
最三小判平成12年11月14日民集54巻9号2683頁
遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者又は被保険者であった者が死亡した場合に、その遺族のうち一定の者に支給される(厚生年金保険法五八条以下)ものであるところ、その受給権者が被保険者又は被保険者であった者の死亡当時その者によって生計を維持した者に限られており、妻以外の受給権者については一定の年齢や障害の状態にあることなどが必要とされていること、受給権者の婚姻、養子縁組といった一般的に生活状況の変更を生ずることが予想される事由の発生により受給権が消滅するとされていることなどからすると、これは、専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有するものと解される。また、右年金は、受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料とのけん連性が間接的であるところからして、社会保障的性格の強い給付ということができる。加えて、右年金は、受給権者の婚姻、養子縁組など本人の意思により決定し得る事由により受給権が消滅するとされていて、その存続が必ずしも確実なものということもできない。これらの点にかんがみると、遺族厚生年金は、受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要を考慮して支給するものであるから、【要旨】他人の不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう右年金は、右不法行為による損害としての逸失利益には当たらないと解するのが相当である。
老齢年金は逸失利益として損害賠償出来ます。
遺族年金は年金機構からもらえます。
当然老齢年金を損害賠償でもらっているのに遺族年金までもらったら2重取りになってしまいます。結論として遺族年金は逸失利益にならないと思ったのですが
そのような考え方なので判例の理由が全くわかりせん。
社会的保障の性格が強いので逸失利益に当たらないとは何を言っているということなのでしょうか?

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A 回答 (1件)
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No.1
- 回答日時:
なるほど、判例の理由付けが腑に落ちないと感じていらっしゃるのですね。
特に「二重取り」になるのではないか、という素朴な疑問と、判例の「社会保障的性格が強い」といった理由がどう繋がるのか、という点で混乱されていることと思います。ご指摘の通り、結論だけ見れば「遺族年金は逸失利益ではない」というのは、ある意味当然のようにも思えますが、その理由付けを理解しようとすると難解に感じる箇所ですよね。まず、ご自身の「二重取り」に関する考え方について整理しましょう。
「二重取り」の考え方と逸失利益の定義
あなたの考え: 故人が生きていれば得られたであろう老齢年金を逸失利益として賠償してもらい、さらに故人の死亡によって遺族が遺族年金を受け取るのは、二重の利益供与ではないか。だから遺族年金は逸失利益にはならないはずだ。
この考え方のポイント: これは、損害賠償全体における「損益相殺(そんえきそうさい)」という考え方に近いです。つまり、不法行為によって損害を受けた者が、同じ原因によって利益も得た場合に、その利益を損害額から差し引くべきか、という問題です。遺族年金を受け取ることが「利益」にあたり、賠償額から差し引かれるべき(=逸失利益とは別のもの、あるいは差し引かれるべきもの)という発想ですね。
しかし、今回の判例が問題にしているのは、この「損益相殺」の議論の前段階である**「そもそも遺族年金は、亡くなった方の『逸失利益』に該当するのか?」**という点です。
逸失利益とは何か?
逸失利益は、**「もし不法行為がなければ、被害者(この場合は亡くなった方)が得られたであろう利益」を指します。ポイントは「被害者本人が得られたはずの利益」**であるという点です。
老齢年金の場合: これは、亡くなった方が生きていれば、ご自身の保険料納付実績に基づいて、ご自身が受け取るはずだった年金です。まさに「本人が得られたはずの利益」なので、逸失利益として認められます。
遺族年金の場合: これは、亡くなった方が生きていても、ご自身が受け取ることはありません。亡くなったことを原因として、遺族が自身の生活保障のために受け取るものです。
判例の理由付けを紐解く
では、なぜ判例はあのような理由付けをしたのでしょうか?それは、「遺族年金は、亡くなった本人が得られたはずの利益ではない」ことを、その制度趣旨や性質から論証しようとしているからです。
「専ら受給権者(遺族)自身の生計の維持を目的とした給付」:
