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社会学者ギデンスの著書を読んでいて、「ボランティア活動に参加する個人は、生活の中で自らが生きる世界の問題点や可能性に『再帰的』に関わる人たちの例である.そのような個人を生み出し、その活動を活かす社会は『再帰的』である.」という文章が出てきました.これらの「再帰的」という意味を色々な辞書で調べても、またギデンスのほかの文献を読んでも、よく分かりません.
すみませんが、この言葉を噛み砕いて、分かりやすく説明してください.お願いします.

A 回答 (3件)

 


  分かり易くかどうか分かりませんが、元々どういう概念の言葉だったのかという説明をします。多分、この基本的な概念での意味を踏まえて使っているはずだからです。
 
  「再帰的」というのは、英語だと、原語は、recursive のはずです。「再帰的」ということを、「回帰的」とも「リカーシヴ」とも言います。また「自己回帰的」とも言います。recur という動詞は、「反復する、元に戻る」などの意味がありますが、recursive はその形容詞形です。二十世紀の数学や、制御理論において重要な意味を持つ概念です。
 
  例えば、「ゲーデルの不完全性定理」という、名前は有名ですが、内容が何か理解しにくい数学の定理がありますが、この定理の証明において、リカーシヴ関数つまり再帰的関数・回帰的関数というものが出てきます。リカーシヴ関数というのは、別名「計算可能関数」とも言い、これは「関数」のことですが、要するに、再帰的・リカーシヴな関係にある状態を数式で表現すると、関数となり、リカーシヴ関数になるのです。このように、「数学基礎論」でも意味を持つ、重要な概念が「リカーシヴ」です。
 
  これは、どういう意味か、順序を追って説明して行きましょう。まず、制御理論で、リカーシヴな関係とはどういうことかということです。制御理論の代表的なサイバネティックス理論では、これは、あるシステムAがあり、Aの状態がある時、この状態によって、Aが、Aでない他のシステム、例えばBに影響を及ぼし、Bの状態を変えることを考えます。これは、普通に、あることが起こると、それが原因で別の場面で、その影響が出てくるということを少し抽象的に言っているだけです。
 
  サイバネティックスにおいて重要なのは、Aの状態変化がBに影響を及ぼし、Bの状態変化をもたらし、更に、このBの状態変化が、もう一度、元のAに戻ってきて、Aの状態に影響し、Aの状態を変えるところまで考えることです。Aの状態という出力が、他に影響し、その影響が、再びAに戻って来るので、これをサイバネティックスで、「フィードバック feedback」と言います。
 
  物理学や化学のシステム、また生物のシステムや生体のシステム、工学システム、更に生態系とか社会のシステムは、サイバネティックスでは、数学的モデルで表現でき、それぞれのシステム内部の要素のあいだの関係は、フィードバック関係で結ばれており、これを数式・関数で表現します。物理学システム、工学システム、生体システム、社会システムなど、全然異なるシステムのあいだで、そのフィードバック関係を関数にして表現すると、同じ形になるものがあります。これを広い意味で、システムの「同型性」と言います。
 
  話が拡散して来ますが、何故、再帰的関数のことを、計算可能関数とも呼ぶのかという処が非常に重要なのです。再帰的とはリカーシヴということで、これは「計算可能」とも言うというのは、どういうことかということです。ここでコンピュータの原理の話になります。コンピュータは、一つのシステムである訳で、ある状態・条件が与えられると、それに応じて、必要な処理を行い、結果を出力します。Aという状態が、コンピュータに与えられると、コンピュータは、これに応じて、内部状態を変え、外部に、与えられた状態に対する反応を戻してきます、つまり出力します。
 
  コンピュータに、ある作業あるいは処理をさせようとすると、コンピュータに外部から、ある状態、課題条件を与えるのです。コンピュータは、これを内部で処理して行き、つまり、外部から与えられた影響に応じて内部の状態を変化させて行き、最終的に「結果」を出力として外部に送り出します。コンピュータは、こういうことをしています。コンピュータは、与えられた状態・課題を内部処理して、結果を外部に出力するシステムだとも云えます。簡単には、7X8は幾らかというのは、7X8という条件状態をコンピュータに与えると、コンピュータ内部で、この状態に応じて、次々に内部状態を変え、つまり、課題を処理して行き、最終的に、答えの状態、56という数を出力するようになっているのです。
 
