日本語を勉強中の中国人です。寺田寅彦の「柿の種」を読んでおります。下記の「青空文庫」というサイトでもご覧になれます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/1684_ …
上記のサイトから一篇抜粋させていただきます。
「虱(しらみ)をはわせると北へ向く、ということが言い伝えられている。
まだ実験したことはない。
もし、多くの場合にこれが事実であるとすれば、それはこの動物の背光性 negative phototropism によって説明されるであろう。
多くの人間の住所(すまい)では一般に南側が明るく、北側が暗いからである。
この説明が仮に正しいとしても、この事実の不思議さは少しも減りはしない。
不思議さが少しばかり根元へ喰い込むだけである。
すべての科学的説明というものについても同じことが言われるとすれば、……
未来の宗教や芸術はやはり科学の神殿の中に安置されなければならないような気がする。」
最後の部分がよく理解できなかったため、全文の主旨はうまくつかめませんでした。「すべての科学的説明というものについても同じことが言われるとすれば、……未来の宗教や芸術はやはり科学の神殿の中に安置されなければならないような気がする」はいったいどういう意味でしょうか。
また、質問文に不自然な文がございましたら、それも教えていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
No.8ベストアンサー
- 回答日時:
論理展開に省略が多いため、解釈が難解ですが、
「科学の正確性が、宗教や芸術の大切な要素である[不思議さ]を壊すわけではないので、宗教や芸術は、もっと科学の正確性を取り入れるべきである」
という趣旨だと思います。
以下、若干の解説を試みます。
前半は、
『「虱が北に向かう理由は、虱に背光性があるからだ」という科学的説明は正しい。しかし、なぜ虱に背光性があるのか、という本質的な問題に関しての科学的説明は未だ為されておらず、虱の性質に関する不思議さは(科学的説明をもってしても)解明されていない』
という内容です。
要約すると、
『科学的説明だけでは、本質的な問題に関する不思議さは解明されない(= A )』
ということです。
そして、次の文に出てくる「同じこと= A 」です。
「すべての科学的説明というものについても同じことが言われるとすれば、……
未来の宗教や芸術はやはり科学の神殿の中に安置されなければならないような気がする。」は、
「すべての科学的説明というものについても、(虱の例のように)本質的な問題に関する不思議さが解明されないのだとすれば、・・・・・
未来の宗教や芸術はやはり科学の神殿の中に安置されなければならないような気がする。」
という意味。
この「・・・・・」の部分が省略されているのでわかりづらくなっています。
この部分も含めて解釈すると、次のようになるでしょう。
『すべての科学的説明によっても(虱の例のように)本質的な問題に関する不思議さが解明されないのだとすれば、科学的説明というものが、決して[不思議さ]というものを除外していないことがわかる。
この[不思議さ]というものは、宗教や芸術にとって欠かすことのできない要素である。
科学は、宗教や芸術が持つ[不思議さ]とは無縁の学問であるかのように思われているが、実は、そうではなく、宗教や芸術と同じように[不思議さ]を内包している学問なのだ。
一方、宗教や芸術というものは、科学的な正確性を無視しがちな傾向にある。感情的な信仰や自由奔放な芸術が人気を集めがちであるが、それだけに流されるのは好ましくない。
たしかに、宗教や芸術にとって感情や自由奔放な感覚は必要である。しかし、科学も[不思議さ]を内包している学問である以上、感情や自由奔放な感覚を全く無視しているわけではない。
科学は「正確性」と「感情や自由奔放な感覚=不思議さ」を併せ持っている学問なのである。しかし、宗教や芸術には正確性が欠けている。
科学が融通の利かない正確性だけの学問でないことがわかったのだから、(急に変えるのは無理だろうから)未来の宗教や芸術は正確性にもっと留意するため、科学の領域の範囲(=科学の神殿)で感情や自由奔放性を発揮するようにすべきだという気がする。』
No.7
- 回答日時:
宗教や芸術の持っている神秘性や精神性をシラミの件のように科学(科学的方法)で解明したり説明したりすることはできる。
それは宗教や芸術の神秘性と対立するものではない、かえって不思議にみえることを裏付けてあげているだけなのだから宗教や芸術も科学的な真理を認めた上でその「神殿」=科学的真理の中に入って共存すべきであろう。という趣旨でしょう。
たとえばキリスト教原理主義などは古生物学や地学・天文学でわかった知見をかたくなに認めない立場ですが、現代では多くのキリスト教徒がキリスト教の教義とは別物として科学を学び・科学的真理を前提とした暮らしを矛盾無くおくっています。教義は象徴的な「お話」として理解すべきだという合理的な思考法によるものでしょう。
寺田の時代には宗教的教えと科学の対立というのはもっと身近な問題だったのでこのような発言が出てきているのでしょう。
「されなければならないような気がする」と控えめな、逃げを用意した表現をしているのはこの発言が当時としては思い切った発言であるからでしょう。
「“未来の”宗教」と言っている点→つまり従来の宗教や信じ方には問題があると思っている
「科学の神殿の中に」と科学を宗教諸派全体をより大きく包括する物としている点
この二点に着目するべきだと思われます。
「神殿」というのは科学も神秘性を持っていること、信ずるに足る権威であるのを意味しているのでしょう。
No.5
- 回答日時:
こんにちは。
とても質の良い文章に出会いましたね。こうした随筆や評論文をお読みになる時、一つだけ注意して読むポイントがあります。「何をどの様に言い換えているか」を読みとることです。寺田寅彦は随筆家である一方、物理学を専門とする自然科学者です。そしてこの文章は「科学を探究する者」が「科学そのもの」をどの様に理解するべきかとの基本的な姿勢を寺田寅彦自身が説明した文章です。
