債権譲渡と抗弁の切断(通知後、承諾後の抗弁事由)
債権を譲渡した場合、原則として通知、承諾前に生じた事由をもって、譲受人に対抗できますが(468条2項)、異議をとどめずに承諾した場合は例外的に承諾前の抗弁を主張できません(同1項)。
ふと、思ったのですが、条文を(反対)解釈すると、通知、承諾後に発生した抗弁(解除権の発生)は常に対抗することができるということになるのでしょうか。
解除権については、解除権発生原因が承諾前に存在していれば、承諾前に生じた事由として対抗できないというのが判例・通説ですが、その理解の前提として、承諾後に発生した抗弁ならば本来譲受人に対抗できるとの考え方が潜んでいるのではないでしょうか。
ところで、承諾後に発生した抗弁としては普通解除権が問題とされますが、たとえば、合意解除の場合は、三者が合意する必要があるのでしょうか。それとも、譲渡人と債務者との間で合意解除は可能であるが、ただその効果は第三者に対抗できないと考えるのでしょうか。
以上、二点ご教授ください。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
とても興味深い質問で、大変勉強になります。
まず、「承諾後に発生した抗弁ならば本来譲受人に対抗できるとの考えが潜んでいる」という考えにはまったく賛成であります。
なぜなら、債権譲渡の法律関係を考えてみたところ、譲受人に移転しているのはあくまで債権のみであります。契約当事者としての地位は依然として従来の債権者と債務者の間に残存しています。
債権譲渡後に発生した事情により契約当事者のあらゆる権利が剥奪されればかえって法律理関係は複雑となるとともに、債権が譲渡されることに何ら対抗手段を持たない債務者にとって過酷となってしまいます。判例においても、契約当事者たる地位は、債権譲渡に伴わないことは確認されております(昭和3年2月28日古くて恐縮です)。
次に、譲渡後の合意解除の法律関係についてですが、前掲判例を引用しますと、
「解除ノ結果譲渡債権ハ消滅スルモノナルカ故ニ若其ノ専断ヲ以テ解除権ノ行使ヲ為シ得ルモノトセハ譲受人ノ権利ハ蹂躙セラルルノ虞ナシトセス自ラ債権ヲ譲渡シナカラ随意二之ヲ消滅セシムルノ行為ヲ敢テスルカ如キハ著シク信義誠実ニ反シ法ノ許容セサル所ナルカ故ニ債権ヲ譲渡シタル債務契約当事者ノ一方ハ譲受人ノ同意ヲ以テノミ解除権ヲ行使シウルトモノト解セサルへカラス」
と、述べています。
結論から言うと、カイセサルへカラスと言っているのであるから、解すべきという事になりますので、譲受人の同意がなければ合意解除は出来ず、その理由を信義則から導いているのだと思います。
ですから、解除は可能だが譲受人に対抗できないと解すべきではなく、より法律関係をシンプルにするために、解除そのものの要件として大きな利害関係を有する第三者の同意を要するとしたのだと思います。
参考になれたか不安ですが・・・。諸説あると思いますが、後学のためありましたら是非ご紹介ください。
この回答への補足
返事が遅くなり、申し訳ありません。
ご教授ありがとうございます。
図書館にこもって、20冊は民法の債権総論(民法制定者のものから今の若手のものまで)を熟読しましたが、私の考えていることを明確に述べている方はいらっしゃいませんでした。
ただ、京都大学の潮見先生が唱えておられるように、解除発生原因が承諾前に発生しているからといって、抗弁の切断を認めないとする説の論者は、条文の反対解釈というよりも、債務者保護という実質的理由から承諾後の事情であれば、抗弁を認めるとされます。この点、回答者様がおっしゃるように、債権譲渡において不当に債務者の地位が貶められてはいけないことから、この結論を導いているといえます。そして、通説や判例がやっきになって、承諾前の事情に解除権を含めようとするのは、暗黙のうちに(条文の反対解釈なのか、実質的理由なのかは不明だが)、承諾後の事情は本来対抗し得べきものと考えていると思われます。
私見といたしましては、債権譲渡において不当に債務者の地位が貶められてはいけないという実質的理由を補強する理論的根拠として、意義なき承諾による抗弁の切断の根拠論が有用かと考えます。すなわち、通説たる公信力説によれば、本来自由な抗弁の主張が制限されるのは、承諾において意義を唱えないということを信頼して、債権を譲り受けた者の動的安全を保護するためですが、逆に言えば、承諾後においては、譲渡人において債務不履行が生じ、譲渡債権の債務者が解除権を行使するかどうかは不明な以上、承諾時において、債務者が承諾後に発生する解除権を行使しないだろうという認識をもっているとは考えられないので、公信力は働かず、ゆえに承諾後の事由は抗弁できる、と考えられると思います。これは、条文の反対解釈の実質論になるかと思います。あとは、判例通説と有力説の対立のように、解除権発生原因も承諾前の事情といえるかどうかが問題になるかと思います。
さらに私見といたしましては、(1)譲渡債権の債務者が譲渡人に債権を有していることは予想し得べきこと、(2)上記の実質的理由、の二点から有力説をとり、解除発生原因が発生していただけでは、承諾後の解除権行使を制限できないと考えます。なお、(1)に関しては、債権に関しては債権の非排他性・相対性からわが国では基本的に債権を公示する手段がないことを理由に、予想し得べからずとの反論もあるかと思います。しかしながら、反対に、公示制度がないからこそ、物権変動と同じように、これをないものとして行動してはいけないのだ、ともいえると思います。公示制度の歴史的意義は複雑ですが、これを取引安全のために法的特別制度だとするならば、一般に公示制度のない債権に関しては、それがない以上、公示がないことを理由に予想し得べからずということは、公示制度の存在を当然のものとして考えるものであり、妥当ではありません。公示制度はあくまで、特別な制度であって、物権変動や債権変動に本質的な要素ではないからです。
以上はあくまで私の意見ですから、不適当な点もあるかと思いますので、ご容赦ください。
また、なにかわかれば、書かせていただきます。
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