安定同位体の存在比が、一番存在比の多いものでも4桁しかないものでも、原子量は5桁で表示されている場合があるのはなぜでしょうか? 有効数字の計算法がよくわからなくなってきました。
計算するとき、その結果の有効数字は一番有効数字に低いものにあわせるように、教わっています。
ある元素において一番多く存在する安定同位体の存在比の有効数字が3桁であっても、原子量が5桁で表示されている場合があるのはなぜなのでしょうか。
ホウ素は元素の同位体組成表(2010)では質量数11のものが80.1(7)% 質量数10のものが19.9(7)%ですが,
原子量表(2010)では10.811±0.007となっています。(特に2010年が特別というわけではありません。)
存在比は3桁なのに、原子量は5桁です。存在比を括弧部分も含めてで4桁と考えても、5桁目があるのはさらに一桁多く表示したということでしょうか?
炭素も同位体存在比最大の12のものが98.93(8)%(13のものが1.07(8)%)で4桁ですが、原子量は12.0107±0.0008
と6桁です。
通常の高校や大学で教わっていたような有効数字の計算方法では、どう考えても6桁にはできないと思うのですが。
(ナトリウム23は100%の存在比で、原子質量が22.9897692809で原子量も同じ有効数字であることは理解できます。)
No.4ベストアンサー
- 回答日時:
> 多い方の成分の有効数字の方で、0.9893 は
> 9.893×10 ということで、有効数字は4桁ですので
> 12*(0.9893)=11.87 とならないのだろうか
なりますよ。この項だけを取り出して考えれば、有効数字は4桁になります。うるさいことを言えば5桁とした方がいいです(あとで説明します)けど、考え方は合っています。
> 12*(0.98930)+13*(1-(0.98930))=12.0107
> これが6桁とれるのはなぜか
このことをきちんと理解するためには、やはり「不確かさ」と「誤差」の違いを理解しなければならないのかも知れません。実は、回答#2と#3では、「不確かさ」と書かなければならないところをすべて「誤差」と書いてあります。そして大変まぎらわしいことに、「誤差」と書くべきところもそのまま「誤差」と書いてあります。
誤差とは、測定値と真の値との差です。たいていの場合、真の値が不明なので、誤差も不明なのですけど、測定値も真の値もある決まった値なのですから、誤差もまた、ある決まった値になります。
不確かさとは、誤差の大きさの程度を表す数値です。測定を吟味すると、誤差の絶対値は大きくてもせいぜいこのくらいだろう、ということを推定することができます。このだいたいの数値、いわば誤差の大きさの上限、が不確かさです(これは、おおざっぱな説明です。きちんとした定義は
「不確かさの入門ガイド」
http://www.nite.go.jp/asse/jcss/pdf/koukaib_f/AS …
をご覧下さい)。
やっかいなことに、ネットや教科書で「誤差」と呼ばれているものは「不確かさ」である場合が多いです。「『誤差』の伝播規則」について調べる時には、ご注意ください。
以下は、「誤差」と「不確かさ」を区別した説明です。
炭素12の存在比の測定値を0.9893、その「誤差」をΔとすると、存在比の真の値は0.9893-Δになります。ここで、0.9893 という数字の“有効数字”は無限大であること、つまり0.98930000.... であることに注意して下さい。測定値0.9893の有効数字が4桁だ、という表現は、測定値0.9893の「不確かさ」が0.0001より大きく0.0010より小さい、ということの別の表現です。つまり、測定値の有効数字とは、「誤差」を表すものではなく、「不確かさ」を表すものです。また、測定値0.9893(8)という書き方は、測定値0.9893の「不確かさ」が0.0008であることを意味します。
存在比の真の値から、原子量の真の値を計算すると
原子量の真の値=12*(0.9893-Δ)+13*(1-(0.9893-Δ))
=12*(0.9893-Δ)+13*(1-0.9893+Δ)
=12.0107+Δ
ここで原子量の測定値を12.0107と考えれば、原子量の「誤差」は
原子量の誤差=(原子量の測定値)-(原子量の真の値)
=(12.0107)-(12.0107+Δ)
=-Δ
となって、存在比の「誤差」の符号を変えたものに等しくなります。
一方、炭素12の存在比の測定値を0.9893、その「不確かさ」をσとして、「『不確かさ』の伝播規則」を使って、原子量の不確かさを計算してみると、途中の計算は省きますが