「自然科学者が持つ観察眼で虱の生態をみた」ならば、虱が光を嫌う性質を持っている。だから多くの建築物が南側が明るく北側が暗い様な設計がされている、との「現象」を説明することまではできる。
がしかし、それをもってして「なぜ虱が光を嫌うのか」との根源的な理由までを説明したことにはならない。「科学が全てを明らかにする」という考え方に対して、「科学では必ずしも『全体』を説明することができるとは考えていない」これはほんの一例であると寺田寅彦が『科学』と『科学的説明』の違いを喝破している、と僕は解釈します。
ご親切に回答していただきありがとうございます。お使いになっている日本語はわかりやすいです。大変参考になりました。本当にありがとうございました。
No.4
- 回答日時:
この随筆には、時代背景があります。
この著者寺田寅彦は科学者ですが、同じ時期(大正14年--1925年)に、キリスト教系の社会活動家がいました。当時、クリスチャンの社会活動家が、自然で起こる現象は、神の計らいでそこに狂いはない、と唱えたのです。自然に起こる様々な現象に、人も同じ法則が成り立つと、心を踊らせず、また驚きもなく必然とする、とすることは、寺田の意にそぐわぬ所だったわけです。それが、「科学の神殿の中に安置する」ことだと言ったのだろうと思います。
虱(しらみ)が、北に向かうことの説明は、科学で説明できても、それを不思議だと思う驚きを抜きにしては、科学のダイナミズムは失われてしまいます。神の計らいを持ち出せば、それ自体に絶対的な価値を持ってしまいます。芸術も芸術としての感動を抜きにして、「名声」や「テクニック」だけに、その価値に重点を与えたら、もう、そこには、人に与える感動がなくなってしまいます。
昔、私が読んだ本も同じ趣旨かもしれません。その書かれた時代より少し後の昭和のはじめの頃のものです。
No.3
- 回答日時:
>未来の宗教や芸術はやはり科学の神殿の中に安置されなければならないような気がする。
」科学がどれほど進歩しても、その先に不思議は残ってしまう。科学が世界のすべてをクリヤーに解決するわけではない。科学万能ではない。とすれば、科学はその中心に不思議をそのままに表現する芸術や、同じ要素を神に託して尊宗することで解決する宗教を残しておかなければならない(なぜならその世界は虚無を持つことになり不完全になるのではないか、あるいはその中心へ踏み込むための目標としてという意味からも)。
そんな意味ではないかと私は思いました。
ご参考になれば。
No.2
- 回答日時:
虱は北を向く性質があると言われる。
科学的には虱が背光性を持つためであると説明される。
しかし虱が何故背光性を持つのかを説明できるわけではない。
すべての科学的説明というものが同じように物事の真理を解明できるわけではないとしたら、科学(を基盤とする考え方ないし社会)にも新しい形の宗教や芸術が必要である気がする。
といった意味だと思います。
宗教を撲滅し合理的計画による発展を目指した共産主義が失敗したことに通底する問題の指摘かもしれません。
日本語というより思想の問題ですね。解釈が間違っているかもしれません。「哲学」か「物理学」か「その他(学問・教育)」のカテゴリーでも質問してみてください。碩学が回答してくれるかもしれません。
No.1
- 回答日時:
三者三様の解釈が出来る事柄ですが、前後の関係を見るに恐らく
******
宗教や芸術は、主に人間の心理や精神に起因し、それを対象とし、それに作用する実体に乏しいものである。
したがって、宗教の意味や教義の価値、芸術を芸術と言わしめる判断基準…は、それが科学的論理的に説明できなければただ「存在意義や価値があるように見せかけているだけ」の紛い物(まがいもの:偽物)に過ぎないので、宗教がそれを信奉する人々にとって真っ当な宗教である為には、その芸術作品がその芸術を見る人・志す人の正しき指針であるべき為には、究極的(=ここを持って「未来」と言っている)にはその教義や芸術の正当性を科学的論理的に説明できるようにならなければいけない。[科学の神殿]
しかし、それらが説明できたとしても、それがなぜ正しいと言えるのかを決定づけた根拠(しらみが北を向くのは背光性によるものだという根拠)…人間の内証的な部分…まで説明(動物の背光性自体は実験で証明できても、そのような行動を取る理由までは計り知ることができない)することはできない。
そのような不確かな証明法は科学的には非常にナンセンスだが、逆に言えば、そのような曖昧さ(人間の内証的な部分)を根拠とすることが許されるなら実体を伴わない故にすべて曖昧さが許容されがちな宗教や芸術こそそれにより存在が定義されなければならないのではないか…。
******
という、芸術や宗教だと言い張ってしまえばそれだけでまかり通ってしまう現状が、更に未来にもたらす窮状を指摘された一文なのではないでしょうか。
ピカソの絵を見て、あれを芸術だと思えるひともいれば、そうでない人もいる。だけど、その絵を見た人が「あれなら俺にも描けるから、俺が描いたもの芸術だ」と言い張ったところで、そんなはずはないですよね。
ましてや、その人が描いた「芸術」を参考にしてみんな芸術を学ぶべきだ…などとなったら。
最近の世の中を見るに、こういう風潮はひどくなってきてますね。芸術かどうか疑わいいものを、マスコミや一般人が囃し立てて「芸術」としてしまう。
そして、それにより成り上がった人物が「大物芸術家」として芸術界に新風を吹き込み牽引していくことになる。
でも、ここに登場する人物たちのどれほどが「芸術」を知っているというのでしょうね。そんな連中によって本物の「芸術」が侵害され、侵害された芸術とも知らずに育った世代が知らずに「ネオスタンダード」を築きあげていく。
こんなことが現実に起きてきていると思います。
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