中島京子さんの「小さいおうち」を読んでの疑問です。
最後の方で、主人公のタキが、奥様の板倉さんへの「会いたい」という内容の手紙を、板倉さんに渡さずにずっと持っていましたね。
もしこの為に奥様と板倉さんがそのまま会わずに別れれば、タキの行為には重要な意味があり、感動もあると思うのですが、手紙をもらわなくても板倉さんは翌日奥様に会いに来て、二人きりの時間を過ごしましたね。
「そういう話だから」と言ってしまえばそれまでですが、小説として、タキが手紙を隠した事にどんな意味があるのかが分かりませんでした。
物語の最初の方に出てきた、「原稿を燃やした賢い女中」の話と重ね合わせ、手紙を隠した事は結果的に意味は無かったけれど、タキは賢い女中だったという事を言いたいのでしょうか?
ここの所が良く分からなかったし、全体の感想としては、たとえ精神的なものだとしても、この奥様は不倫をしているのだし、共感も感動もできませんでした。
でも先日直木賞を受賞し、書評もとても評判がいいですね。
別に悪く言いたいわけではないのですが、私にはなぜそんなに良い話なのか分からず、すっきりしないのです。
確かに時代考証などは良く出来ていると思いますが…
読まれた方がいたら、手紙に関する疑問に答え、また私が分からなかったこの本の良さを教えて頂ければと思います。
よろしくお願いします。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
私の見解ですが
タキさんが手紙を渡さなかったのは事実で、タキさんがそれをずっと心に抱えてきたのは事実です。
健史の客観的な証言があるからです。
では、板倉さんが出兵直前、時子奥様に会いに来たのは、事実でしょうか。
このことが事実かどうかは、わかりません。
タキさんの手記に「板倉さんが会いに来た」と書かれているだけですから。
それが確かな事実なのか、極端に言えばタキさんが罪の意識のために捏造した記憶でなかったかどうか、それはわからないと思います。
このときの板倉さんと時子奥様のやりとりは、特に深く触れられていません。
ただ、タキさんは、その後、時子奥様との間に「溝ができた」と言っています。
タキさんの進言に従い、時子奥様がタキさんに手紙を預け、その返答として板倉さんが平井家を訪れ、時子奥様と邂逅したことが事実であれば、
タキさんと時子奥様の間に「溝」はできるでしょうか。
ここに少し、小さな疑問の余地があると思います。
また、タキさんが一人称として語っていたときの印象と、健史の視点で語られるタキさんの印象には、少なからず開きがあると思います。
すべてがそうではないのでしょうけど、タキさんの老いゆえの矛盾も、本編には含まれていたのじゃないでしょうか。
…じゃないかな、と私は思ってます。
タキさんが恭一ぼっちゃんを探さなかったのも、ぼっちゃんのお母さんの大事な手紙を渡さなかったことのうしろめたさからなのかなと思いました。
疑問がすっきり解消はしてないのですが
私は、この小説から「感動」とか「心温まる」とかいう感想は得られませんでした。
名作だとは思うのですが、普通に暮らしていた人たちが、戦争のために悲しい目にあった、という読後感の方が強かったです。
すべての人の人生を狂わせた、戦争。
そこばかりではないのですけど、そういう印象が強く、それで感動、とはいえないなぁと思いました。
回答が付かないと思い、しばらく覗かなかった為、お礼が遅くなって申し訳ありません。
周りで読んだ人がいなくて誰にも聞けなかったので、回答を頂いてとても嬉しいです。
板倉さんが会いに来たのが、タキが罪の意識のために捏造した記憶でなかったかという部分を読んで、なるほどそれなら判る!と思いました。
そう考えれば、物語の筋が通り、私の疑問は解決します。
その上で読めば、また違う印象だと思います。
しかし、やはり判りにくい話だと思います。
grenade733さんのように物語を深く掬い取れない私には、そこまで読み込む事は難しかったです。
奥様の不倫に嫌悪感があり、「こんな良い旦那様がいるのに、なぜ!」と、腹を立てながら読んでいたせいもありますが…
しばらくしたら、また手に取ってみようと思います。
本当にありがとうございました。
No.2
- 回答日時:
まだ締めきられてないようですので、私見ですが書いてみます。
タキが奥様の手紙を渡さなかったのに、
板倉さんはやってきますね。
(私は板倉さんがやってきたのは事実だと思います。)
ただ、二人だけの時間を過ごした後、タキは
「あの日、坂の上の小さなおうちの恋愛事件はが幕を閉じた。」
と書いています。
私は、手紙を渡さなくても、板倉さんが来て二人だけの時間を過ごせたのに、
どうして恋愛事件がここで幕を閉じるのか読んでいて不思議でした。
つまり、奥様は、何も知らないと思っていたタキが
自分の板倉さん対する恋心を分かっていて、あらぬ行動に出るのを阻み
板倉さんが見えなかったら「お諦めになって下さい。」と戒められたことに
ある意味、ショックを覚えたのだと思います。
「お手元の風呂敷を卓袱台の上に落とした。」という表現が
激情に駆られていく奥様がここで立ち止まる様子が見て取れました。
奥様は心の中で、タキの進言に沿い、自らの気持ちを思い直して
幕を閉じようと思ったのではないでしょうか。
タキには奥様の秘めた思いを知ってそれを阻止したという罪悪感のようなものが生まれ、
奥様には思いを寄せる板倉さんを失った喪失感のようなものが生まれ、
そして、そのせいで二人の間には、重く微妙な距離感が生まれるのは
仕方のないことだと思います。
ただ、最後のページに
「しかし、イタクラ・ショージ記念館で買った、『小さいおうち』の複製の
十六枚目の絵を眺めていると、まったく違う可能性が浮かびすらするのだ。
大伯母は、あるいは、この美しい人妻に、恋をしていたのかと。」
とあって、ほぉ~、そういう解釈もあったのか、なるほどアリかな………
と私は思いました。
十六枚目の絵が、何となく表紙の絵を彷彿とさせます。
大きな感動は無くても昭和の香りがぷんぷん匂う作品でしたね。
参考までに書いてみました。
失礼しました。
お礼が遅くなり申しわけありません。
私も、「あの日、坂の上の小さなおうちの恋愛事件は幕を閉じた。」という所は、toko0503さんと同じように不思議に思いました。
おっしゃるように、奥様が自分から幕を閉じようと思ったのかもしれませんね。
この話はタキの手記という形なので、その時登場人物が「本当は」どうだったのか、どんな気持ちだったのか分からないという点で、私が今まで読んできた小説とは違うようです。
今まで読んだものは、「彼女はこう思った。」などと、登場人物の気持ちが分かりやすく書いてあるものが多かったように思います。
でも、現実の人の心や行動は、この小説のように分かりにくく複雑なものなのでしょうね。
やはり、しばらくしたらまた手に取ってみようと思います。
ご回答頂き、ありがとうございました。
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