原子量の不確かさ=√(σ^2)=σ ∵σ>0
となって、今の場合は、存在比の「不確かさ」に等しくなります。
おおざっぱに言うと、「誤差」の相殺が起こるので「不確かさ」が変わらない。だから有効数字が6桁とれる、ということです。
念のため、12*(0.9893)=11.87についても考えてみます。
真の値=12*(0.9893-Δ)=11.8716-12Δ
なので測定値を11.872と考えれば「誤差」は
誤差=(11.872)-(11.8716-12Δ)
=0.0004+12Δ
になります。「不確かさ」は「『不確かさ』の伝播規則」を使って、
不確かさ=12√(σ^2)=12σ
になります。測定値0.9893の有効数字が4桁だとすれば、0.0001<σ<0.0010ですから、12*(0.9893)の「不確かさ」は0.0012<σ<0.0120になり、12*(0.9893)=11.8716は、小数点以下3桁目まで有効、つまり有効数字は5桁になります(かけ算で繰り上がりが起こるので有効数字が1桁ふえる)。「不確かさ」を有効数字で表せば、12*(0.9893)=11.872
になります。
本当にわかりやすい説明ありがとうございました。
週末ネットを見ておりませんでしたので、ご連絡が遅くなりすみません。
「誤差」と「不確かさ」が違うものであること
0.9893 という数字の“有効数字”は無限大
本当にすっきりしました。
どうもありがとうごさいました。
No.5
- 回答日時:
回答#4が長くなりすぎたので、要点をまとめます。
○測定値の有効数字は「誤差」を表すものではなく「不確かさ」を表すものです。
○「不確かさ」が変わらなくても、有効数字の桁数が増える場合があります。
>有効数字で私は知らないけれども、実は常識というべき規則のようなもの
○加減算と乗除算が混じった計算では、計算の順序により有効数字の桁数が変わる場合があります。
例えば、http://oshiete.goo.ne.jp/qa/6232169.html の回答#4にある、水の質量Wmの計算を見てみてください。空気の密度dkと水の密度dmの有効数字が3桁しかないので、(6.2)~(6.3)のように素直に計算すると、Wmの有効数字も3桁になります。しかし、計算の順序を変えると、[注1]のようにWmの有効数字を5桁で計算することができます。
ついでに。
> 原子量は、各同位体の原子質量とその存在比の重み付け平均と高校でも教わって
はい。原子量表に載っているものも、もちろん各同位体の原子質量とその存在比の重み付け平均です。
あと、日本化学会原子量委員会の作成した「『原子量表(2010)』について」
http://www.chemistry.or.jp/international/atomict …
にあるように、実は、炭素やホウ素は「通常の地球上の物質の同位体組成に変動があるために表記の原子量より精度の良い値を与えることができない」元素です。しかし、話を簡単にするために、回答#2~4では、このことを無視して、これらの元素の原子量の有効数字が実験装置の精度で決まっているかのように説明しています。これは、試料の組成の変動で有効数字が決まる場合よりも、実験装置の精度で有効数字が決まる場合のほうが、説明が楽(すくなくとも私にとっては)だからです。でも、断りなくこうゆうことをすると、分析化学の先生や化学分析の専門家にはすごく怒られるので、注意してください。
要点をまとめて下さり、ありがとうございました。
原子量表(2010)での原子量と、今までの有効数字についてもまとめて下さり感謝します。
お教え下さったことをきちっと理解し、有効数字のみでの計算をしっかりできるようになった上で、実験装置の精度、実験誤差まで考えて、有効数字の計算ができるようになりたいと思います。
ありがとうございました。
No.3
- 回答日時:
> 最後にお示し下さった有効数字の理屈について、理解の助けになる本など
そんなにむつかしく考えなくてもいいですよ。原子量=A+d(1-x)で原子量の有効数字の桁数がxの有効数字の桁数より増える仕組みは、「12.0000gの水に0.0107gの溶質を加えて溶液をつくりました。溶液の質量はいくらになりますか?」という問いの答が
12.0000g+0.0107g=12.0107g
になるのと同じ理屈です。
溶質の質量の有効数字は3桁ですけど、溶液の質量の有効数字は6桁になります。
> お示しいただいたとおりの計算をすると、
> (中略)
> 12.01(最終的に4桁に四捨五入)
