只今錯体の勉強をしています。
配位子場理論において、金属と配位子の軌道の相互作用によって、配位子場分裂(Δ)することはわかりました。この時の「エネルギーΔ」と、電子が同一軌道にスピン対をつくって入る際の「電子間反発エネルギー」の大小により、金属のd軌道の電子配置が高スピンになるか低スピンになるか、理解することはできました。
配位子場分裂(Δ)の大きさは、分光化学系列に則った配位子の違いによるものと記憶しています。
また一般に第一遷移金属元素に比べ第二、第三の方が低スピンになると教科書(シュライバーよりかなり大まかです)には書いてありました。
ここで疑問なのですが例えば、[Co(en)3]3+という錯体について考えたとき、Δ及び電子間反発エネルギーの具体的は値、または大小関係が分からなくても、分光化学系列と第何遷移金属といった情報だけで、Coのd軌道の電子は高スピン、低スピンどちらか分かるものなのでしょうか?
つまるところ、金属の種類ごとに、分光化学系列で真ん中(H2O)辺りより左側の配位子は低スピンになる~といったaboutな予測はできないのでしょうか?
また、もう一点、分光化学系列は大まかにC>N>O>Xとなっていますが、なぜでしょうか?配位子と金属のπ軌道の相互作用という面では理解できましたが、以下の説明がわかりません。
「配位子の電気陰性度が増加し、金属にσ供与するエネルギー準位が低下するので、この軌道と金属のσ対称性のeg*軌道とのエネルギー差がC,N,O,Xの順に大きくなり、その結果軌道相互作用が小さくなってΔが小さくなる」
大変長く、またわかりにくい文章となってしまいましたが回答お願いします。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
> 金属の種類ごとに、分光化学系列で真ん中(H2O)辺りより左側の配位子は低スピンになる~といったaboutな予測はできないのでしょうか?
できます。
配位子の分光化学系列ほど有名ではありませんけど、金属イオンの分光化学系列というものがありまして
Mn2+ < Ni2+ < Co2+ < Fe2+ < V2+ < Fe3+ < Co3+
の順で配位子場分裂Δが大きくなります。[Co(en)3]3+について考えると、Co3+はΔが大きくなるイオン、enはΔがそこそこ大きくなる配位子なので、[Co(en)3]3+は低スピン錯体になることがわかります。
おおざっぱには
Mn2+はNO2とCNの間、
Co2+はphenとNO2の間、
Fe2+はenとbpyの間、
Fe3+はH2Oとenの間、
Co3+はFとH2Oの間、
に高スピン錯体と低スピン錯体の境界線があります。
Mn3+とCr2+はヤーン-テラー効果のために正八面体構造からずれるので少し厄介で、これらのイオンはふつう金属イオンの分光化学系列には含めません。Mn3+では高スピンになる錯体がほとんどで、低スピンになるのは[Mn(CN)6]4-くらいです。Cr2+では、[Cr(en)3]2+が高スピン、[Cr(bpy)3]2+が低スピンになるので、Fe2+とだいたい同じところに境界線があると考えればいいです。Ni3+は、事実上すべて低スピン錯体になります。
> 分光化学系列は大まかにC>N>O>Xとなっていますが、なぜでしょうか?
配位子のπ軌道と金属のd軌道との相互作用のためです。金属にσ供与する軌道のエネルギー準位の違いは、分光化学系列にはあまり影響しません。このことは、ハロゲンの順序が F>Cl>Br>I になっていることから分かります。もしσ供与する軌道のエネルギー準位の違いが分光化学系列を決めているのならば、I>Br>Cl>Fの順になるはずです。ふつうは、「F→Iの順にΔが小さくなるのは、F→Iの順にπ供与性が強くなるからだ」という説明がなされます。
> 以下の説明がわかりません。
> 「配位子の電気陰性度が増加し、金属にσ供与するエネルギー準位が低下するので、この軌道と金属のσ対称性のeg*軌道とのエネルギー差がC,N,O,Xの順に大きくなり、その結果軌道相互作用が小さくなってΔが小さくなる」
金属にσ供与する配位子のエネルギー準位は、金属のd軌道よりも低いところにあります。配位子のエネルギー準位が低くなれば低くなるほど、金属のd軌道とのエネルギー差が大きくなるので、軌道相互作用が小さくなってΔが小さくなります。配位子のエネルギー準位は配位子のイオン化エネルギーの符号を変えたものなので、配位子の電気陰性度が増加するほど低くなります。
お探しのQ&Aが見つからない時は、教えて!gooで質問しましょう!
