No.2ベストアンサー
- 回答日時:
EBMの功罪をどの場で判断するかでかなり意味合いが変わりますね。
EBMの概念がでてきたのは欧米、特にアメリカの医療現場からです。背景は「限られた予算があり全てを行うことが出来ない/することで医療経済が破綻する局面に至り、各治療法の有効性を<医療効果>と<経済効果>の2局面から分析する必要に迫られたというものです。現在の日本では主に前者がその主要な論点で用いられていますが、本来の出自を考えた場合はむしろ後者のほうが理由としては大きかったのです。(例えば、ガンのリンパ節郭清の是非はすることによる退院までの経済的な負担と治療効果という面ではじめは比べられていました。)
この原点における功罪は「医療効率の上昇」を生んだ功と「経済効率を追求した結果、場合によって救命率が低くとも効率から次善の策を選ぶしかない=医療の経済格差を広げる」罪がありました。
今のEBMの運用では、特に日本のEBMの運用ではこの経済的な効率というのは医療保険の特殊性からあまり重要視されず、医療の質(救命とQOL維持)という部分だけが抜き出されていますので「あかひげ」的な観点からいえば正しいEBMの用い方になっていますが、それでもいくつかの問題をはらんでいます。
EBMの実施を行うには必要な情報の収集と分析・検討が必要です。それがニホンの医療現場で果たして可能かどうか…旧態依然の経験論的な医療でも、3分間医療と揶揄される危機的な限界まで達しています。そこには徹底した議論でひとつの結論を見出す時間的なゆとりなどありません。
さらに欧米の論文は全て英文でありデータベースも英語、データの基礎となるデータもほとんどが欧米人の体で集めたものです。それを日本的に翻訳し当てはめる作業など、ここの一般の医療者だけで可能なことではありません。しかしながらニホンの行政組織にはこれらに関する先見性はなく、予算も出されておらず、自由に閲覧できるデータベースも皆無です。またたとえ無理をして行ったとしてもその労力への見返りはありません。医療者もよりよい医療のためにはEBMに基づく必要性を十分に自覚しつつも『すればしただけ首が絞まる』構造となっています。実際EBMを余裕で行う力のあるのは、自由診療に携わるものになるという矛盾が出ています。本来は広く医療を提供している保険診療こそEBMに基づくべきであるのに…
またその一方でEBMの理論を一番使っているであろう研究者がより多い大学病院などの場合、Eの収集といういわばデータと患者のデータをつき合わす部分に労力が集中し、患者が不在となる皮肉が起こっています。患者不在の場の密室でデータをつき合わせ、当の患者には「この手術とこの術後治療に決まったから」と伝えるだけの医療のことです。本当は患者のベッドサイドにいなければならない時間もコンピュータ画面とにらめっこの現実を生んでいます。それが本来の姿でないと言い切るのは簡単ですが、社会の求める結果が実はこうした皮肉な現実を産んでいるのではないか・・そう思うときがあります。
先ほど挙げたデータベースの不在はさらに深刻な事態を引き起こします。
患者に手術の方法を話すとき
「わたしはこの手術Aとこの手術Bがあることを知っている。他にもCDEなどあるかもしれないが、わたしの知識レベルはコレぐらいである。この手術Aのデータはコレだが、この手術A以外のデータは不勉強なため知らない。その状況でわたしに手術Aの執刀を任せる方には全力で請け負うが、それでは不安な方はどうぞよその病院へ行ってください」
足りない「E」を補うことができない状況で無理やりEBMを行おうとするならば上記のような無責任の塊のような言葉が一番責任をわかっている言葉になる・・こういう矛盾がもしかしたら一番の「罪」かもしれませぬ。
ご回答どうもありがとうございます。現在の医療においてalert様がご指摘くださいましたようにEBMを行っていく上で三分医療は大きな妨げになることは私も同感です。三分という非常に短い時間で全ての患者さんの病状の収集、分析、検討をする十分な時間を持てるはずはありません。この矛盾はいったいどのようにしたら改革できるのか、私も考える必要があるように思います。
私が一番考えさせられましたのは、最後の段落の文章です。
足りないEvidenceを補うことができない状態で無理やりEBMを行うことは患者さんにとってもっとも無責任な医療を提供することになる。
