No.3ベストアンサー
- 回答日時:
獣医師でウイルスに専門知識を有する者です。
No.1さんやNo.2さんの回答で概ねお判りになれるとは思うのですが、もう少し判りやすい解説を試みてみます。
なお、No.1さんが「発症に時間がかかり」と書かれているのは、特にそういうわけではありません。細菌病でも潜伏期間が長いものもありますし、ウイルス病でも早いものもあります。細菌とウイルスで特に潜伏期間を区別できるわけではありません。
まず細菌とウイルスの構造と生態の違いを理解する必要があります。
細菌は基本的に「細胞」で、根本的には我々が持つ細胞と変わりありません。ですから細胞の様々な代謝活動を阻害する物質が有効で、それがいわゆる抗生物質です。
ま、サルモネラのように細胞内に入られると、その抗生物質も届きにくく、けっこう厄介ではありますが。
それに対し、ウイルスはざっくり言うと「遺伝子とそれを包む殻」だけの存在で、単独では増殖も運動も"生命体らしい"活動は何もしません。
遺伝子しか持っていないので、それを複写して「殻」を生産し、新たなウイルス粒子を造ること、すなわち増殖するには、生きた細胞の中に入り、細胞の「工場」に自分の遺伝子を読ませてウイルス粒子を造ってもらう必要があるわけです。
従って、ウイルスを殺すには感染細胞を殺すことはあまり効果は望めないでしょう。細胞だけ殺しても中のウイルスを殺さないと、単に次の細胞に感染することを手助けしてやる結果になってしまいます。
なので「ウイルスにだけ効く薬」が必要になるわけですが、なんせウイルスは代謝などの生命活動をしないため、「殺す」ことは難しいです。そもそも生命活動をしていないものをどうやって「殺す」んだ、という話になるわけです。何かを「殺す」薬というのは、全てその「生命活動」を阻害する薬ですから。
ウイルスが行う唯一の生命活動は「増殖」ですから、抗ウイルス薬というのは基本的に「ウイルスの増殖を抑える薬」ということになります。
ここからは高校生物の遺伝子学は習って知っている、という前提でお話しします。つまり、DNA→mRNA→rRNAやtRNA→アミノ酸合成→タンパク質の生成という基本的な流れです。
つまりウイルスはこの流れのどこかに割り込んで自分の遺伝子を発現させるわけですから、その部位を遮断する薬を造ればいいわけです。
ただ、ウイルスの増殖方法というのは、こんな単純な生命体のくせに(生命と呼べるかどうかも怪しいくらいなのに)、非常に多種多様です。
No.2さんが挙げた「DNAの2重螺旋をほどくことを阻害する薬」は、例えばRNAウイルスや1本鎖DNAウイルスには無益です。「材料供給を絶つ薬」はそもそもウイルスだけでなく、細胞にも毒性を持ちそうなんですが、まあそれはともかくとして。
DNAウイルスには、自己のDNAからmRNAを合成するときに細胞が持つRNA転写酵素を使うものがあります。なのでこれらのウイルスには、ここでは増殖を抑える手段がないことになります。細胞性のRNA転写酵素を阻害する薬を投与すれば、副作用の方が大きくなってしまいますから。
自前で酵素を持ち込み、mRNAを合成するウイルスに対しては、そのウイルス固有のRNA転写酵素を阻害する薬を開発できれば、効果が期待できそうです。細胞性の酵素と高精度で識別できる薬を開発できれば・・・ですが。
RNAウイルスには、+鎖のRNAを遺伝子に持つものと-鎖のRNAを持つものがいます。(このあたりから高校生物の範囲は逸脱か?)
