No.7ベストアンサー
- 回答日時:
oodaikoです。
おまたせしました。最初にお断りしておきます。一般の体K上で定義されたベクトル空間でも「テンソル」や「外積」に関する以下の話は同じように展開出来ます(いわゆる「外積代数」とか「グラスマン代数」とかいうやつ。)が、まあ話がわかりにくくなるだけだし、実用的には係数体としてRを使うことがほとんどなので、以下ではベクトル空間と言ったら、実数体R上の有限次元ベクトル空間R^nに限定して考えることにします。(それに以下で説明する「ベクトル積」の方は一般のベクトル空間ではなくR^nの場合に限って定義される特殊な演算なので、その意味でもR^nを考える必要がある)
もう一つお断りしておきます。以下で使う「テンソル」と言う言葉は、物理での「空間のひづみ」や「応力」の表現方法といったものよりもっと数学的に抽象化された概念です。たとえば物理での「力のベクトル」と数学での「体K上のベクトル空間」くらい違うものだと思って下さい。以下で使う「テンソル」はむしろ代数的なものです。添字地獄の物理テンソルを考えるより、数学的にはすっきりした議論になります。(とはいってもけっこうややこしいが)
●概要
2つのベクトルu,vの「外積」と「ベクトル積」はR^3においては同一のもの(uとvに対応して決まる3次元空間のベクトル)を表しているので、物理やベクトル解析の教科書では特に2つの言葉を特に区別せずに使っているのですが、これは本来別々の概念であり、実際4次元以上の空間では異なったものを表します。
大雑把に言えば、「ベクトル積」は文字通り「ベクトル」同士の積なのですが、「外積」の方は本来「テンソル」もっと詳しく言えばその中でも特殊な「交代テンソル」同士の積として定義されているものです。従って「外積」の結果は通常は「交代テンソル」となります。
R^nの「ベクトル」も「R^n上の1階の交代テンソル」と見なせるので当然それら同士の「外積」は定義できますが、その結果は「R^n上の2階の交代テンソル」となります。ところで「R^n上のk階の交代テンソル」も自然な方法で和とスカラー倍を定義することにより、R上のベクトル空間と見なせるので「次元」が定義できます。そして一般には「R^n上の2階の交代テンソル」のベクトル空間としての次元はnより大きくなります。
3次元でも「ベクトル=R^3上の1階の交代テンソル」の「外積」は「R^3上の2階の交代テンソル」になるのですが、「R^3上の2階の交代テンソル」はベクトル空間としてたまたま3次元になるため、3次元の場合はそれをR^3の「ベクトル」と同一視してしまうことが可能になるのです。そういう意味で「ベクトルの外積」は3次元の場合しか定義できない。と言ってもよいでしょう。
さて能書きが長くなりましたが「ベクトル積」と「外積」を簡単に解説してみます。
●ベクトル積
まず「ベクトル積」ですが、これはn次元ユークリッド空間のn-1個のベクトルに対して定義される「積」です。
まずR^nのn-1個のベクトルv_1,…,v_{n-1} に対し、R^nからRへの写像ψを次のように定めます。
ψ(x)= det|v_1 v_2 … v_{n-1} x| (x∈R^n)
この定義でdet|v_1 v_2 … v_{n-1} x| はv_1,…,v_{n-1},xを列ベクトル(行ベクトルとしても同じですが)とする行列の行列式です。
これは明らかに線形写像なのでψはR^nの双対空間(R^n)^*の要素です。ところがご存知のように(R^n)^*の任意の要素はR^nのある要素と一対一に対応し、写像は内積で表現できますから、 R^nのあるベクトルwが存在し、任意のx∈R^nに対して
<w,x>=ψ(x)= det|v_1 v_2 … v_{n-1} x|
と書けることになります。
この方法で、R^nのn-1個のベクトルの組{v_1,…,v_{n-1}}に対しR^nのあるベクトルwを一意的に対応させることが出来ます。そしてこのwをv_1,…,v_{n-1}の「ベクトル積」と呼び、v_1×…×v_{n-1}と書きます。
この積が線形性および交代性を持っていること、およびv_1,…,v_{n-1}のすべてに直交していることは定義からほとんど明らかですね。
