
■「スーツ」と「背広」、意味は同じ
ずばり、「スーツ」と「背広」は同じものなのか、それとも……?
「まず、Suit(スーツ)は本来『一式・一揃い』という意味があります。一般にテーラード(紳士服仕立て)作りの上着とズボン、または上着とズボンとベストを同じ生地で揃えた一式のことをさします。一方、背広は、テーラードスーツの日本の呼称です」(北方先生)
つまり、「背広」は「スーツ」の日本での呼び方であり、両者は正式に同じものだった。北方先生によれば、背広という言葉は1870年代に出版された、教育者の古川節蔵の著作で初めて登場したといわれているそうだ。
■「背広」という言葉の由来とは?
スーツと背広は同じということはわかったが……それにしてもなぜ「背広」という言葉が使われたのだろうか。
「なぜ背広なのかと言いますと、(1)スーツを着ると背中が広く見えるから(2)ロンドンの老舗仕立て屋が多く並ぶ通り(Savile Row=サビルロウ)の発音から派生した(3)背広はそもそも『市民の服』(civil clothes=シヴィルクローズ)が『セビロ』に聞こえたから、などの説があります」(北方先生)
結局、日本でスーツを背広と呼ぶようになった由来はこれといって確定的な答えがないことになる……。ただ、諸説あり明らかになっていないことがわかった。
■若年層には「スーツ」が無難
では今後、「背広」と「スーツ」、どちらで呼べばよいのだろうか。
「個人的な考えですが、『背広』という表現は最近あまり聞かないような気がします。学生も、彼らにとっての最初のスーツは『リクルートスーツ』と呼びますし、スーツと言ったほうが様々なシーンで無難かと思います」(北方先生)
確かに若者の間で、「背広」と呼ぶ印象はない。若年層と話す時は「スーツ」と表現したほうが間違いなく通じそうだ。
ちなみに筆者にとっては背広が当たり前の言葉であるが、これがやがて消え行くとしたら一抹の寂しさを覚えそうである。皆さんはいかがだろうか……?
●専門家プロフィール:北方 晴子
文化学園大学 服飾文化史 准教授。文化学園大学は、東京都渋谷区代々木に本部を置く日本の私立大学で1964年に創立。ファッション分野が中心の大学。併設校に文化学園大学短期大学部がある。