  コンピュータは、もっと複雑な処理をしますが、基本的には、こういうことを行います。このコンピュータの動作原理、またはシステムとしての処理原理を、理論的に構成したのは、テューリングという人で、彼は、実際に実物を造りませんでしたが、理論的コンピュータというものを造りました(あるいは、思考のなかで、構成しました)。これをテューリング・マシーンと言いますが、テューリング・マシーンとは、実は現在のコンピュータのことなのです。また更に広い意味を持った概念でもあるのです。
 
  コンピュータは、どうやって計算や処理を行っているのか、この原理のことを「アルゴリズム」と言うのですが、それは、非常に複雑な処理や計算でも、簡単なものに還元して計算または処理しているということになります。テューリングの機械というのは、例えば、1を加えるという処理だけが行える機械なのです。しかし、それだけでなく、この処理を反復して行い、結果を記録しておき、次の処理の時に参照するというシステムです。
 
  テューリングの機械では、1を加えるという計算は、実行できると定義されています。実際、実行できるのです。そこで、この+1という演算あるいは関数が実行できるなら、+7というような計算は、+1を七回「反復」すると、答えが7になり、計算できます。また、7X8という、X8は、+7の計算を八回反復して行うと、56という数が出てきて、これも計算可能です。更に、2の17乗とかいうような、累乗計算も、2に2をかけることを、17回反復すると計算できるので、これも計算可能となります。
 
  +1という計算、また任意の自然数を加えるという計算、また任意の自然数をかけるという計算、更に、自然数の累乗計算も、反復して計算すると、+1に全部帰着するので、これらは、計算可能であり、「計算可能関数」と呼びます。計算可能関数は、わり算もそうであり、実数のあいだの計算も計算可能関数になり、数学に出てくる、計算できる関数はすべて計算可能関数だということになります。そして、計算可能関数の計算可能の根拠は、「基本計算を反復できる」という原理=アルゴリズムにあるのです。
 
  反復できるということは、実は、再帰する、回帰するということになるのです。非常に複雑な計算・処理でも、基本的な単純な処理に還元して、この処理を反復して繰り返すことで、この複雑な処理が実行可能である場合、処理で行っているのは、基本処理をぐるぐる回して、再帰させているということになります。再帰的、回帰的、リカーシヴ、計算可能が、こういう意味で、同じ概念を表すことになるのです。
 
  かなり回り道をしたのですが、サイバネティックスやシステムの話に戻ると、あるシステムAの状態がBというシステムの状態に影響を与えるというのは、自然界また人間社会でも、普通に観察される事態です。この場合、Aの状態が、どういうものかが分かると、Bに及ぼす影響が予言できる、つまり、計算できるというためには、AとBの関係が、計算可能な関数で表現される関係で結ばれていなければなりません。自然界も、人間社会も、現実には、そういう計算可能な関係で結ばれているのではないのですが、理論モデルを考える時には、計算可能であると仮定します。わざわざ、こういうことを言わなくとも、私たちの思考が、あるシステムと別のシステムのあいだで起こる影響関係のことを考えると、予測可能、つまり、計算可能という前提を置いているのです。
 
  無論、複雑すぎて、どういう関係か分からないというシステムの関係もあります。しかし、こういうシステムの関係でも、計算可能な形に表現できる、モデル化できるはずだという前提で考えます。(他人を、殴ると、殴り返されることが多いということが、或る場合は云えます。この場合、「殴る」という影響が、自分にフィードバックして来て、「殴られる」という結果になり、これは「再帰的」なのです。ただ、必ず、こういうことが起こるとは限りません。理論的モデルでは、再帰的現象が起こる確率は70%とか言って、計算可能なモデルを構成しようとします)。
 
  物理学の理論も、化学の理論も、計算可能性を前提にして、理論を造るのです。社会の変化も、社会のある状態についての情報が得られれば、ここから、どういうことが社会システムのあいだで起こるか、計算可能だと前提して理論を考えます。政府の金融政策とかが成立するのは、市場の状態や貨幣価値などについて、互いに計算可能な関係で結ばれているはずだと考え、そこで、モデルを造って、未来の予測が計算可能だという前提で考えられているのです。
 