3次元の場合はこの定義が普通の教科書に載っている「ベクトル積」の定義に一致することはすぐ確かめられます。4次元の場合は行列の余因子展開を使って
(a[1],a[2],a[3],a[4])×(b[1],b[2],b[3],b[4])×(c[1],c[2],c[3],c[4])=
┌───────────┐
|a[2],a[3],a[4]|
-|b[2],b[3],b[4]|
|c[2],c[3],c[4]|
|a[1],a[3],a[4]|
|b[1],b[3],b[4]|
|c[1],c[3],c[4]|
|a[1],a[2],a[4]|
-|b[1],b[2],b[4]|
|c[1],c[2],c[4]|
|a[1],a[2],a[3]|
|b[1],b[2],b[3]|
|c[1],c[2],c[3]|
└───────────┘
となることがわかります。(横に書くとぐちゃぐちゃになるので縦ベクトルの形で書きました)
starfloraさんの回答はおそらくこれのことを言っているのだと思います。
v_1×…×v_{n-1}がv_1,…,v_{n-1}に直交すること、積の順序により右手系と左手系が定義できることについてはまさにそのとおりです。v_1×…×v_{n-1}の長さがv_1,…,v_{n-1}の張るR^nの「超菱形超立体」の「超面積」になっていることも多分そうだと思います。(starfloraさんは「超体積」と書いていますが、R^nでn-1個のベクトルが張る図形、つまりn-1次元の図形の測度ですから、イメージ的には「面積」と呼ぶ方が良いと思います。もちろん厳密に言うなら「n-1次元ルベーグ測度」と呼ぶべきですが)
もちろんR^3以外では2つのベクトルに対して「ベクトル積」を定義することは出来ません。
ところで私が今この文章を書くためのカンニングペーパーとして使っている本(『多変数解析学-古典理論への現代的アプローチ-』(M.D.スピヴァック著,斎藤正彦訳)東京図書(1972))によれば
『普通、数学では3個以上のものの「積」を考えることは少ない。3次元のときだけ、これは2つのベクトルに対して第3のベクトルが対応することになって「積」らしくなる。この理由で、「ベクトル積」は3次元の場合に限って定義できる、と見なすことも多い』
ということなので、adeptさんの回答にある教科書の著者はおそらく「ベクトル積」のことを言っているのだと思います。
(uとvに対して、すなわち「2つの」ベクトルに対して、は3次元以外では定義されないと言っているのですから)
次は「外積」です。もうちょっとお待ち下さい。
ありがとうございます!m(_ _)m。大学時代以来、ずーっとわからなかったことがわかりつつあり、何年ぶりかの知的感激に、浸りつつあります。(数学の本を読んでもよくわからなかったし、まわりの人間に訊いてもちゃんと答えられる人がいなかった。)わかりやすい解説で本当に助かります。(数学の本もこういう風に書かれていればよいのですが。)つづきをお待ちしておりますので、何卒よろしくご指導お願い申し上げます。
No.16
- 回答日時:
siegmund です.
申し訳ありません.行と列が入れ違っていました.
oodaiko さん,chukanshi さんのご指摘の通りです.
ご迷惑おかけしました.
まったく,お恥ずかしい(^^;).
何で入れ違っちゃったんだか自分でもよくわかりません.
似たような項を何度も書くのは面倒なので,
一度書いてサイクリックに添字を replace したりしたときにやりそこなったようです.
数学でも物理でも,行と列の使い方は同じですよね.
お二人には必要ありませんが,定義など一応書いておきます.
大体,ちゃんと定義など書かなかったのもいけませんでしたよね.
私がεと書いたのは次のような意味です.
(1) 添字の中に同じものがあれば,その成分はゼロ.
(2) 添字が全部異なるとき,
添字の順が 1,2,3,... の偶置換ならその成分は +1,奇置換ならその成分は -1.
例えば,
(3) ε[1,1] = 0
(4) ε[1,2] = +1
(5) ε[2,1] = -1
(6) ε[1,2,3,1] = 0
(7) ε[1,2,3,4] = +1
(8) ε[1,2,4,3] = -1
などです.