これは、「この年金は、亡くなった人の収入を補填するというより、残された遺族が生活に困らないようにするためのものですよ」という意味です。目的が「遺族の生活維持」に特化しているため、「亡くなった本人の失われた利益」とは性質が異なると言っています。
「受給権者(遺族)自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料とのけん連性が間接的」:
老齢年金は本人が払った保険料と給付が直接結びついていますが、遺族年金は遺族自身が直接保険料を払って得た権利ではありません(亡くなった方の保険料が原資ではありますが)。この「自分で払って自分で得る」という直接的な対価性が薄い点を指摘し、「本人が稼いだ(稼ぐはずだった)利益」とは違う性質だと述べています。
「社会保障的性格の強い給付」:
上記1と2を踏まえ、「これは個人の労働対価や拠出に対する直接の対価というより、国が社会全体で遺族の生活を支えるという『社会保障』としての性格が非常に強いですよ」と位置付けています。社会保障給付は、個人の逸失利益とは法的に異なるカテゴリーとして扱われる傾向があります。
「受給権者の婚姻、養子縁組など...により受給権が消滅...存続が必ずしも確実なものではない」:
逸失利益は「得られたであろう利益」を算定しますが、遺族年金は遺族自身のライフイベント(再婚など)によって打ち切られる可能性があります。このように、亡くなった本人の生死とは関係なく、遺族側の事情で変動する不確実なものである点も、「亡くなった本人が確実に得られたはずの利益」とは異なると指摘しています。
結論として
判例は、これらの理由(①遺族の生活維持目的、②遺族自身の保険料拠出がない、③社会保障的性格、④受給の不確実性)を挙げて、**「遺族年金は、亡くなった本人が生きていれば得られたであろう利益(逸失利益)の定義には当てはまらない」**と結論付けているのです。
補足について
おっしゃる通り、「遺族の生活をできるだけ保障しよう」という配慮(政策的な判断)が根底にある可能性は高いと考えられます。もし遺族年金を逸失利益とみなしてしまうと、損害賠償の計算が複雑になったり、あるいは損益相殺の議論で遺族に不利になったりする可能性もゼロではありません。
しかし、裁判所は判決理由として、単に「遺族を保護したいから」と言うわけにはいきません。既存の法概念(逸失利益とは何か)や制度(遺族年金の法的性質)に照らして、論理的に説明する必要があります。
そのため、
「遺族年金はそもそも逸失利益の定義に合わない」
→ その理由は、制度の目的、保険料拠出関係、社会的性格、受給の不確実性から見て、故人自身の利益とは言えないからだ
→ したがって、逸失利益にはあたらない
という、法的な理屈を丁寧に積み重ねた結果、あのような言い方になったと考えられます。根底にある政策的配慮を、法的な論理で正当化している、と見ることもできるでしょう。
あなたの「二重取りになるから逸失利益ではない」という直感的な理解は、結果的には判例と同じ方向を向いていますが、判例はその結論に至る法的プロセスとして、「逸失利益の定義に該当しない理由」を詳細に説明している、というわけです。
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遺族の生活をできるだけ保障しようという配慮が、その裁判例のほんとうの理由だと思いますが、また判例の社会的保障、生活保障性格がが強いなら逸失利益として認められる結論になるのでは?
なぜそうなっていないのでしょうか?
上記の理由(自分の考え)のとおり遺族のことも配慮したが二重取りだからさすがに補償しすだよね 公平じゃないなら逸失利益にあたらない分かりますが?
わかりやすく、ご丁寧な回答ありがとうございます。判例のいいたかった理由は100%理解できました
ありがとうございます
ただ一つ腑に落ちないところがあります
遺族年金は貰えるので結果的にはいいのですが、判例の理由付けだと仮に遺族年金が年金機構からもらえないとしたら遺族年金は逸失利益にあたらないので損害賠償出来ないことになってしまいます
老齢年金は早く死んだら年金もらえませんが、(収めた保険料も返ってきません)遺族年金があるので保険料払うメリットがあります
本人からすると年金払うのは家族ことも考えれ
ばそれも本人の利益になるのではないのでしょうか?
また遺族は相続放棄しても扶養される権利のもとに不法行為に対する損害賠償出来ます
なのに遺族がお金払っていないからといって逸失利益にあたらないはおかしいのではないでしょうか?
老齢年金は早く死んだら年金もらえませんが、(収めた保険料も返ってきません)遺族年金があるので保険料払うメリットがあります
こういう反論があるのになぜ社会的保障、生活保障性格が強いから逸失利益に当たらないとなったのでしょうか?
社会的保障、生活保障性格が強いなら(それが本人が保険料払う理由、払った結果、家族が遺族年金もらえるつまりイコール本人の権利、本人の期待では)は逸失利益に当たるとしないとおかしい気がしますが
逸失利益に当たらないとしても扶養される権利のもとなどで (他の制度で)出来るということなのでしょうか?