  社会のなかで、個人がある活動を行うと、それが他の個人にどういう影響を与えるか、また社会全体には、どういう影響になるか、これは、現実には、計算できないのです。しかし、理論モデルを立てて考える場合は、これも、計算可能な関係で結ばれていると考えます。理論を造るというのは、そういうことだからです。利己的な人が大勢増えると、社会は、倫理が乱れ、混乱するというのは、本当にそうなるのかどうか、現実に何の保証もありません。ただ、従来の経験からは、そういうことが云えるようだということです。
 
  そこで、これを理論モデルにすると、社会を構成する成員が利己的な行動を取ると、他の個人にどんな影響がでるか、更に、影響を受けた個人の状態変化が、別の個人に影響して、どういうことになるか、こういうことを理論的にモデル化して、その場合、「計算可能」関係で、システムは結ばれているとするのです。計算可能でないと、何がどうなるのか、まったく分かりません。何が起こるか分からない、という答えになります。しかし、現実に経験することは、社会の事象は、でたらめではないということです。何か、規則があるとしか、考えられません。
 
  そこで、社会学者が、社会現象の理論モデルを造る場合、個人と個人の影響関係、個人と社会の影響関係は、計算可能で、関数で表現するなら、関係は、計算可能関数で表現できるはずだという前提になります。この場合、個人と個人、個人と社会の影響関係は、一方的なものではなく、フィードバック過程を含む、相互的な関係だということは、経験的に自明です。
 
  反対に、個人が別の個人にある影響を及ぼし、それが、元の個人にフィードバックしていることが確認できる場合は、こういう個人の関係、また個人と社会の関係は、計算可能であり、従って再帰的であるということが云えることになります。
 
  >ボランティア活動に参加する個人は、生活の中で自らが生きる世界の問題点や可能性に『再帰的』に関わる人たちの例である
 
  この文章は、無償で他者や社会に何かの恩恵をもたらす個人は、その活動により、自分自身の生活世界や、社会一般に対し、フィードバックとして、良い結果をもたらすような個人であるという意味になり、これは「再帰的=リカーシヴ」の本来の意味から言ってそうですし、実は、ここでは、更に意味を限定して、他者や社会に無償で良い影響を与える個人は、その結果が自己や自己の生活世界に良い形でフィードバックして来て、それが、また、無償の良い影響という結果を生みだし、こういうヴォランティアを志向する人々は、その行為によって、社会をますます良い方向へと、反復的・再帰的に導く人であると述べているのです。
 
  単に、理論的に、自己が行った他への活動が、自己に帰って来る(再帰する)だけでなく、「良い方向への活動」は、活動を行った人に良い結果で帰って来て、更に、その結果、個人は、更に、「良い方向への活動」を行い、反復的・再帰的に、社会の状態を良くして行くということを述べているのです。ここから、次の文章の意味を理解するのは容易でしょう:
 
  >そのような個人を生み出し、その活動を活かす社会は『再帰的』である
 
  社会にとって有益な活動を行う個人を生み出すような社会は、その個人が、まさに社旗に有益な活動を行い、その結果、社会はより良いものになり、より良いものとなった社会は、更に、こういう個人を多数生み出し、それらの個人が更に社会を良い方向に変革し、その結果、ますます、そういう人が増え、反復的・回帰的に、社会は、良い方向・望ましい方向へと自己変革して行く、という意味です。
 
  これは、「良い方向」へのフィードバックに他ありません。理論的には、そういうことが云えるはずで、この理論が成立するような社会を、「再帰的社会」と定義しよう、そう呼ぼうということなのです。実際は、こういう理論の予測とは、違う方向に社会の状態が進むことがあるのです。
 
  例えば、ヴォランティアをする個人がいたとして、ヴォランティアによって、不利益な状態が自己に帰って来る結果、ヴォランティアは馬鹿馬鹿しいと多くの良心的な人が考え、結果的にヴォランティア活動する人が減り、利己的行動を取る人が、有利になって、社会は善意の人が段々減ってきて、利己的な人がどんどん増えて来て、社会秩序は破綻し、無秩序状態の社会になって、文化水準も低下し、社会は、原始的な状態に戻ってしまう、という理論的見通しも立てることができるのです。この場合も、「再帰的」であるのですが、著者は、「良い方向への変革が再帰的に起こる」ことを、「再帰的な社会」と定義している、あるいは呼んでいるということです。
 
