単二電池

不規則合金の電子状態について勉強しようと思っているのですが、それ以前の完全結晶(規則相)のバンド構造でつまずいております。

我ながらどこで引っかかっているのか把握できていないので、疑問に思った経緯を順に書きます。
長文をご容赦ください。(なお文中のh~は換算プランク定数です。)

純金属の電子のエネルギー分散図は細い線(バンド)が連なったものになります。
これに対してKKR-CPA法から計算した不規則合金のエネルギー分散をプロットすると、それぞれの線がにじんでしまったものが得られます。

この事について赤井久純/白井光雲「密度汎関数法の発展」では以下のように書かれています。

”これは印刷の失敗でも汚れでも無くて、まさに不規則性の効果があらわれたものである。Niの場合は系が規則的なために結晶運動量h~kがよい量子数となって固有エネルギーを決定するのに対して、Ni0.85Mn0.15合金では系がもはや規則的ではないために結晶運動量h~kについて固有状態が得られずブロッホスペクトル関数が広がってしまうのである。”

この文章を読んで一旦は「不規則合金では波動関数がブロッホ波で表せなくなるからエネルギーと運動量の同時固有状態が実現できなくなるのか」と納得しかかったのですが、よく考えれば規則・不規則は関係なく結晶中ではハミルトニアンと運動量演算子は交換しません。

そうか、ハミルトニアンと交換しないのか、、
http://teenaka.at.webry.info/200704/article_21.h …

もし「不規則合金では、波数とエネルギーが同時固有状態をとれないからバンド構造がにじむ」のだとすれば規則結晶であっても運動量とエネルギーは同時固有状態をとれないのだから、やはりバンド構造はにじまなければならないのではないでしょうか?

おかしいなと思い(規則結晶の)ブロッホ関数に運動量演算子を作用させて、運動量の固有値が得られるか確かめてみたのですが、ポテンシャルを含む項が残ってしまい p=h~k と考えてよいのかどうかも分からなくなり、更に混乱してしまいました。

バンド描像
http://www.molecularscience.jp/research/4/4_3.html

上記URLでは”このように,結晶中の電子の運動量を考えると余計な項がついていて面倒に思えますが,実際の 散乱過程や,電場・磁場への応答を考える場合,h~kが運動量である,として話を 進める事が可能です.”と書かれていますが、これがなぜなのかもわかりません。

どうも「固有状態」「交換関係」「良い量子数」「運動量と波数の間の関係」といったものがすっきりと理解できていません。

(1)波動関数に運動量演算子を作用させたときにポテンシャルを含む項が残ってしまうにもかかわらず p=h~k と考えてもよいのはなぜか?
(2)上記の関係は不規則合金でも成り立つか?
(3)運動量とエネルギーが同時固有状態にならないにもかかわらず、規則結晶のバンド構造がにじんでいない細い線として表されるのはなぜか?

以上三点のうちどれか一つでも構いませんので教えてください。
また、全般を通してアドバイスがあればお願いします。

A 回答 (4件)

一般に周期ポテンシャル中の固有関数は、ポテンシャルと同じ周期性を持つ関数uを用いて、


ψ_k=exp(ikx)u(x)
と書くことができて、これが(波数kの)Bloch関数と呼ばれます。
この波数kには逆格子ベクトル分の任意性がありますので、一般的には第1ブリルアンゾーンの内部のみを考えるのが一般的です。
結晶(規則合金)のバンド図で書いた時の横軸はこのBloch関数に出てくるパラメータkの事で、この波数k(とバンド)を決めればエネルギーも決まるのですから、理想的な結晶のバンド図は必ず線になります。また、このバンド上の1つの点が1つの状態に対応しています。
結晶運動量を考えている時の波数はこの波数kです。

で、おそらくこの点を誤解されているのだろうと思いますが、
波動関数ψ(x)をフーリエ変換して
ψ(x)=∫dκexp(iκx)ψ(κ)
とした時のκも波数と呼びます(Bloch関数のkと区別するのにκとしています)が、kとは基本的には別のものです(無関係ではありません)。
運動量演算子と関係するのはこちらの波数κの方です。


ψ_kをフーリエ変換(正確にはフーリエ級数展開)すると、
ψ_k=Σ u_G exp(i(k+G)x)
というような形になります。和は全ての逆格子ベクトルGについてとります。
波数kのBloch関数は波数κ=k,k+G,・・・の平面波の重ね合わせで書けることが分かります。運動量h~kの成分が含まれているので、h~kの運動量をもつものとして振る舞う事があるわけですね。でもh~(k+G)の平面波の成分もありますから運動量保存則を考えた時に逆格子ベクトル分だけ変化するウムクラップ過程も許されてしまうのですね。

という感じで回答になってるか不安ですがとりあえずここまで。不足している点は補足へ。

この回答への補足

まず本当の波数κと運動量pの間には以下の関係が成り立つ。

p=hκ (h:換算プランク定数, ~はうっとうしいので取りました。)

これは自由空間(ポテンシャルなし)、完全結晶(周期ポテンシャル)に関わらない(不規則合金でも?)。

次に完全結晶内部の(本当の)波数κとエネルギーEの関係を考える。
Blochの定理を受け入れるならば以下の2つが言える。

(1) (バンドを指定すれば)ある波数κに対してエネルギーEが一意に決まる。
(2) そのときのエネルギーをE(κ)、逆格子ベクトルをGとおくと、第一BZから選んだ波数kに対して E(k)=E(k+G)=E(k+2G)=E(k+3G)=...=E(k+n*G)となる。(n=0,±1,±2,±3...)

