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真空中にタングステンフィラメントに30A程電流を流し、熱電子を発生させている系でのフィラメント寿命について考えています。

ここでフィラメント電流値を30Aと33Aで運用した場合、33A運用の方がフィラメント寿命が1/2近く短くなるということが分かっています。
フィラメント電流が10%と上昇すればフィラメント温度も上昇し、昇華によるタングステン消耗が加速されていると解釈していますが。
(1)この解釈の系は正しいでしょうか?
(2)他にフィラメント消耗のメカニズムはあるでしょうか?
(3)これらを定量的に説明するとどんな式になるでしょうか?

A 回答 (3件)

タングステン(タングステン合金)が高温で劣化・破断するメカニズムは大きく分けて二つ考えられます。

一つは周囲雰囲気との反応もしくは昇華による損耗、もう一つは高温での再結晶による脆化です。しかしどちらであっても電流の大小による寿命差は同じ方法で解析できます。

タングステンを空気中で加熱すると周囲の酸素と反応してあっという間に損耗してしまいます。ご承知の通り電球はタングステンフィラメントを真空中または不活性ガス中に封入したものですが、これはフィラメントの損耗を抑える上で必然的な構造です。
反応速度は温度が高いほど大きいので、30 A通電より33 A通電の方が損耗も速くなります。反応速度が一般にexp(-Q/RT)に比例するのはご承知かと思います。ここに R: ガス定数(Boltzmann定数×Avogadro定数) T: 絶対温度 Q: 活性化エネルギーです。フィラメント温度の推定については後述します。
フィラメントを加熱する環境が真空中や不活性ガス中であったなら、酸素との反応に代わって昇華による損耗が顕在化します。もちろん昇華も高温ほど進み易くなります。

次に脆化について説明します。既にご存じのことと重なるかもしれませんが、ほとんどの金属材料はμmオーダーの大きさの結晶がいくつも結合してできている多結晶材料です。個々の結晶のことを「結晶粒」、結晶粒と結晶粒の境界を「粒界」と呼びます。
一般に粒界は結晶粒内部より強度が低いので、材料に力をかけた際き裂が粒界を伝わって破壊に至る例はしばしば見られます。これを「粒界破壊」などと呼びます。(粒界破壊だけでなく、結晶粒内部で破壊する「粒内破壊」も存在します)
タングステン合金はこの粒界部分が特に弱いので[1]、フィラメントはその影響が小さくなるような構造に作ります。具体的には原材料塊を長く引き伸ばして線材にすることで、細長い結晶粒が繊維状に並んだ組織を形成し粒界での破断を抑えています[2]。
しかしせっかく繊維状の組織にしても、高温状態に長くおくと結晶粒はだんだんと粗大化しついには粒界で破断します[2,3]。結晶粒の成長速度は上と同様にexp(-Q/RT)に比例しますから、温度が高いほど脆化が速いことになります。

では30 A通電と33 A通電でフィラメント温度がどのくらい違うのか、そしてその結果として寿命がどの程度異なるのか見積もってみます。
Stefan-Boltzmannの法則から、高温の物体から輻射される電磁波のエネルギーは絶対温度Tの4乗に比例することが知られています。フィラメントが置かれた環境が真空ならば伝導・対流による熱伝達は無視でき、フィラメントで消費されるエネルギーはほとんど輻射で放散されます。そして定常状態なら「フィラメントで消費される電力=輻射で放散されるエネルギー」のはずです。参考ページ[4,5]も併せてご覧下さい。

フィラメントの抵抗をR、流れる電流をIとすると、フィラメントで消費される電力Pは当然、P=I^2 Rです。ただし抵抗Rの温度変化が無視できない(Rが温度の関数となる)ことに注意が必要です。
電流30 Aの時のフィラメント温度: T1 抵抗値: R1
電流33 Aの時のフィラメント温度: T2 抵抗値: R2
とします。タングステンの抵抗率の温度係数をαとすれば、各抵抗値は
R2 = R0 (1+α(T2-T0))・・・(1)
などと表されます。T0は室温、R0は室温での抵抗値です。
(1)式は「抵抗値は定数+温度比例分」を意味しますが、[5]のグラフを見ると「抵抗値は絶対温度に単純比例」と近似してもよさそうです。特に2000 Kや2500 Kといった高温域を取扱うならなおさらです。すると(1)は
R2=R1(T2/T1)・・・(2)
と整理できます。この式から消費電力は以下のように求められます。
電流30 Aの時の消費電力 30^2×R1
電流33 Aの時の消費電力 33^2×R1(T2/T1)
一方、輻射のエネルギーは絶対温度の4乗に比例します。従って
30^2×R1 : 33^2×R1(T2/T1) = 1 : (T2/T1)^4 ・・・(3)
が成立します。
これを解けばT2はT1の1.0656倍という結果が得られます。1.0656は1.21の3乗根(の一つ)です。

