
また、認知症の程度がひどい場合は『強度の精神病にかかり、回復の見込みがないといえるとき』として離婚理由の一つとして認められる場合もあるが、認められない場合もある。それは認知症の夫への離婚後の生活の配慮があるかないかが考慮されるからだ。
複雑な事情ゆえに、離婚ができなかった場合、妻はどうしたらいいのだろう?
■認知症になった配偶者と離婚できなかった――そんなときどうする?
熟年離婚を考えていたということは、すでに配偶者への愛情が無くなっていると考えられる。その上、配偶者の介護が加わるとなると、かなりストレスの高い状況であることは間違いないだろう。人によっては精神を病んでしまう場合もありそうだが、どのようにして心に折り合いをつければよいのだろうか。@はあと・くりにっく/Better Coupleのカウンセラー、西澤寿樹さんにお話を伺った。
「かなりストレスが高くなることは想像に難くありませんが、ストレスに『向きあう』のはきついです。避けられないストレスなら、必要以上にストレスを意識しない方がいいと思います」(西澤さん)
避けられないのであれば、受け流した方がよいのだという。とはいえ、考えたくなくてもつい考えてしまうというのが人間の性だが……。
「ファンタジーを使うのも一つの方法です。『私の王子様は認知症になってしまったが、私の献身が実れば素晴らしい王子様に変身する』とか、あるいは『夫は自分を苦しめるために認知症になっているのだから、自分が苦しめば思うつぼだ』などです」(西澤さん)
漠然と熟年離婚を考えていたのではなく、「現実的」に考えていたということであれば、離婚事由に相当する他の理由が存在していたはず。そもそもの理由で離婚話を進める方法を検討するなど、今抱えている悩みを建設的な悩みに変えるというのも一つのテクニックだ。
■いつまでも被害者意識でいると、ストレスが増すばかり
「人は、自分が選んだわけではない状況ではストレスに弱くなります。『相手が認知症になったから別れたくても別れられない』と被害者意識でいると、当然ストレスは高くなります。基本的なスタンスとしては、『私は別れることもできるし、別れないこともできる。けれど、総合的な判断で私は別れないことを選んでいる』と主体性を持った認識をすることです」(西澤さん)
他人のせいにしたり、答えの出ない問いにいつまでも悩み続けていると、心身をかなりすり減らすことになる。また、気を紛らわそうと趣味に時間を使ったり、友人に悩みを相談したりすることは、少しは気分転換になるかもしれないが、根本的解決にはならないと西澤さんは指摘する。
「どうしても我慢できないなら、極論ですが、大人なのですから非難を浴びるのを覚悟で家出するといった手段もありますよね。しかし、そうしないのだとすれば、本人が現在の状態を少なくとも消極的には選択しているからです。残念ながら、人生には嫌な選択肢しかない場合もあり得ます。それでも、『離婚できない』『考えたくなくても考えてしまう』と、被害者意識を持っていると苦しくなります。クリスチャンなら、人生の苦難を『神様が自分に与えた試練』と受け止めるかもしれません。これも被害者意識を持たないための方法です」(西澤さん)
自分にはいろいろな選択肢があり、離婚をしないでいることも一つの選択である――そう考えることが大切なのだという。どんな悩みでも、答えを選ぶのは自分自身。現実を受け入れ、主体的に生きられるかどうかがカギとなりそうだ。
●専門家プロフィール:西澤 寿樹
@はあと・くりにっく/Better Couple代表。日本には珍しいMBAと臨床心理学のダブルマスター。心理療法家、臨床心理士、国際交流分析協会公認交流分析家(臨床部門)。夫婦のカウンセリングを得意としている。
(酒井理恵)