A,B が2次元ベクトルの時,(3)(4)(5)に注意して
(9) (A×B) = ε[1,1]A[1]B[1] + ε[1,2]A[1]B[2] + ε[2,1]A[2]B[1] + ε[2,2]A[2]B[2]
= A[1]B[2] - A[2]B[1]
A,B が4次元ベクトルの時,(6)(7)(8)に注意して
(10) (A×B)[1,2] = ε[1,2,3,4]A[3]B[4] + ε[1,2,4,3]A[4]B[3]
= A[3]B[4] - A[4]B[3]
です.添字が同じ項はもう最初から書きませんでした.
(A×B)[1,3] なら
(11) (A×B)[1,3] = ε[1,3,2,4]A[2]B[4] + ε[1,3,4,2]A[4]B[2]
= A[4]B[2] - A[2]B[4]
になります.
もちろん,(A×B)[1,2] は行列形式で書いて
┌ ┐
│ ※ ○ ※ ※ │
│ ※ ※ ※ ※ │
│ ※ ※ ※ ※ │
│ ※ ※ ※ ※ │
└ ┘
の○のところです.
この回答への補足
今日は2月13日で、前回のoodaiko先生の投稿より、ちょうど1ヶ月がたちますが、oodaiko先生の連載は続けていただけるのでしょうか?
別に私は全くいつでもかまわないのですが。
(教えて!gooのスタッフから、締め切り催促のメールがきたりするので、ちょっと気になっているだけです。)
気長に待たせていただきます。
では、何卒よろしくお願い申し上げます。m(_ _)m
siegmund先生のご説明で、数学側も、物理側も定義に関して、相違はなかったということで、めでたしだとおもいます。
siegmund先生、ありがとうございました。
では、oodaiko先生の、連続講義のつづきを、楽しみにしてお待ち申し上げます。
よろしくご指導お願い申し上げます。
本格的な、セミナーというか、コロキウムの雰囲気になって、とても楽しいです。
No.15
- 回答日時:
oodaikoです。
siegmund先生にちょっと伺いたいのですが、(chukanshiさん本題からはずれていてすみません)No.4の回答にある基本反対称テンソルεとはどんなものなのでしょうか。名前からすると {1,2,…,n}の要素のn個の組から{-1,0,1}への関数であって、
σを{1,2,…,n}上の置換,sinσを置換の符合(偶置換なら1,奇置換なら-1) とすると
ε[i_1,i_2,…,i_n]=sigσ ((i_1,i_2,…,i_n)=(σ(1),σ(2),…,σ(n)) の場合)
=0 (その他の場合)
と定義される関数だと思うのですが。
そうだとするとNo.4の回答で4次元のテンソルを行列形式で書き下していますが、行と列が入れ替わっているように思うのですが。それとも横に並べて書いた部分を列ベクトルと見なすということでしょうか。
「外積」とsiegmund先生が示したテンソル演算との関連を考えていたのですが「基本反対称テンソル」の定義を勘違いしていたら話にならないので質問しました。 物理の表記法に詳しくないもので間違えていたらご指摘お願いします。
sokamoneさん
>「Cayley」を一部「Caley」と書いていたところがありますが、それは
>打ち損じです。oodaikoさんのもそのようになっていたので
すみません。「Caley代数」の文字はsokamoneさんの回答からコピペしましたf(^^;
でも英語に弱いので手打ちでも気づかずそのまま書いたと思います。(^^;;
日本語で「ケーリー代数」と書けば恥を晒さずに済んだのですが。
この回答への補足
>(chukanshiさん本題からはずれていてすみません)
いえいえ、「定義」は重要ですから。特に、数学者と物理学者の間では、定義をちゃんとしておかないと、議論が混乱しますから(笑)。重要です。
>そうだとするとNo.4の回答で4次元のテンソルを行列形式で書き下していますが、
>行と列が入れ替わっているように思うのですが。それとも横に並べて書いた部分を
>列ベクトルと見なすということでしょうか。
そうですね。
A×B[1,2]=ε[1,2,p,q]A[p]B[q](p,qに関しては和をとる)
=A[3]B[4]-B[3]A[4]
で、1行2列が
A[3]B[4]-B[3]A[4]
になると思います。
siegmund先生、そうですよね?