> という風になってしまわないのでしょうか。
なってしまいそうですけど、あることに注意すれば、なりません。順に説明します。
まず、質問者さんの考え方に基づいて、もうちょっとだけ定量的に計算してみると
12*(0.9893)+13*(0.0107) = 12.0107
12*(0.9893+0.0008)+13*(0.0107+0.0008) = 12.0307
12*(0.9893-0.0008)+13*(0.0107-0.0008) = 11.9907
となるので原子量は
12.01+/-0.02
のように有効数字4桁になります。
「誤差の伝播規則」を使うと、原子量の誤差をさらに定量的に評価することができます。
原子量の誤差=√((12*0.0008)^2+(13*0.0008)^2)=0.014
となるので原子量は
12.011+/-0.014
になります。原子量の誤差は、「誤差の伝播規則」を使って“正しく”求められましたが、やはり有効数字は4桁になります。
> 便宜的な有効数字の計算法が間違っているのだとは思う
上で示したように、誤差の伝播規則を使っても有効数字は4桁になりますから、便宜的な有効数字の計算法が間違っているわけではないです。
間違っているのは、炭素12の存在比の誤差と炭素13の存在比の誤差が無関係である、という前提条件です。この間違った前提条件のもとで誤差の伝播規則を使うと、間違った結果が導かれます。
炭素12の存在比の誤差と炭素13の存在比の誤差が無関係ではない、ということは、質量分析で実測しているのは何か?について考えてみると分かります。質量分析で測っているのは、
炭素12の存在比xと炭素13の存在比y
ではなく
炭素12に対する炭素13の存在比α≡y/x
です。
αは、おおまかに言えば、質量スペクトルの炭素12のピーク強度と炭素13のピーク強度の比そのものです。炭素12の存在比xと炭素13の存在比yは、αの測定値からx=1/(1+α), y=α/(1+α) のように計算される値です。この式から分かるように、αの測定値が真の値より大きくなれば、xの誤差は負の値になりyの誤差は正の値になります。逆に、αの測定値が真の値よりも小さければ、xの誤差は正、yの誤差は負になります。このように、xの誤差とyの誤差が連動しているので、「炭素12の存在比の誤差と炭素13の存在比の誤差が無関係である」という前提条件が間違っていることが分かります。
原子量をαを使って表せば、誤差の伝播規則を使って、αの誤差から原子量の誤差を求めることができます。
原子量
=12x+13y
=12*1/(1+α) + 13*α/(1+α)
=12*1/(1+α) + (12+1)*α/(1+α)
=12+α/(1+α)
計算の詳細は省きますが、αの誤差を0.0008として、原子量、x、y、のそれぞれの誤差を「誤差の伝播規則」を使って計算すれば、みんな0.0008になることを示すことができます。
ということで、
> 理解の助けになる本などはございますでしょうか?
ネット検索で「誤差の伝播規則」を調べるだけでも、ずいぶんと役に立つと思いますよ。
さらに詳しい説明どうもありがとうございました。
一つだけ質問をお許し下さい。何回も本当にすみません。
原子量=A+d(1-x)で原子量の有効数字の桁数がxの有効数字の桁数より増える仕組み
については、ご説明下さった12.0000g+0.0107g=12.0107gで理解しております。
また、xと1-xの和が1になるので、両方の存在比の誤差が無関係でないことも
理解しました。
理解できていないのは、多い方の成分の有効数字の方で、0.9893 は
9.893×10 ということで、有効数字は4桁ですので
12*(0.9893)=11.87 とならないのだろうかと言うことなのです。
もしくは 0.9893(8)というのは 0.98930±0.0008と考えて
つまり (9.8930±0.0008)×10ということで、このとき有効数字は5桁のため、
12*(0.98930)+13*(0.01070) = 12.011 のように 5桁になるのではないかというのが
疑問なのです。
いいかえると、12*(0.98930)+13*(1-(0.98930))=12.0107 これが6桁とれるのは
なぜかということです。(原子量表でも6桁になっていますので)
計算上有効数字を一つ多めにしておいて最後に四捨五入の、四捨五入する前
のところが原子量表に乗っているということはあるのでしょうか。
もしくは、両方足して1になる場合は、有効数字が一桁増えるという、規則などが
