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村上春樹さんの『風の歌を聴け』の英訳本があります。
訳者はAlfred Brinboumさんという方です。
この方の訳し方についての質問です。

まず、村上さんの原書には
「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか」
とあります。
この文は、普通に考えれば「昼の光(という明るいもの)に、夜の闇(絶望の比ゆ表現)の深さがわかるものか」くらいの意味かと思います。ニーチェの言葉を少しもじったものです。

それで、Brinboumさんの訳だとこれが、
"Are we to know the depth of nihgt by the light of day?"
となっています。
意味がまったく違うんじゃないかと思ったのですが、いかがでしょうか。

これだと「夜の闇を、昼の光によってわれわれが理解することなどあるだろうか?」
という意味合いになるような気がします。
つまり理解する主語が「われわれ」になってしまっていて、「昼の光」は手段になってしまっています。
完全な誤訳かと。

本書を読んだことがあって英語に詳しい方がいらっしゃいましたら、教えていただければと思います。

A 回答 (1件)

結論から言うと、「完全な語訳」とは言えないと思います。

「大胆な意訳」とは言えますが。

まず、文学などのフィクションや娯楽においては、「意味を伝える」ことよりも、「原語の読者が味わうのと同じ感動を、訳語の読者に味わってもらうこと」が重視されます。

さて、「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか」は、文法的には確かに、主語が「昼の光」であり、「昼の光」を擬人化していると言ってもいいわけですが、伝えたい世界観は、「明るい世界しか知らない者に、闇の世界を理解できるものか(理解できないはずだ)」的な雰囲気ですよね。

「Are we to know the depth of night by the light of day?」も世界観は同じだと思うんです。つまり、「昼の光の中でのみ生きていて、それしか知らない者(昼の光自身を含む)にとっては、夜の闇は知りようもないだろう」という感じの世界観ですね。したがって、言ってみれば、この小説全体を見れば結果オーライ、みたいなところがあるわけです。

それに、ご存知の通り、村上春樹は英語が堪能で、のちのお抱え翻訳者であるジェイ・ルービンとは丁寧にやり取りしながら自身の作品の英訳版完成を見届けているようですが、意外にもこうした細部にはこだわっていないのです。例えば、ルービンが訳した『ノルウェイの森』には「キュウリ」と「キウイ」の言葉遊びのような細かい技がちりばめられていますが、英訳版ではこうしたエスプリは片っ端から無視されていて、その分、読者が物語の世界観にすんなりと乗り続けることができます。

また、「文芸春秋」2010年5月号でルービンが語ったところによると、「(私ルービンが訳すうえで投げかける)ほとんどの疑問点について彼(村上)から返ってくる返事は『適当にしてください』というものだ。これは"いい加減"という意味ではなく、Do whatever worksという意味である」そうです。「Do whatever works」とは「うまくいくなら、どうとでも」というニュアンスですよね。一方、同記事でルービンは、村上が「編集者の判断で(略)あまりにカットされ」たのを嫌って「これではぼくのものじゃないみたい」と言ったそうです。

ちなみに、ウィキペディア情報ではありますが、村上自身はこうも語っているようです。「バーンバウムは一種のボヘミアンなんです。(略)フラフラして暮らしている。彼はある場合には自分の好きなように訳すんです。正確かどうかよりは、出来上がりのかたちを重視する。だからわりに自由自在にやって、部分的に削ったりもする、勝手に(笑)。」と。ついでに言うと、文春の記事でルービンはバーンバウムの「僕」と「私」の訳し分けを「脱帽」と評価しています。

末筆ながら、私は『風の歌を聴け』を読みはしましたが、内容は忘れました。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB% …
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この回答へのお礼

回答ありがとうございます。
よくわかりました。
たしかにそう言われてみると、「昼の光を知ったとしても夜の深さはわからない」という意味にとれますね。

それにしても、翻訳でこんなに意訳されるというのは意外です。
個人的には、この擬人法がわりと重要かと思っていたのですが、ウィキペディアにあるように村上春樹さんはそれほど文法など気にしないんですね。
勉強になりました。ありがとうございます。

お礼日時:2011/12/04 13:46

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