg [↑↓][↑ ]
1πu [↑ ][↑↓]
と
1πg [↑↓][↓ ]
1πu [ ↓][↑↓]
でよいでしょうか?しかし、符号がこのように決定さる理由がわかりません。前者は、- + - + - + = マイナス?後者は、- + - + + + = プラス?アトキンス下を読みながら数週間悩んでいますが、自己解決が不可能と判断し、質問させていただくことにしました。ご教授いただければ幸いです。

No.1ベストアンサー
- 回答日時:
> この時の項記号は、1Σg+となっていますが、なぜプラスなのでしょうか。
πgxとπgyで考えるとハマります。πg+とπg-で考えるのが正解です。
http://www.kjemi.no/teori/kongsvinger2008/pdf/Mi …
の8~10ページに明快な解説がありましたので、以下、これに基づいて説明します。
1Σg+, 1Δg,3Σg-の波動関数は、(1πg)2の二電子に関する軌道の部分だけを書くと
1Σg+ = πgx(1)πgx(2) + πgy(1)πgy(2)
1Δg' = πgx(1)πgx(2) - πgy(1)πgy(2)
1Δg" = πgx(1)πgy(2) + πgy(1)πgx(2)
3Σg- = πgx(1)πgy(2) - πgy(1)πgx(2)
のようになります(式が煩雑になるので(内殻) (1πu)4の部分、スピン部分、規格化定数は省略)。πgxとπgyで表すと、このように分かりにくい形になるので、πgxとπgyを一次変換してπg+とπg-で波動関数を表すことにします。
πg+は、分子軸の周りを反時計回りに回っている電子の軌道関数です。πg-は時計回りです。πgx,πgyとπg+,πg-の関係は、原子軌道関数で言えば、px,pyとp+1,p-1の関係と同じです。
πgx = (πg+ + πg-)/2
πgy = (πg+ - πg-)/2i
これを波動関数1Σg+に代入すれば
1Σg+ = πg-(1)πg+(2) + πg+(1)πg-(2)
1Δg' = πg+(1)πg+(2) + πg-(1)πg-(2)
1Δg" = πg+(1)πg+(2) - πg-(1)πg-(2)
3Σg- = πg-(1)πg+(2) - πg+(1)πg-(2)
のようになり、縮重している1Δg',1Δg"の和と差をとれば
1Δg = πg+(1)πg+(2) または πg-(1)πg-(2)
になります。これを電子配置で表せば
1Δgの電子配置: 1πg [↑↓][ ]または1πg [ ][↑↓]
となって、たとえばウィキペディア
http://en.wikipedia.org/wiki/Singlet_oxygen
にあるようなエネルギー準位図に“似た”電子配置が得られます。
ウィキペディアにある準位図では、電子の入っている小箱にπ*x, π*yというラベルがついていますが、これは間違いです。1Δgでは、二つの電子が同じ向きに回っているのですから、正しくはπ*+, π*-というラベルになります。
ここまできたら、あとは鏡映面に対する変換性を考えるだけです。鏡映操作で電子の回る向きが逆になるのですから、
πg- → πg+
πg+ → πg-
のように軌道関数が変換されます。鏡映操作は空間部分だけに働いて、スピン部分は不変ですから、波動関数は
1Σg+ → 1Σg+
3Σg- → -(3Σg-)
のように変換されます。
3Σg-の場合に限ってアトキンスの説明が使えるのは、波動関数の形から分かるように、3Σg-の場合は、電子の入っている小箱のラベルにπgx, πgyと書いてあっても、πg+, πg-と書いてあっても、どちらでも電子の詰まり方が同じになるからです。それに対して、1Σg+の正しい波動関数は
1Σg+ = πgx(1)πgx(2) + πgy(1)πgy(2)
なのですから、この1Σg+の電子配置を(ウィキペディアにあるように)πgxとπgyに電子が一個ずつ入っている、と考えてしまうと、電子の詰め方が間違っていることになり、正しい答えにはたどり着けなくなります。
> 項記号、3Σu-と3Σu+の電子配置は《中略》でよいでしょうか?
とりあえず、だめだと思います。
説明は端折りますけど、電子配置 (1πu)3 (1πg)3 から得られる電子状態の数と種類は、電子配置 (1πu)1 (1πg)1 から得られる電子状態の数と種類と同じになります。πuとπgの直積をとって、それを直和に分解すれば
πu×πg = Σu+ + Σu- + Δu
となり、これらの項のそれぞれにスピン1重項とスピン3重項があります。
ここがスタート地点で、ここから、項記号 3Σu-と3Σu+の電子配置を考えていくことになるのですけど、かなり専門的な話になりますので、ここから先の説明は、私には無理です。ごめんなさい。
しかし、ここのところまでならば、分子の対称性と点群に関する入門書を読むと理解できると思います。とくに
藤永,成田 共著「化学や物理のためのやさしい群論入門」岩波書店
の10.10節はとても参考になると思います。
参考URL:http://webcatplus-equal.nii.ac.jp/libportal/DocD …
この回答への補足
たくさんのお時間を割いて丁寧にご説明していただき、ありがとうございます!符号の決定に関しては、遥かに複雑な考察が必要だったのですね。3Σu-と3Σu+の電子配置もそれほど単純ではないことがわかりました。いただいた情報を元に考察してみます。参考書を入手する前に再度の質問で恐縮ですが、波動関数
Ψ(1Σg+) = πgx(1)πgx(2) + πgy(1)πgy(2) (係数およびスピンは省略)
は、SALC (symmetry-adapted linear combination)から導かれるものなのでしょうか?