特に(2)が重要で、電子のバンド構造は(本当はnは無数にあるが)n=0つまり第一BZのもので代表してグラフを書く。
この第一BZ内から選んだ波数kが結晶運動量を考えるための波数kである。

いま例えば第二BZの中にある波数 κ=k+G を考える。
この(本当の)運動量は hκ=h(k+G) である。
これに対して結晶運動量は hk となり本当の運動量から hG だけずれる。

この事は散乱の前後での運動量保存則を考えるとき問題になる。
κ1,κ2の二つの電子が相互作用してκ3,κ4に散乱されることを考える。

運動量保存則から κ1+κ2=κ3+κ4 が成り立つ。

例えば κ1=k1, κ2=k2, κ3=k3, κ4=k4 の様に全て第一BZ内の波数の時には、結晶運動量に対しても運動量保存則が成り立ち k1+k2=k3+k4 このような場合を正常過程と呼ぶ。

これに対して例えば κ1=k1, κ2=k2, κ3=k3, κ4=k4+G のようなときには k1+k2=k3+k4+G となり一見すると結晶運動量には運動量保存則が成り立っていないように見える。(しかしながら本当の運動量の間には保存則が成り立っている。)このような場合をウムクラップ過程と呼ぶ。

補足日時:2013/12/01 23:08
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この回答へのお礼

丁寧な回答ありがとうございます。
「結晶運動量(を考えるための波数k)」と「本当の(?)運動量(を考えるための波数κ)」の違いを理解できていないという事が認識できました。
しかし、まだイマイチ理解できていないので、補足に私の今考えていることを書きます。
コメント(そこはあってる、ここはおかしい等)をいただければ幸いです。

お礼日時:2013/12/01 23:07

#2です。


誤解を与える回答になってしまったようですいません。

周期系において波数が良い量子数であるのは併進の演算子に対する固有値が波数で指定されます。
ランダムな摂動を受けた時に波数が良い量子数とならなくなるのはそうなのですが、
どのように振る舞うかは、エネルギースペクトルによるといっています。

伝導電子の場合は、広がって存在するのでその平均値でみたときエネルギーが連続スペクトルであることは変わらず、
ただ、波数によって感じ方が違うのでスペクトルがにじむといっています。
ランダムなポテンシャル中の連続スペクトルの場合も同様にスペクトルがにじむかと思います。

なお、周期系に対して波数が良い量子数になる説明とては・・・
xだけ並進させる演算子T(x)を考えると格子間隔aとしてN個の格子で周期境界条件をいれると
1=T(Na)=T(a)^NなのでT(a)の固有値が(1^(1/N))^n=exp(i2πn/N) (n=0~N-1)に限られるため、
並進の演算子と交換するハミルトニアンの固有状態に対して2πn/Nを量子数としてとるのが良いとなります。
が、エネルギースペクトルが連続な線として表されることを保証するものではない、
ということを言おうとしたのでした。
さらに
(3)運動量とエネルギーが同時固有状態にならないにもかかわらず、規則結晶のバンド構造がにじんでいない細い線として表されるのはなぜか?
という問いに対して、
運動量と完全に交換するとすると、運動量の固有状態=自由空間の状態で表されることになるということになるので
おおむねそういう近似ができるのは結晶中で電子が自由電子的にふるまうということを説明したかったのでした。
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この回答へのお礼

ありがとうございます。

正直に言うと、まだ私の頭の中できちんと整理されていないのですが、いったんこのトピックを閉じさせていただこうと思います。

eatern27さま、moumougooさま、飲み込みの悪い私に付き合って下さりありがとうございました。のんびりと考えて疑問点がはっきりとしたらまた改めて質問させていただきたいと考えています。その時はまたご教示いただければ幸いです。

お礼日時:2013/12/04 17:38

>(2) そのときのエネルギーをE(κ)、逆格子ベクトルをGとおくと、第一BZから選んだ波数kに対して E(k)=E(k+G)=E(k+2G)=E(k+3G)=...=E(k+n*G)となる。

(n=0,±1,±2,±3...)
これを見る限り、
波数kの状態、波数k+Gの状態,波数k+2Gの状態,・・・
という多数の(異なる)状態があると思っていらっしゃるような印象を持ちますが、もしそうであればそれは間違いです。