すみません。「そうですね」は「行と列が入れ替わっている」に対する同意です。
物理でも、横に書くのが「行」で縦に書くのが「列」だと思います。
そこは、数学も物理も同じだとおもいます。
混乱した表現ですみません。
siegmund先生のお答えを、待ちましょう。
No.14
- 回答日時:
chukanshiさん、No.11ではちゃんと説明しなくてすみませんでした。
そして、oodaikoさん、代わりにとても詳しい説明をしてくださいまして、
ありがとうございました。
「Cayley」を一部「Caley」と書いていたところがありますが、それは
打ち損じです。oodaikoさんのもそのようになっていたので、これは、
責任重大と思い、また、ここへ書きこませてもらうことにしました。
横田一郎「群と位相」という本にCayley代数について初歩的なことが
書かれています。
あと、最近「三角形の個数」という題で質問を出しました。stomachman氏が
いま協力してくれています。暇で暇でしょうがない、あるいは、問題は簡単だが、
解けそうで解けないような問題をやりたい方は、ぜひご協力を。私事で恐縮です。
>No.11ではちゃんと説明しなくてすみませんでした。
いえいえ、コメント、新情報を教えていただきありがたかったです。
これからもよろしくお願い申し上げます。
No.13
- 回答日時:
siegmund です.
本題からちょっとそれますが,多少補足です.
回答No.7で,応力と歪みの話を書きました.
静的な場合は,歪みテンソルも応力テンソルも対称テンソルになっています.
すなわち,p(xy) = p(yx),など.
したがって,どちらのテンソルも独立な成分は6個
(例えば,p(xx),p(yy),p(zz),p(yz),p(zx),p(xy))です.
これを6つ並べてベクトル的に書き
(順に,p(1),p(2),p(3),p(4),p(5),p(6) と表現),
p(i) = Σ_{j} C(ij) e(j)
というように書く方が普通の書き方です.
やっぱり,添字地獄を避けようというんですかね.
これだと,弾性コンプライアンス定数Cは6行6列ということになります.
oodaiko さんが「6階でしたっけ」と書かれたのは,
上の6が頭のどこかにあったのかも知れません.
No.11 と No.12 でハミルトンの四元数が出てきました.
四元数は物理でもたまに使われます.
最も有名な例(最初に使われた例でもあるかも知れません)は,
Onsager が2次元正方格子上のイジング模型を解いた話です.
その後,いろいろな解法が発見されて,
今の統計力学のテキストでは四元数を用いた記述はちょっと見あたりません.
Onsager は1968年のノーベル化学賞を受賞(不可逆過程の熱力学)しています.
中学校の頃だったか,√(-1) の説明に
「-1 を掛けると数直線が反転する.
√(-1) を2度作用させると反転するのだから,
1度作用させれば90度回転,それで複素平面がが作れる」
という話を聞いて感心しました.
でも,
「別に y 軸方向でなくても z 軸方向にしたっていいんじゃないか?
4次元にしたらもっともう一つ増えるし」
とも思っていました.
後にハミルトンの四元数を知って,
「なるほど,そういことか.でも,四で終わり?もっと上はないの?」
とも思いました.
sokamone さんと oodaiko さんの回答,大変興味深く読ませていただきました.