  「再帰的」とは、システムのあいだにフィードバックがあり、このフィードバックが計算可能である場合ですが、ギデンスが述べているように、言葉を定義することも可能だということです。ギデンスの「再帰的社会」は、再帰的な社会一般のなかの或る特定のものなのですが、ギデンスは、「良い方向への再帰性社会」を「再帰的社会」と呼ぶ(定義する)と述べているのです。
 
  なお、以下の質問に対するわたしの回答を参照してみてください。「フィードバック」というのがどういうことなのか、具体的な例で説明しています。「再帰的」というのは、フィードバックの一つの場合なのです。フィードバックや、再帰的・リカーシヴという概念について、より具体的なイメージが得られると思います。
 
  >No.187419 質問:フィードバック機構について
  >http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=187419
 

参考URL:http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=187419
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この回答へのお礼

大変に長い解説をしていただき有難うございます.ただいま通読しただけですので、所々理解できない箇所がありますが、印刷してから精読します.
なおギデンスは、「再帰的」の原語として、recursiveではなく、reflexiveを使用しています.しかし回答の内容と、ギデンスが言っている内容に、かなり一致する部分がありますので、原語の違いによる解釈の差異は少ないのではないか、と考えています.もしこの理解が間違いであれば、再度ご教示ください.
最後にあらためてお礼申し上げます.

お礼日時:2002/03/07 09:30

 「No.1」の ryuuoyakata さんに付け加えて少し。

もちろん私もその本は読んだことがないので、あくまで参考意見ですが。
 
  ryuuoyakata さんは、”自分がすることで巡り巡って自分に返ってくる”とおっしゃっていますが、私は「巡り巡って」という「情けは人のためならず」的な場合だけではなくて、もう少しダイレクトな場合も含まれるんじゃないかと思いました。

 「再帰的」をネットで検索しますと、多くはコンピュータのプログラムのアルゴリズムの説明が出てきますが、「 http://www.ntticc.or.jp/pub/ic_mag/ic031/html/16 … 」では、為替レート(貨幣価値)が実体経済から離れていくと、その貨幣価値の変化によって実体経済に変化が起こるという「実体経済と貨幣価値のスパイラルな相互作用」を「再帰的関係」としています。
 また、「http://www.nuis.ac.jp/jcss/journal/vol06/060403/ …」では、平行においた2枚の鏡に像が無限に映り続ける「合わせ鏡」が再帰的なものの例に挙げられています。

 AがBに影響を与え、Bに起きた変化が(直接)Aに影響を与えるという場合も「再帰的」ではないかと思うのです。

 したがって、お尋ねの文章に関しては、まず、ある個人がボランティア活動に参加することにより、今までに知らなかった人々との接触や、したことのなかった経験します。そこのとによって、その個人は新たな興味や関心、意欲を持って、更に新しい活動に取り組んだり、今まで以上に深くボランティア活動取り組むようになる、そういうことではないかと考えました。
 
 また、社会は個人で構成されますから、そういう人々の活動によって、さらに社会が進歩し、ボランティアを支える制度が充実して活動に取り組みやすくなった社会では、さらに人々がボランティア活動に参加していくというのが「社会は『再帰的』である」ということではないでしょうか。

 かつてサリドマイド事件に関心を持った人は、薬害エイズの問題に無関心ではいられないでしょうし、サリドマイドのことを知らなかった人も、薬害エイズの問題に取り組むことで、サリドマイド事件に関する知識を得る。そんな人たちは、こんどヤコブ病の問題が持ち上がったときには、やはり強い関心を持つでしょう。そんな風に影響を与えて行くことかなと、思いました。
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この回答へのお礼

す、すばらしい!!「再帰的」の用語がなんとなく分かったような気がします.質問に出した文章は、ギデンスの「再帰的近代化」の本から引用したものですが、社会と個人に触れた後半の回答部分は、本の表題に一致します.こんな難しい質問(私にとっては)をさらりと応えていただき、感謝します.また回答にあたっては、検索までしていただいたようです.貴方の貴重な時間を私のために割いていただき、有難うございました.深謝.

お礼日時:2002/03/06 15:59

この著書を読んでいないので著者が意図したものとは異なるかもしれませんが・・


ここでの「再帰的」というのは、”自分がすることで巡り巡って自分に返ってくる”ことではないでしょうか。
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この回答へのお礼

「再帰的」の意味はそうなんでしょうね~.ただこの用語とボランティアはどのように結びつくのでしょうか?よく分かりません.
Anyway thank you.

お礼日時:2002/03/06 15:51

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