レオウイルス科(ロタウイルス等)だけ2本鎖のRNAを遺伝子に持っているのですが、それは省略。
このうち+鎖のRNAウイルスは、自己のRNAがそのままmRNAになります。なのでこのタイプもここでは増殖を抑える有効な手段はありません。
-鎖のRNAウイルスは、そのままではmRNAとして機能しないので、わざわざ-鎖から+鎖に転写して、それをmRNAに使うということをしています。この「RNA→RNA転写酵素」というものは、普通の細胞は持っていませんので、必然的にウイルスが自前で持ち込むと言うことになります。
なので、このタイプのウイルスに対しては「RNA→RNA転写酵素」を阻害する薬を開発すれば効果が期待できることになります。
あと、RNAウイルスなのですが細胞内で自己のRNAをDNAに「逆転写」して、そのDNAを感染した細胞のゲノムに組み込んでしまう、というウイルスがいます。「逆転写」するので"レトロ"ウイルスと呼ばれていて、エイズの原因ウイルスであるHIVが代表的なものです。
これらは当然、レトロウイルスしか持っていない逆転写酵素を阻害する薬が有効なわけで、エイズの治療薬にもその手のがいくつかあるはずです。
というわけで、いったんmRNAとして細胞に読まれてしまえば、基本的に後は細胞の機能でウイルス粒子を生産することになるので、薬で阻害することは難しいでしょう。同時に細胞毒性も持つ薬になってしまいますから。
なので遺伝子複写による増殖を阻害する薬は、基本的には「mRNAになるまで」が勝負になります。
問題は、例えば「RNA→RNA転写酵素」の阻害薬を開発することに成功したとして、それが-鎖RNAウイルス一般に使えるかというと、それができないことです。同じ働きをする酵素でも、酵素はウイルスによってそれぞれ独自ですので、この手の薬とウイルスの関係は基本的に「1対1」になってしまいます。
また、ここではウイルスの増殖について、非常に簡略化して書きましたが、実際には同じタイプの遺伝子を持つウイルスであっても、増殖方法はウイルス毎にかなり大きく違います。ですから「ここを叩けば効果的」というポイントもウイルスごとに違う、ということになります。
細菌でしたら、1つ抗生物質を開発すれば「グラム陽性菌にはたいてい効く」など、ある程度効果がある対象は広いものなのですが、ウイルスは基本的に「この特定のウイルスにしか効かない」という薬になってしまいます。
あとは、増殖したウイルスが細胞から出て行く時に必要な酵素を阻害して、ウイルスが細胞外に出て行けないようにする薬なども開発されています。インフルエンザの治療薬のタミフルなんかがそうですね。
これもやはり「1対1」であることには変わりありません。タミフルはまだインフルエンザAとBに効く、ということで幅が広い方です。
他にインターフェロンによる薬もあるのですが、そちらは私は専門外なのでよく知りません。
血清(抗体)については、治療として使用することが確立されているのは狂犬病だけです。
例えばインフルエンザのように呼吸器の粘膜で増殖するウイルスに対して血中抗体をいくら増やしても無意味です。
また、狂犬病もそうなのですが、発症してから血中の抗体価を上げてもやはり無意味です。
ですから血清が治療として意味を持つのは、感染後に発症を抑える目的で使用するのに限られます。急性の全身感染性のウイルス病にも有効かもしれませんが(エボラ等)、そちらの方はよく知りません。
というわけで、あまり判りやすくならなかったかもしれませんが、なるべく簡単に説明してみました。
No.2
- 回答日時:
ウィルスに対する薬が少ないのがその理由の一つに挙げられると思います。
その理由のキーワードとして「選択毒性」が挙げられると思っています。ウィルスの感染方法とは宿主(感染した生物)の細胞を乗っ取るという作用のため、「かつては」宿主の細胞であったために、乗っ取られた細胞を殲滅し、そうでない細胞だけを生かすという選択性の高い薬がない事にも起因するかと思います。
細菌の場合はそうでもないです。
細胞内に進入するサルモネラ属の様な菌も存在致しますが、細胞を乗っ取る訳ではなく、家にします。
ですので細胞質内に入り込める薬(多くの場合は抗生物質と呼ばれます)を投与すれば良いです。
人に代表される真核細胞でできた生物と細菌の様な原核生物とは細胞自体の構造が異なるため、真核細胞には何も効果がないが、原核細胞には致命的な阻害作用を持つ薬が多く存在します。
その(真核細胞には効果がないが、原核細胞に高く作用する)作用を選択毒性の高い薬という事ができると思います。
ウィルスは殆どの場合非常に弱い固体です。
例を挙げますとAIDSウィルスなどは感染力、(ウィルスは厳密な言い方をすれば生物ではないのでこの表現には誤りがありますが)生命力が弱く、そのため空気感染等は全く心配しなくても良いほどです。
ただし、生物内ではしっかりと活動しておりますので体液感染等は起こします。
ウィルスの場合、対症療法としては血清が有効です。
つまり特異的なウィルスに対する抗体を以てウィルスそのものを不活化するという療法です。
ちなみに抗体はタンパク質であり、経口の場合は胃酸で完全にアミノ酸に分解されてしまうため、体内には注射という形になります。
他の療法と致しましてはウィルスのDNAの複製を阻害する薬を用います。
経口投与の薬では
DNAの二重らせんがほどける事が複製の開始になりますが、この二重らせんをほどけないようにする薬(抗がん剤にも類似の作用を持った薬があります)、ほどけても増やすための材料供給を絶つ薬。
他にもウィルスが体内で飛散する事を妨げる薬などがあります(ちなみに抗インフルエンザ薬のタミフルはこれです)。
私が知り得るのはこの位です。
申し訳ございません。
No.1
- 回答日時:
ウィルスは人間の細胞の中から作用して症状を引き起こします。
発症には時間がかかりその分だけ治療にも時間がかかります。http://www.fiberbit.net/user/biology/QA/items/se …
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