似たような質問が見つかりました
- 物理学 電子軌道のエネルギー準位 スピン相互作用 について 3 2022/06/06 22:50
- 化学 結晶場理論で真空状態から例えば8面体配位でt2gが安定化するのはなぜでしょうか? 1 2023/04/30 19:09
- 化学 3d遷移金属の結晶場分裂幅について 0 2023/04/18 14:19
- 化学 化学 Cl2の分子起動のエネルギー準位を、Cl原子の最外核の原子軌道と関係付けて、結合性軌道と反結合 0 2022/12/31 23:01
- その他(応用科学) 遷移元素に関する次の記述のうち正しいものを2つ選べ 1 s軌道が不安定な電子配置 2 s軌道とp軌道 2 2023/07/19 22:04
- 化学 二酸化硫黄SO2の配位結合について質問です。 参考書ではSO2は、一酸化窒素SOに「対電子のいる3個 1 2023/03/20 16:24
- 化学 実際の分子の形などが説明するのに原子価結合理論が適用されますが、実際の軌道のエネルギー準位は等価? 3 2023/08/10 13:47
- 物理学 水素類似原子の原子軌道の形状とエネルギーに関する次の記述のうち正しいものを2つ選べ。 1原子軌道の大 1 2023/07/19 21:31
- 化学 結晶場理論で真空状態から例えば8面体配位でt2gの安定化の実験and/or理論的証拠って? 1 2023/05/02 22:20
- 化学 電子のバンド構造で、Mgで金属、Siで半導体と異なる要因について教えて下さい。 1 2023/08/10 19:25
このQ&Aを見た人はこんなQ&Aも見ています
-
性格の違いは生まれた順番で決まる?長男長女・中間子・末っ子・一人っ子の性格の傾向
同じ環境で生まれ育っても、生まれ順で性格は違うものなのだろうか。家庭教育研究家の田宮由美さんに教えてもらった。
-
Cu2+、Co3+のできる理由とその電子配置について
化学
-
分光化学系列の吸収波長とエネルギー差について
化学
-
ヤーンテラー効果について
化学
-
-
4
d電子数の数え方
化学
-
5
トリス(エチレンジアミン)コバルト(III)塩の合成において
化学
-
6
電子配置について
化学
-
7
等吸収点
化学
-
8
銅イオンと銅の電子の入り方
化学
-
9
吸収極大波長が2つ出てくる理由
化学
-
10
配位子場安定化エネルギー???
化学
-
11
ヘキサアンミンコバルト((3))塩化物の合成について
化学
-
12
コバルト錯体についてです。
化学
-
13
トリス(エチレンジアミン)コバルト(III)塩合成
化学
-
14
金属錯体の色の原理についての疑問です。
化学
-
15
硝酸イオンのLewis構造式について
化学
-
16
a.u.という単位について
物理学
-
17
コバルトの錯体について質問です。
化学
-
18
吸光度の単位
化学
-
19
ヘキサアンミンコバルト((3))イオンについて
化学
-
20
化合物のモル吸光係数データベースを教えて下さい
化学
おすすめ情報
このQ&Aを見た人がよく見るQ&A
デイリーランキングこのカテゴリの人気デイリーQ&Aランキング
-
イオン化エネルギー
-
銅イオンと銅の電子の入り方
-
電子配置について
-
d電子数の数え方
-
水溶液中のMn^2+による着色が、...
-
異核2原子分子について。 分子...
-
双極子モーメント
-
O2+,O2,O2−,O22−の中で常磁...
-
化学 銅Cuについて Cuは原子番...
-
分子軌道のエネルギー準位図 o2...
-
参考書に、CO2の混成軌道につい...
-
ベンゼンのΠ軌道とΠ*軌道の違い...
-
金属錯体の色の原理についての...
-
次の錯体の不対電子数を推定せ...
-
なぜ、酸性度はエタン、エチレ...
-
窒素分子と酸素分子の電子配置...
-
共役の長大=長波長シフト?
-
Crの電子配置がなぜ3d軌道...
-
配位子場安定化エネルギー???
-
N原子のsp3混成軌道につい...
マンスリーランキングこのカテゴリの人気マンスリーQ&Aランキング
-
銅イオンと銅の電子の入り方
-
電子配置について
-
原子軌道の波動関数+-について
-
化学 銅Cuについて Cuは原子番...
-
イオン化エネルギー
-
リンはなぜ5本の共有結合がで...
-
異核2原子分子について。 分子...
-
窒素分子と酸素分子の電子配置...
-
共役の長大=長波長シフト?
-
水溶液中のMn^2+による着色が、...
-
N原子のsp3混成軌道につい...
-
金属錯体の色の原理についての...
-
分子軌道のエネルギー準位図 o2...
-
参考書に、CO2の混成軌道につい...
-
d電子数の数え方
-
銅イオンの電子配置
-
なぜ、酸性度はエタン、エチレ...
-
分光化学系列と配位子場分裂 ...
-
スズが+2価より+4価のほう...
-
なぜ遷移元素は複数の価数をと...
おすすめ情報