

正岡子規、高浜虚子が俳句において「写生」を重視したことは知られています。
「写生」について、私は「眼前の事物(自然、人事いずれも可)を、主観を排して句にする」と
解釈しています。
この「写生」について、子規、虚子は与謝蕪村の句を模範としました。
ところが、蕪村の句は、そのほとんどが眼前の事物を「写生」したものではなく、空想に基づく
ものです。
行く春や撰者を恨む歌の主
鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな
公達に狐化けたり宵の春
それなのになぜ、子規、虚子は蕪村の句を「写生句の模範」ととらえたのでしょうか。

No.1ベストアンサー
- 回答日時:
こんにちは。
わたしは俳句には詳しくないので、誰か回答してくれないかと毎日見ていたのですが、どうしても回答がつきません。その間に、こういうことではないか、と少しずつ推測しつつ調べていくと、写生というのはそれほど単純なことではないらしいことがわかってきました。
最初に気が付いたのは、萩原朔太郎の「郷愁の詩人 与謝蕪村」という著作です。朔太郎はこの中で、子規らが蕪村の俳句を「客観写生」の規範として価値づけたことを批判しています。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000067/files/47566 …
朔太郎の著作も古いものなので、これだけでは不十分だと思いますが、蕪村は芭蕉を尊敬し、目標としていたので、芭蕉を主観的、蕪村を客観的と分けることは、たしかに単純すぎるようです。
昨日、書店に寄ったついでに、三省堂の「俳句大辞典」の「写生」の項を見ました。子規はこの写生という考え方を、おもに絵画からとったようですが、西洋の文学の考え方からの影響も少しあるようです。そして、子規は最初から「写生」という言葉を使っていたわけではなく、「写実」と言っていました。ある時期から「写生」という言葉に変わったとのことなのですが、この「写実」と「写生」は、俳句では分けて考えられているそうです。西洋風にいうと、現実をそのまま描写する「写生」はナチュラリズムであり、「写実」は、内容が事実であるか空想であるかには関係なく描写がリアルであること、つまりリアリズムであるといえそうです。それで、子規はこの「写生」と「写実」をまだ明確に分けて考えていなかったのではないかと考えたのですが、これについて、比較文学者の井上健という人の次のような解説がありました。
写生
対象をありのままに写す方法。明治以降、スケッチ、デッサンの訳語として一般化していたものを、正岡子規が短歌・俳句に導入した。子規自ら「写生といひ写実といふは実際有のままに写すに相違なけれども固より多少の取捨選択を要す」と述べているように、写生はもとより、虚構の要素を抜きにして成り立つものではなく、子規は、写生という用語でもって、リアリズム文学の方法を指し示していたことになる。
https://kotobank.jp/word/%E5%86%99%E7%94%9F-186198
つまり、主観を全く廃した純粋な客観的写生に限定してはいなかったと考えられます。客観的写生という考え方は、むしろ虚子においてより追求されたのではないでしょうか。
虚子の曾孫にあたる俳人、坊城俊樹はこう書いています。
虚子はその写生、つまり実際の景色や物をありのままに写しとることを、あるいはスケッチすることを一種類のものとしてとらえてはいなかった。そこに主観や客観という言葉を使っていろいろな到達点があると考えた。
坊城俊樹の空飛ぶ俳句教室
http://www.izbooks.co.jp/soraB14.html
また、虚子と蕪村の次の二句を比較して、蕪村の句の方が写生としては正当であり、虚子の句の方は、写生を超えた客観描写であるとも指摘しています。
白牡丹といふといへども紅ほのか 虚子
牡丹散て打ちかさなりぬ二三片 蕪村
http://www.izbooks.co.jp/kyoshi76.html
このように見てくると、「写生」といっても、眼前のあるがままの情景を純粋に客観的描写したもの、と狭く限定したわけではないようです。子規や虚子は、客観的写生ゆえによってだけ蕪村に学ぶべきとしたのではなく、リアルな描写力も含めて考えていたのではないでしょうか。
以上、素人の感想です。
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追記
「秋の実り」という歌は見つかりませんでした。NHKの「みんなのうた」の一覧には載っておらず、NHKのクロニクル検索でも出てきません。記憶違いということはありませんか。図書館の資料目録に、「秋の実り」というタイトルの曲が収録されているらしい「世界民謡集」というものがあったのですが、これはアイルランド民謡で、併記されていた英語の原題で検索したところ、似ても似つかない曲が出てきました。そもそも、御質問に書かれていた旋律はアイルランドの民謡とは思われませんので、この本に載っているものは違うだろうと考えています。ほかの手掛かりは何もありませんでした。旋律は覚えていますので、もし一致するものがどこかで偶然見つかりましたら、何かの機会にお知らせします。
いろいろとお調べくださり、誠にありがとうございました。大変参考になりました。
また、私のほかの質問にも目配りしていただき、ありがとうございました。
衷心より、お礼申し上げます。
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