医師それぞれの経験や知識の差によって患者さんの症状は左右されることを示していると思います。そこで私からの提案ですが、政府が画一的な医療基準というのを決めたらどうでしょう。すなわち、政府から示された一定の医療診断法(もちろんEBMがしかっりと実証された疾患に対してのみ)に基付いて医師が診断を行えば、どこの病院に行っても同じ質の医療が受けられますし、医師による診断のずれというのもなくなってくるでしょう。
ですが、ここには一つの問題点が挙げられると思います。厚生省などから示された診断だけが効力を発揮し、肝心な医師独自の裁量権というのが今度はまったく無視されてしまうということが危惧されると考えられます。
EBMの問題は本当に私たちにいろんなことを考えさせてくれます。このたびはどうもご回答ありがとうございました。またの機会がありましたらよろしくお願いいたします。
No.3
- 回答日時:
功は沢山の成書があるのでそれを読んで下さい。
例を一つだけ上げれば、自分の専門である内科では、糖尿病と高血圧症の合併患者さんで、どの降圧剤が最も糖尿病性腎症の進行を抑えるかが事が判ってきた為、透析導入を少しでも遅くする事が出来る事です。罪はあまり述べられていないので少し私見を書きます。
EBMのデータを集める時は、その背後には製薬会社が関与をしています。恣意的にデータを改ざんする等とは思いませんが、その製薬会社にメリットのないデータは集めません。昔から使われている薬剤でも、薬価が安くなれば改めてエビデンスを集める事をしません。ジギタリスが一時エビデンスが無い為評価が落ちた事があります。又エビデンスが数年で全く変わってしまう事もあります。
医学研究には多くの研究費が必要です。この研究費を出しているのは必ずしも製薬会社だけではありません。欧米の大資本も研究費を出しています。例えば今まで良いといわれていたある食品が、実は動脈硬化や発癌を促進するかもしれないとしたら、現在それを生産している会社、国家はその証明にはかなりブレーキをかけるのではないでしょうか。
それらの細かい事はPaul03141983さんが実際それに携わらない限り見えてきません。しかし研究者としてはそれを乗り越えて欲しいと思います。
功罪を考えれば、功の方が圧倒的にあると思います。将来の臨床医学には益々必要不可欠なものになっていくと思います。
やはり、最後は全てお金の問題に帰着してしまうんでしょうか。EBMを全て実証するためには多大な時間もかかりますがお金もまた多大にかかるんでしょうね。医療者にとってはお金ができるだけかからないような研究をすることが望まれるでしょうが、お金がかからない研究なんてそもそも皆無に等しいと思います。質のいい医療を受けるために多大のお金をかけることに異論を唱える人はいません。政府が今無駄に利用している国民の税金をこういう場面にもっとつぎ込んでほしいと私は願わざるを得ません。
このたびはご回答どうもありがとうございました。またこの場でこれから医療にかかわるものとして、いろんな質問をしていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
No.1
- 回答日時:
あなたが医学生かそれに近い領域で学習されている方だとしてお話します。
方法として、「EBMは何に」というところを学習されて、その本当の意味を理解する必要があります。たぶん巷で話されている以上の深い意味がありますから、そしてその結果が如何に医療に生かされるか、どのように生かすかが医療関係者の大切な仕事になります。そして、その生かし方に問題がはらんでいないか考察するといいのでは、
学校か図書館で雑誌等の文献をEBMで検索するといっぱい出てきますから、
では、がんばってえええ!
確かにおっしゃるように私は表面的にしかまだEBMについてわかっていないんだと思います。言い換えれば、EBMの本当の意味がまだよく分かっていないんだと思います。
EBMが医療にどういかされるか、全ての問題はそこから派生するのでしょうね。表面的な知識だけではこの問題を考えることができないとわかりました。ご意見ありがとうございます。
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