あるのでしょうか。
101325さんの、ご説明して下さっている内容よりも、もっと浅いところで、うろついて
いる状態です。すみません。
なにか、有効数字で私は知らないけれども、実は常識というべき規則のようなものが
あるのかなと考えております。
何度も本当にすみません。
これまでにお教え下さったことだけでも、今まで知らなかった知識を身につけることが
でき感謝しております。
No.2
- 回答日時:
簡単のため質量数13の炭素の原子質量を13と近似して計算すると
12*(0.9893)+13*(1-(0.9893))=12.0107
12*(0.9893+0.0008)+13*(1-(0.9893+0.0008)) = 12.0099
12*(0.9893-0.0008)+13*(1-(0.9893-0.0008)) = 12.0115
になって、原子量の誤差±0.0008という数値が同位体存在比の誤差に由来していることが分かります。10B=10.013, 11B=11.009として、ホウ素でも試してみてください。
理屈は以下のとおり。
軽いほうの原子質量をA, 重いほうの原子質量をA+d, 軽い同位体の存在比をxとすれば、原子量は
A*x + (A+d)*(1-x)
=A*x + A - A*x + d -d*x
=A+d(1-x)
になるので、d=1かつA>10 ならば有効桁数が増えて、存在比の誤差がそのまま原子量の誤差になります。d=2のときや、安定同位体の数が3以上になると少し複雑になりますけど、考え方は同じです。
大変丁寧な説明ありがとうございました。
原子量の誤差がどのように出てくるのかもわかりました。
ただ、有効数字のとりかたを、根本的ではない、便宜上のもの※で理解しているせいか
有効数字が増えるということに引っかかってしまっております。
(※私の知識 足し算の場合は一番小さな位にあわせる。
足し算の結果繰り上がった場合は一桁増えるのはかまわない。(2.1 + 5 = 7
8.1 + 5 = 13 というような感じ。)
かけ算の場合は,掛け合わせる中で一番桁数の少ないものと同じ桁の有効数字とする。)
有効数字について、質量数ということではなく、ただの数値の計算として
12.0000のものの存在比0.9893として、
13.0000のものの存在比(1-0.9893)ということにしてしまい、
お示しいただいたとおりの計算をすると、
12.00000*(0.9893)+13.00000*(1-(0.9893))
=12.00000*(0.9893)(有効数字4桁)+13.00000*0.0107(有効数字3桁)
=11.872(4桁だが、1桁多めに5桁残した)+0.139(3桁)=12.01(最終的に4桁に四捨五入)
という風になってしまわないのでしょうか。
滴定の時などで、はじめの読み10.56 mL 終わりの読み19.56 mLのような場合、
(19.56 -10.56 )mL = 9.00 mLで滴定値の有効数字は引き算をした結果の
実質の滴定値の3桁として、その後の濃度計算に用いるように教わっています(滴定値の
有効数字を増やしたければ、滴定値を10 mL以上にするように条件を組むように言われ
ました) 。また、有効数字は増えることがない(足し算で繰り上がりがあるとき以外)
とも教わってきました。
原子量の誤差まで含めて、お教えいただいた方法で出せているので、
便宜的な有効数字の計算法が間違っているのだとは思うのですが、
最後にお示し下さった有効数字の理屈について、理解の助けになる本などは
ございますでしょうか?
お教え下さった上に、さらに質問をしてしまい申し訳ありません。
大変感謝しております。
No.1
- 回答日時:
こんにちは。
理由は簡単です。
天然の1モル当たり質量を測るのは、混ざった状態のをそのまんま測ればよいので容易。
一方、天然のものを各同位体に分離してから測るのは、どの程度ちゃんと分離できているかによって測定値が変わります。つまり、天然のものを測るのに比べて実験誤差が大きいのです。
ありがとうございました。
原子量は、各同位体の原子質量とその存在比の重み付け平均と高校でも教わっていましたが、原子量表に乗っているものは、同位体混合物の状態での実測値だったのですね。
原子質量一個一個は質量分析ではかれると思いますが、同位体以外に不純物のない混合物全体としての1モルの質量をはかるのはかなり難しそうですね。
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