No.1ベストアンサー
- 回答日時:
大体そう言うことです。
一人称には「あ」もあって、こっちの方が古いんじゃないか、とか、「か」「こ」は男性や女性やものや場所も指すことができた、など、細かいことを言えばきりがありませんが。
まず、「わ」を見てみましょう。
『日本国語大辞典』によれば、
「わ」は必ず助詞を添えて用い、単独の場合は「われ」を用いた。また、上代では「わどり」のように、名詞とも複合した。
「わ」のような一音節の語は据わりが悪く、何かと一緒に使うことで安定するのです。
ヨーロッパ諸語の代名詞もほとんどが一音節ですが、動詞なしでは使わないのが原則です。
単独で使いたいときには、自律形という特殊な形を使います。
日本語の代名詞も同じで、助詞でも何でもいいから、とにかく支えが必要なのです。
で、単独使う場合には「れ」を添えるのです。
ではこの「れ」に何か意味はあるのか?
1800年頃に書かれた『皇国辞解』という本には、レは「事をとどめ押える言」とありますが、あてにはなりません。
『大言海』はレは「添えた辞」と素っ気ないのですが、これが穏当でしょう。
「れ」は代名詞専用の接尾辞で、特に意味はないと思われます。
動詞の活用だって、「寝る」の「る」に意味はないでしょ?
「書かない」は kak-a-nai
「寝ない」は ne-nai
と分析されますが、「書かない」に出てくる -a- に特に意味はない。
子音の連続 kak-nai を防ぐためだけにある。
「われ」の「れ」も、二音節にするだけの安定剤に過ぎない。
別に「れ」でなくてもよかったんだが、たまたま「れ」が選ばれただけ。
一人称の代名詞に「あ」や「わ」が選ばれたのと同じで、考えても仕方がない。
ご回答ありがとうございます。
>「わ」は必ず助詞を添えて用い、単独の場合は「われ」を用いた。
:
相当前から並立して使われていたということですね。
>1800年頃に書かれた『皇国辞解』という本には、レは「事をとどめ押える言」とありますが、あてにはなりません。
『大言海』はレは「添えた辞」と素っ気ないのですが、これが穏当でしょう。
:
わかりました。
典拠にも色々ありますが、その中から妥当なものを選び出す主観的判断が必要ですね。
>動詞の活用だって、「寝る」の「る」に意味はないでしょ?
:
言われて考えてみましたが、仮名一文字と「る」の組み合わせはほとんどが動詞の終止形として存在していますね。
色々と多様な角度から教えていただき、大変参考になりました。
No.2
- 回答日時:
>むかしは、「I=わ」「he=か」「who=た」などと言ったのだと思います。
「我」「彼」「誰」という漢字を使い出してから「われ」「かれ」「たれ」と読むようになったのだと思います。
少し、事情が違うと思います。漢字と漢文が使えるようになって、初めて昔の言葉が記録されることになったわけです。日本で現存する最古の文章は、「古事記」ですがその例を挙げておきましょう。
於其嶋天降坐而、見立天之御柱、見立八尋殿。於是、問其妹伊邪那美命曰「汝身者、如何成。」答曰「吾身者、成成不成合處一處在。」爾伊邪那岐命詔「我身者、成成而成餘處一處在。故以此吾身成餘處、刺塞汝身不成合處而、以爲生成國土、生奈何。」【訓生、云宇牟。下效此。】伊邪那美命答曰「然善。」爾伊邪那岐命詔「然者、吾與汝行廻逢是天之御柱而、爲美斗能麻具波比【此七字以音。】」
如此之期、乃詔「汝者自右廻逢、我者自左廻逢。」約竟廻時、伊邪那美命、先言「阿那邇夜志愛上袁登古袁。【此十字以音、下效此。】」後伊邪那岐命言「阿那邇夜志愛上袁登賣袁。」各言竟之後、告其妹曰「女人先言、不良。」雖然、久美度邇【此四字以音】興而生子、水蛭子、此子者入葦船而流去。次生淡嶋、是亦不入子之例。(新訂「古事記」角川文庫より)
この漢文体を書き下し文にしたものを次のサイトでご覧ください。
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/906437/14
これによれば、つぎのように読ませています。
「汝(な)が身は如何に成れる。」・「吾(わ)が身は」・「汝(な)は」・「我(わ)は」・「吾(わ)と汝(な)」
この読み方は、本居宣長を含めた後世の学者たちによって研究された成果によるものです。しかし、この研究は「古事記」だけをいくら研究しても結果は出ません。外の「日本書紀」(一部の)「風土記」、とりわけ「万葉集」に拠ることで解明できることが多くあります。和歌の表記がほとんど「万葉仮名」で書かれているからです。しかし、ことはそれほど簡単ではありません。
万葉集第1巻第1番の歌
【原文】篭毛與 美篭母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳尓 菜採須兒 家吉閑名 告<紗>根 虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居 師<吉>名倍手 吾己曽座 我<許>背齒 告目 家呼毛名雄母
【読み】篭もよ み篭持ち 堀串もよ み堀串持ち この岡に 菜摘ます子 家聞かな 告らさね そらみつ 大和の国は おしなべて 我れこそ居れ しきなべて 我れこそ座せ 我れこそば 告らめ 家をも名をも
原文は 「吾許曽居」書かれていますが、読み方は「我れこそ居れ」となっています。(万葉仮名が必ずしも表音的ではないため)「あ」や「わ」でなく「我れ」になるのは和歌としての調べに影響されて、そう読んだのでしょう。ところが、第20巻にある「防人の歌」では、
[番号]20/4375
[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
[原文]麻都能氣乃 奈美多流美礼波 伊波妣等乃 和例乎美於久流等 多々理之母己呂
[訓読]松の木の並みたる見れば家人の我れを見送ると立たりしもころ
「和例」という表音的な万葉仮名で「我れ」となっています。
かと思うと、同じ「防人の歌」でも、
[番号]20/4420
[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)
[原文]久佐麻久良 多妣乃麻流祢乃 比毛多要婆 安我弖等都氣呂 許礼乃波流母志
[訓読]草枕旅の丸寝の紐絶えば我が手と付けろこれの針持し
「安我弖」は「我が手」となっていて、「あ」が代名詞でしょう。
というわけで、上代には「わ」「あ」「われ」が併用されたと言えるのではないでしょうか。
一方で、「たそがれ」(誰そかれ)や「かはたれ」(彼は誰)という言葉が現れる平安期から,次第に「われ」・「なれ」・「かれ」・「たれ」に定まっていったのでしょう。
ご回答ありがとうございます。
>漢字と漢文が使えるようになって、初めて昔の言葉が記録されることになったわけです。
:
あ、そうなんですか。
全然知りませんでした。^^;
勉強になります。
>上代には「わ」「あ」「われ」が併用されたと言えるのではないでしょうか。
一方で、「たそがれ」(誰そかれ)や「かはたれ」(彼は誰)という言葉が現れる平安期から,次第に「われ」・「なれ」・「かれ」・「たれ」に定まっていったのでしょう。
:
わかりました。
貴重な資料をお示しいただき、ありがとうございました。
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