これをさらに前出のArrheniusの式(反応速度=A exp(-Q/RT), Aは比例定数)に代入します。Qは金属の粒成長における活性化エネルギーの一般的な値を参考に、仮に200 kJ/molとします。またフィラメント温度ですが30 Aの時のそれを2500 Kと仮定すると、33 Aでは1.0656倍の2664 Kとなります。それぞれをArrheniusの式に代入すると
30 Aの際の反応速度 A×6.6×10^(-6)
33 Aの際の反応速度 A×12.0×10^(-6)
を得ます。反応速度とは言い換えれば粒成長速度ということです。寿命はその逆数に比例しますから1.8倍程度の差になります。粗い解析ですがそこそこ近い数字は出てきました。
もちろん実際にはフィラメントの温度は均一ではありませんし、No. 1のご指摘のように「いったん痩せ細り始めるとそこが集中的に痩せる」ことも考慮しなくてはなりません。さらに寿命は確率的現象で必ずばらつきがあります。

破断のモードが損耗(昇華、酸化)であるならば、Arrheniusの式において代入すべきQの値が変わってきます。あいにくその値についての知見は持ち合わせませんが、その場合でもフィラメント温度の解析までは上と全く同じですから、Qの値さえ分かればすぐに寿命計算が可能です。
破断モードがどちらであるかは切れたフィラメントの断面を観察すれば見当がつくと思います。

参考ページ
[1] http://www.nittan.co.jp/products/tungstenkyoudo. …
[2] http://www.smt-inc.co.jp/tsushin/
* No. 31号の「材料の素顔に迫る(身近な明かりの始まり「白熱電灯」)」をダウンロードしてお読み下さい
[3] http://www.nittan.co.jp/products/tungatennotanke …
[4] http://www.kdcnet.ac.jp/buturi/kougi/buturiji/el …
[5] http://www.kdcnet.ac.jp/buturi/kougi/buturiji/el …

参考URL:http://www.smt-inc.co.jp/tsushin/,http://www.kdcnet.ac.jp/buturi/kougi/buturiji/el …
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この回答へのお礼

とても参考になり大変助かりました。
正直ここまで懇切丁寧にご説明できる方に回答いただけるとは思っていませんでした。
理解に必要とされる情報が的確に伝わってくる文脈と要点に感謝いたします。
ありがとうございました。

お礼日時:2007/03/09 13:25

タングステンフィラメントはハロゲン電球などにも使われています。

ので、電球の切れるメカニズムを調べるとヒントがあると思います。

http://www.ushio.co.jp/products/catalog/halogen/ …

はウシオのハロゲン電球のWebで寿命をみると、定格の10%ましの電圧で寿命は半分程度以下になっていて、質問と合致しています。
定式化ですが、フィラメントの蒸発速度はその温度での蒸気圧に依存するはずなので、フィラメントの発熱量から平衡状態での温度を蜜持て、そこから蒸発量を見積もることになりますが、多分、電球業界の仕事をみれば、きちんとした話があるのではないかと思います。
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この回答へのお礼

回答ありがとうございました。
参考になりました。

お礼日時:2007/03/09 13:27

すいません、質問に正しい回答を言えるほど自信ないので、


(2)の参考になりそうなことだけ書きます。

タングステンの断面積が、製造時 あるいは消耗していく過程で不均一
になった時、
断面積が局部的に小さい部分では、その近傍だけ抵抗が増大し、発熱アップ
タングステンの消耗が加速度的に進んでいきます。
ラッシュカレントで寿命になる場合でも、そういう部位で断線してしまう
ことがほとんどかと思います。
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この回答へのお礼

ありがとうございました。
参考になりました。

お礼日時:2007/03/09 09:33

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