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基底状態にある原子の、全軌道方位量子数(L)、全方位量子数(J)、全スピン方位量子数(S)は、電子配置の表とフントの規則を使って求めます。
(1) 教科書などに載っている電子配置の表から、原子の電子配置を知る。
カリウム原子から亜鉛原子までの電子配置は以下のとおりです。
K :[Ar] (3d)0 (4s)1
Ca:[Ar] (3d)0 (4s)2
Sc:[Ar] (3d)1 (4s)2
Ti:[Ar] (3d)2 (4s)2
V :[Ar] (3d)3 (4s)2
Cr:[Ar] (3d)5 (4s)1
Mn:[Ar] (3d)5 (4s)2
Fe:[Ar] (3d)6 (4s)2
Co:[Ar] (3d)7 (4s)2
Ni:[Ar] (3d)8 (4s)2
Cu:[Ar] (3d)10 (4s)1
Zn:[Ar] (3d)10 (4s)2
この表で、[Ar]はアルゴン原子の電子配置で
Ar:(1s)2 (2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6
です。
この表から鉄原子の基底状態の電子配置が
Fe:(1s)2 (2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (3d)6 (4s)2
であることがわかります。
(2) 不完全に満たされた副殻に注目する。
(1s),(2s),(3s),(4s)にはそれぞれ、2個まで電子を入れることができます。
(2p),(3p),(4p)にはそれぞれ、6個まで電子を入れることができます。
(3d),(4d)にはそれぞれ、10個まで電子を入れることができます。
鉄原子の基底状態の電子配置では、10個まで電子が入る(3d)に6個しか電子が入っていませんので、(3d)が不完全に満たされた副殻になります。他の電子が入った副殻は、完全に満たされていますから、鉄原子の基底状態では、不完全に満たされた副殻は(3d)だけです(クロムの場合は、(3d)と(4s)の二つが不完全に満たされた副殻になります)。
(3) フントの規則に従って、不完全に満たされた副殻に電子を入れる。
フントの規則1:α軌道から電子を入れて、α軌道が満たされた後に、β軌道に電子を入れる。
フントの規則2:磁気量子数mzが大きい軌道から順に電子を入れる。
s殻の場合 mz,spin
1番目の電子: 0 α
2番目の電子: 0 β
p殻の場合 mz,spin
1番目の電子:+1 α
2番目の電子: 0 α
3番目の電子:-1 α
4番目の電子:+1 β
5番目の電子: 0 β
6番目の電子:-1 β
d殻の場合 mz,spin
1番目の電子:+2 α
2番目の電子:+1 α
3番目の電子: 0 α
4番目の電子:-1 α
5番目の電子:-2 α
6番目の電子:+2 β
7番目の電子:+1 β
8番目の電子: 0 β
9番目の電子:-1 β
10番目の電子:-2 β
鉄原子の基底状態の電子配置では、(3d)に6個電子が入りますので
鉄原子の場合 mz,spin
1番目の電子:+2 α
2番目の電子:+1 α
3番目の電子: 0 α
4番目の電子:-1 α
5番目の電子:-2 α
6番目の電子:+2 β
のように電子が入っています。
(3) LとSを求める。
Lはmzの総和から求めます。
鉄原子の基底状態では、
L=(+2)+(+1)+(0)+(-1)+(-2)+(+2)=2
になります。
Sはszの総和から求めることができますが、sz=1/2(α軌道)または sz=-1/2(β軌道)の関係がありますから、
S=(α軌道に入った電子の数-β軌道に入った電子の数)÷2
の関係式から求めます。
鉄原子の基底状態では、
S=(5-1)÷2=2
になります。
(4) フントの規則を使ってJを求める。
フントの規則3:β軌道に電子が入っていないときは、J=|L-S|。β軌道に電子が入っているときは、J=L+S。
鉄原子の基底状態では、3dのβ軌道に電子が入っていますから、
J=2+2=4
になります。
(5) スペクトル項を求める。
スペクトル項は、一般に
(2S+1) (Lを表す記号) J
とかけます。Lを表す記号は
L=0,1,2,3,4,5,...に対して
S,P,D,F,G,H,...が対応します。
(2S+1)はLを表す記号の左上に、JはLを表す記号の右下に書きます。
鉄原子の基底状態のスペクトル項は
2S+1=2×2+1=5、
Lを表す記号はD、
J=4ですから
5D4
になります。
----------
カリウム原子から亜鉛原子までの基底状態のスペクトル項は、以下の通りです(間違っているかも知れません。検算していただけると幸いです)。
K :2S1/2
Ca:1S0
Sc:2D3/2
Ti:3F2
V :4F3/2
Cr:7S3
Mn:6S5/2
Fe:5D4
Co:4F9/2
Ni:3F4
Cu:2S1/2
Zn:1S0
この回答へのお礼
お礼日時:2007/10/28 22:27
くわしくわかりやすいご説明ありがとうございます!
フントの規則から計算していくのがよくわかりました。
化学の本を見ても求め方などよくわからなかったので、とても参考になりました!
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