ψ_k = exp(ikx) u(x)
というBloch関数の波数をkという事もできるし、k+G,k+2Gなどと言う事もできるんです。実際、u'(x)=exp(-iGx)u(x)は結晶と同じ周期性を持つ関数であって、
ψ_k = exp(i(k+G)x)u'(x)
と書くことができて、右辺は「波数k+GのBloch関数」と呼ぶべき形になっている事が分かるでしょう。
要はBloch関数で言う波数kの空間は周期的な構造を持っているんです。だから第一BZだけで代表させれば十分なんです。整数論での余りの概念と話は一緒です。

一般的な運動量から考えれば散乱によって第1BZの外にいくような過程が起こる事だってあるわけです。でもBloch波数を使っている時には第1BZの中で代表させることにしているので、逆格子ベクトル分だけずらして第1BZの中のどこかに散乱したと解釈するんです。そうすると、波数(結晶運動量)の和が保存していないように見えて、これがウムクラップ過程です。

この回答への補足

もしも k+nG が互いに異なる状態なのだとしたらどういう事が起こりますでしょうか?
電子が何重にでも縮退できるから すべての電子が k=0+nG の状態になってしまう?

補足日時:2013/12/02 22:29
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この回答へのお礼

> 波数kの状態、波数k+Gの状態,波数k+2Gの状態,・・・
> という多数の(異なる)状態があると思っていらっしゃるような印象を持ちますが、もしそうであればそれは間違いです。

ありがとうございます。
確かにそういう間違ったイメージを持ってしまっていました。

お礼日時:2013/12/02 22:28

「不規則合金では、波数とエネルギーが同時固有状態をとれないからバンド構造がにじむ」


というのは正しいと思いますが、ご質問内容を拝見するとテキストの意図と違うとらえ方を
しているように思います。

まず、自由空間の場合を考えてみると、この場合はエネルギーは波数に対して2次式になります。
結晶の場合は、原子が隣接することで原子のポテンシャルが重なりあって、
あたかも自由空間にある電子のように振る舞う、ゆえに、エネルギーは連続スペクトルになり、
かつ、波数が量子状態をあらわす指数(量子数)になっていて、実際エネルギー分散が見られる
というのがベースの話になるかと思います。
(上記は自由電子からの摂動ですが、原子の電子状態の重ね合わせから出発しても同じになると思います。)

それに対して、ランダム系ではおおむね自由電子的エネルギー分散を持っているものの、
ポテンシャルがランダムなために感じるエネルギーがちょっとした波数の違いで振れるので
にじんだエネルギー分散になると理解すればよいのではないでしょうか?
(波の振幅振れ方は一定周期なのに対して位置およびポテンシャルエネルギーの深さの周期性が乱れているため、
 あるものは高いエネルギーの谷に出くわしやすく、あるものは低い谷に出くわすため
 運動エネルギーは滑らかな分散でも、感じるポテンシャルエネルギーが揺らぐイメージです)

なお、
運動量は併進の生成演算子であり、併進対称性があるときに
ハミルトニアンと交換します(同時固有状態をとります)。
http://hb3.seikyou.ne.jp/home/E-Yama/sym.pdf

しかし、自由空間は併進対称性を有するので運動量とハミルトニアンは交換しますが
結晶は結晶格子ぶんだけ併進させると元に戻りますが連続な併進対称性を有しません。
にもかかわらず、波数が良い量子数であるのは、(バンド端でないところでは)
上記のとおり自由電子的な性質があるために同様のエネルギー分散性で記述ができるからです。

結晶場中の運動量は結晶運動量と呼ばれる、エネルギーを波数成分で微分したものになります。

この回答への補足

我ながら自分が何を理解していないのか把握できておりませんので、漠然とした質問になってしまうのですが、下記の文章の意味がよくわかりません。

> 結晶の場合は、原子が隣接することで原子のポテンシャルが重なりあって、
> あたかも自由空間にある電子のように振る舞う

「あたかも自由空間にある電子のように振る舞う」というのは裏を返せば、「現実の金属中の電子は自由空間にあるわけではない」という事だと思います。

もしこれが「自由空間にある電子と似ているから、自由空間にある電子と近似して考えてよい」という意味なのでしたら、自由空間にある電子っぽさが失われていくにつれて、例えば量子数がよい量子数でなくなる様な事が起こるのではないでしょうか?
例えばナトリウムの伝導電子は自由電子近似が成り立つが、遷移金属では成り立たないというような話を聞きます。ナトリウム中の伝導電子と遷移金属中の伝導電子を比べると、遷移金属中の伝導電子の方が「波数ベクトルがよい量子数でなくなっている」という様な事があるのでしょうか?

個人的には「波数kがよい量子数になるか否か」は「(仮に有限のポテンシャルがあったとしても)ポテンシャルに格子定数aでの周期構造があるか否か」で決まってほしいのですがmoumougooさんの回答を拝見すると「ポテンシャルに任意の距離αでの並進をさせたときにポテンシャルの変化が小さいか否か」で決まっているような印象を受けます。

補足日時:2013/12/02 11:16
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この回答へのお礼

不規則合金の部分にまで踏み込んだ回答ありがとうございます。
しかし、私はまだ規則結晶の方も理解できておりません。

お礼日時:2013/12/02 11:16

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