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No.2ベストアンサー
- 回答日時:
以下に噛み砕いた表現で説明してみました。
〔事件の概要〕
大判昭和10年10月5日の判例で通称「宇奈月温泉事件」といいます
「Y会社が宇奈月温泉を経営。そのY会社は他人の土地を2坪ほどかすめて引湯管を設けていた。
それに、目をつけたXが、その土地を買い受けて、Y会社に不当に高額な価格での買い取りを要求したが、拒否された。そこで、XがY会社に対し所有権に基づいて引湯管の撤去を請求する訴訟を起こした」
〔争点〕
Xの所有権に基づく引湯管の撤去請求は認められるか
〔結論〕
Xの請求棄却。Xの所有権に基づく引湯管の撤去請求は認められない
〔解説〕
Xは所有権を持っている。しかしYは他人の土地を勝手に使っていた。だからXの請求は認められると単純に解釈してよいかどうかの判断です。
Yが他人の土地を使っていたのはたった2坪です。Xの行動はY会社にふっかけて金を稼ごうといういわば単なる「やから」です。そんなことを認めれば正義に反します。
確かにXは所有権を持っています。所有権は民法上は物権に分類され強力で、人が邪魔をすれば排除できる権利もあります(民法206条)
しかし、だからといってそんなものを認めるわけにはいかない。でも、民法206条があるから、Xの請求を認めなくてはならない。ここが悩みどころです。
では、なぜY会社が勝てたのでしょうか。その答えが「民法1条3項=権利の濫用はこれを許さない」です。これは、法の正義に反するような権利の行使は許さないという条文です。つまり、今回の事件でいえば、確かにXは所有権を持っているし引湯管を撤去しろ!という権利は持っているしかし、その権利の行使は正義に反するし、権利の濫用だから許されないということになるのです。
この民法1条3項は、1条2項の信義則と合わせて最後のいわば伝家の宝刀として存在しているのです。裁判所はこの伝家の宝刀を抜いてやからであるXを切り捨てたというわけです。
もう少し法律論的に書くと次のようになります。
原告xの主張は所有権の正当な行使とは言えずその範囲を逸脱したものであり、権利の濫用になるという法理論を構成して原告の請求を棄却した。
ここで、権利の濫用の基準をどこに置くかという問題が生じる。かつては権利を行使する者の害意が重視された(シカーネの禁止)が、現在においては権利を行使するものが得る利益と、権利行使の相手方もしくは社会全体の受ける不利益とのバランスで具体的に判断されるのです。
いかがでしょうか・・
No.4
- 回答日時:
私は、権利濫用法理において、主観的要件(害意)は欠かすことのできない要件だと考えています。
権利濫用が問題になるのは、法的な権利が存在する場合です。権利がある以上は行使できるのが大原則であって、行使できないとする権利濫用法理は、極めて厳格に解釈されなければなりません。たとえ権利行使の結果相手方が大きな損失を蒙ろうと、合理的な目的があるにも関わらず権利行使を認めないのでは、権利がないのとほとんど変わらなくなってしまいます。
宇奈月温泉の事例で言えば、原告が土地を利用するつもりが無く、もっぱら引湯管に関して金銭を得る目的で土地を取得したからこそ、権利行使が権利濫用とされたのであって、元々の土地所有者が、土地を使用するために撤去を求めていた場合は、請求を認めなければ権利が無いのと変わらなくなってしまうわけです。
法的に存在する権利の行使に際し、相手方の受ける損失を考慮するというのは、権利が存在すること自体を相対化してしまいかねない危険性があることを認識すべきです。
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No.3
- 回答日時:
法律論としてはNo.2の方の回答で言うこと無しです。
#なお大した話ではありませんが、判例についての解説の部分に一つだけ補足すると、買取らせようとした土地は、引湯管の通っている2坪ほどの土地だけでなくそれに隣接する3000坪余りの土地です。これを時価の数十倍で売りつけようとしたものです。2坪程度だけなら時価の数十倍でも元が二束三文の土地なのでひょっとしたら買ってもらえたかもしれませんね。
それとは別に法律学入門者が引っ掛かる一つとして、「主観・客観」という用語法の問題があると思っているのでその辺を少し。
主観・客観という表現(あるいは概念)は法律論では非常に便利なので結構多用するのですが、慣れてない人には逆に非常に解りにくいところです。細かく言えば、状況によって微妙に意味合いが変わってくるのですが、こと本件に関してのみ言えば、
1.主観とは「行為者の内心」のこと。
つまり、「行為者がどう考えていたか」。
2.客観とは「行為それ自体の意味」のこと。
つまり、「行為がどういう結果をもたらすものか」。
という意味だと思えば大体合ってます。
これを前提に、権利濫用の要件は(無論権利があることは当然に必要。広い意味ではこれも客観的要件です)、
1.主観的要件として、「行為者が当該行為により何を意図していたか」、具体的には「相手に対して嫌がらせをしようとか積極的に考えていた(=害意があった)かどうか」、
2.客観的要件として、行為者がどう考えていようがそんなことは関係なく、「行為自体がどのような社会的結果をもたらすものか」、具体的には、「権利行使によって守られる権利者の利益と相手方(あるいは社会なり)が蒙る不利益を比較して、そのバランスが取れているか」
という二つの要件がある、とこういうことになります。この二つをどのように扱うかで学説に分れがあります。判例通説は客観的要件を重視し、主観的要件は権利濫用の成立に特に必要ないと考えます(もっとも本件判例は、主観的要件の存在を認定しています)。一方で、主観的要件も考慮すべきだという有力説もあります(特に、公益目的で私権の制限を受けた権利者の権利主張において問題になることがあります)。
#刑法などでも主観客観という言葉は多用しますが、この概念に馴染めないと躓くんですよね……。主観は内心など「人」にまつわる話、客観は外形など「行為現象状態」にまつわる話ですが、手形法辺りに出てくる主観・客観は属人・非属人とでも、訴訟法の主観・客観は人的・物的とでも言うべきだと思うものもあります。
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