No.2
- 回答日時:
> Ψ(1Σg+) = πgx(1)πgx(2) + πgy(1)πgy(2) (係数およびスピンは省略)
> は、SALC (symmetry-adapted linear combination)から導かれるものなのでしょうか?
はい。原理的には、( πgx(1)πgx(2),πgx(1)πgy(2),πgy(1)πgx(2),πgy(1)πgy(2) )という基底から、アトキンス第8版446ページにある方法でSALCをつくり上げることができるはずです(SALC-MOではない、ということに注意)。原理的に、という断りが入るのは
点群D∞hは位数h=∞の無限群なので、有限群の点群と同じことができない、
アトキンス付録のD∞hの指標表には誤植がある(笑)、
系統的にやるよりも直感的に試行錯誤的にやったほうがたぶん簡単、
πgx,πgyからつくった基底でなく、πg+,πg-からつくった基底を使う方がずっと簡単、
だからです。
πgとπgの直積をとって、それを直和に分解すれば
πg×πg = Σg+ + Σg- + Δg
という項が出てくるので、これらの対称性に適合した一次結合を作ればいいことが分かります。このとき、基底を
( πg+(1)πg+(2),πg+(1)πg-(2),πg-(1)πg+(2),πg-(1)πg-(2) )
という形にとれば、ほぼ自動的に、対称性に適合した一次結合が出来上がります。ほぼ自動的に、の意味は、電子の入れ替えに対して対称または反対称の関数をつくればSALCになっている、ということです。このあたりの話は、ヘリウム原子の波動関数や原子価結合法で得られる水素分子の波動関数と似たような話なので、そこらへんの話(電子の入れ替えに対して軌道部分が対称関数ならスピン部分は反対称関数、軌道部分が反対称関数ならスピン部分は対称関数、とかの話)を参考にして下さい。
と、いうことで、
πgx(1)πgx(2) + πgy(1)πgy(2)
という波動関数は、実際には、ANo.1に書いてあるのとは逆のルートを辿って
πg-(1)πg+(2) + πg+(1)πg-(2)
という波動関数から得られるのだ、と考えた方が分かりやすいです。
> 符号の決定に関しては、遥かに複雑な考察が必要だったのですね。
そうですね。ただ、波動関数がきちんと与えられていれば、アトキンスに書いてあるルールだけでも、符号の決定はできますので確認してみて下さい。
Ψ(1Σg+) = πgx(1)πgx(2) + πgy(1)πgy(2)
Ψ(3Σg-) = πgx(1)πgy(2) - πgy(1)πgx(2)
という波動関数は、
πgx → +πgx
πgy → -πgy
という変換を行えば、
Ψ(1Σg+) → +Ψ(1Σg+)
Ψ(3Σg-) → -Ψ(3Σg-)
のように変換されることが確認できます。
非常にわかりやすく教えていただき、本当にありがとうございました!おかげさまで、項記号における鏡映対称の正負の根拠については、ほぼ理解できました。何も埋まっていない穴を一人で掘っていたのが、随分前のことのようです。
アトキンス第8版446ページおよび章末問題12・15にあるSALCの手続きもほぼ理解しました(解答集の答えは変な気がして、英文で問題を検索したら、納得の出来る解答を得ることができました)。SALCと各種の項記号を関連付けるプロセスをまだ理解していませんが、こちらで解答をいただいたので、あとは時間をかけて練習・理解するよう努めます。
それから、3Σu-+に関しても、SALCを使ってπg×πu = Σu+ + Σu- + Δuのそれぞれの波動関数をπ+とπ-で表現できれば、鏡映対称性を議論できそうですね。できれば、π+とπ-を使って、紹介していただいたウィキペディアにあるような電子配置も書いてみたいです。電子配置があった方がわかりやすいですから。回答者様の仰るように、そのプロセスが難しそうですが、まずは参考書を読んで、どうして難しいのか?を知るスタート地点に立つようにします。
アトキンスの記述も回答者様のようであれば良いのに…などと思いますが、訳本なので仕方ないのかもしれませんね。それにしても、酸素分子は身近な分子であり、一見、単純構造なのに、実は多数の電子状態をとり得て、それが反応性に影響を及ぼすなんて、なかなか曲者ですね、興味深いです。
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