
土地収用法に基づいて土地を収用する場合、その損失補償は、完全な補償でなければならない(最判昭48.10.18)のに対し、農地改革において、農地を自作農創設特別措置法に基づき買収する場合は、その損失補償は必ずしも完全な補償である必要はなく、合理的に算出された相当な額の補償で足りる(最大判昭28.12.23)のはなぜでしょうか?
前者の土地収用法の判例は、完全補償説を採用しているのに対し、後者の農地改革の判例は、相当補償説をとっていますが、なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。
当方、法律初学者のため猿にもわかるように教えていただけると幸いです。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
わたくしは、学者ではありませんが、ご指摘の両者の最高裁判決を読み直してみて、以下のとおり、自分なりに簡単にご説明してみたいと思います。
【ご説明】
前者の土地収用法の判例は、「完全補償説」を採用しており、これについては、憲法(第29条第3項)の趣旨にも合致しており、特に解説する必要はないかと思います。
一方、農地改革において、農地を自作農創設特別措置法に基づき買収することにおいて、最高裁が「相当補償説」をとっているのは、判決文を読む限り、一言でいえば、農地改革という特殊事情を特に重要視し、考慮したことによるものと思われます。
すなわち、「正当な補償」とは、必ずしも「完全な補償」を意味するものではなく、例えば、「財産権」に対して制限を加える目的たる公共の必要の程度、必要としている社会的・経済的事情なども考慮して算定される「合理的な額」ということなのです。
このため、本件農地改革に伴い、農地買収価格が低額であったにもかかわらず、「正当な補償」であったと考えられるのは、我が国の農地構造の近代化・民主化を図るためという、その目的と、それが必要とされた事情を考慮したものと考えられます。
【ご参考】
なお、後者の農地改革に基づく補償制度に係る判例については、昭和28年の判決であり、既に70年程度経過しております。
本件判決については、4名の裁判官の反対意見が付されていることや、その後の社会情勢の変化等を踏まえると、今後同様の事案が発生した場合に、引き続き判例として「妥当」と判断されるかどうかについては疑義のあるところであります。
したがって、これは個人的意見ではありますが、今後、類似事案の発生時には、憲法(第29条第3項)違反を理由として本件の判例変更を求めるべく再び最高裁(大法廷)の判断を仰ぐことも期待されるところではあります。
【参照法令】
●憲 法
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
② 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
③ 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
【土地収用法、昭和48年10月18日最高裁第1小法廷判決】
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/033 …
【自作農創設特別措置法、昭和28年12月23日最高裁大法廷判決】
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/042 …
条文までつけて説明して下さりありがとうございます。
大変わかりやすい解説で、よく理解することができました。
また何かわからないことがありましたらお尋ねするかもしれません。
その時は何卒よろしくお願い申し上げます。
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