この回答への補足
3月16日になりました。もう2ヶ月以上たつので、締め切ります。ポイントは
oodaiko先生に20、siegmund先生に10とさせていただきます。
oodaiko先生、力作、大作ありがとうございました。大変勉強になりました。また、siegmund先生は物理からのフォローをいろいろしていただきました。
そのほかみなさんにポイントを差し上げたいところですが、お許し下さい。
本当にどうもありがとうございました。
2002年3月16日chukanshi記す。
siegmund先生、物理側からのコメントありがとうございます。議論がひろまっていってとても楽しいです。オンサガーが、2次元イジングを解くときに四元数を使っていたとは、知りませんでした。勉強になりました。(話は全くあさってな方向にそれますが、3次元イジングってなかなか厳密解が出ませんね。)
No.12
- 回答日時:
「ベクトル」の「外積」の話はまだ書いている途中ですが、sokamoneさんのコメントについて解説しておきます。
四元数とは複素数をさらに拡張した数体で、実数Rを係数とし4つの基底1,i,j,kから構成されるものです。各基底間に次のように非可換な積が定義されます。
i^2=j^2=k^2=-1,ij=-ji=k,jk=-kj=i,ki=-ik=j ……(Qu)
複素数と同様に任意の四元数は4つの実数の組(a,b,c,d)を使ってa+bi+cj+dkと表されます。
和は複素数の和と同様に各基底ごとにベクトル的に計算します。
積も複素数の場合と同様に分配則を使って計算し、結果を(Qu)に従って整理することで定義できます。ただし当然のことながら積の交換法則は成り立ちません。しかし0以外の元に対しては積に関する逆元が存在するので「体」にはなっています。
さてR^3のベクトルA=(a[1],a[2],a[3])とB=(b[1],b[2],b[3])を純虚四元数(つまり実数部が0であるような四元数)p=a[1]i+a[2]j+a[3]j, q=b[1]i+b[2]j+b[3]kに対応させます。つまりベクトルの各成分を四元数の(実数以外の)基底に対応させるわけです。ベクトルの和が四元数の和に対応していることはわかりますね。
さてAとBの「積」をpqの純虚四元数部分(に対応するR^3のベクトル)と定義します。この「積」を「ベクトルの代数積」と呼ぶことにします。
(注意!!;「代数積」と言う言葉は私がこの場で便宜的に使っているだけであって、一般的な用語ではないのでご注意下さい)
するとこの「代数積」はちょうど通常のR^3でのAとBの「ベクトル積」と同じものになることがわかります。(簡単に確かめられるので確認してみて下さい)「代数積」が分配法則を満たしていることや、交代的であることなどは、四元数の積が分配法則を満たすこと、交代的であることからの直接的な結果です。
なおすぐわかることですがpqの実数部はAとBの内積になっています(符合は逆ですが)
Caley代数は八元数とも呼ばれます。これは四元数をさらに拡張した代数系で、実数Rを係数とし8つの基底1,i,j,k,l,m,n,oから構成されるものです。各基底間に次のように非可換で交代的な積が定義されます。
i^2=j^2=k^2 =l^2 =m^2 =n^2 =o^2 =-1,
i=jk=lm=on=-kj=-ml=-no,
j=ki=ln=mo=-ik=-nl=-om,
k=ij=lo=nm=-ji=-ol=-mn,
l=mi=nj=ok=-im=-jn=-ko,
m=il=oj=kn=-li=-jo=-nk,
n=jl=io=mk=-lj=-oi=-km,
o=ni=jm=kl=-in=-mj=-lk
八元数の積は結合律さえ満たしません。(例えば(lm)n=in=-o,l(mn)=l(-k)=-(-o)=oなど)しかし結合律を満たさないことを除けば「体」の条件は満たしているため、一種の「数」と考えることが出来ます。
さて、四元数の場合と同様にR^7の2つのベクトルA,Bを純虚八元数(つまり実数部が0であるような八元数)に対応させます。
そして、AとBの「代数積」も、四元数の場合と同様に、対応する純虚八元数の積の純虚八元数部分(に対応するベクトル)と定義します。(実数部は内積の符合を逆にしたものになっています)その成分を書き下してみると
(a[2]b[3]-a[3]b[2]+a[4]b[5]-a[5]b[4]+a[7]b[6]-a[6]b[7],
a[3]b[1]-a[1]b[3]+a[4]b[6]-a[6]b[4]+a[5]b[7]-a[7]b[5],
a[1]b[2]-a[2]b[1]+a[4]b[7]-a[7]b[4]+a[6]b[5]-a[5]b[6],
a[5]b[1]-a[1]b[5]+a[6]b[2]-a[2]b[6]+a[7]b[3]-a[3]b[7],
a[1]b[4]-a[4]b[1]+a[7]b[2]-a[2]b[7]+a[3]b[6]-a[6]b[3],
a[2]b[4]-a[4]b[2]+a[5]b[3]-a[3]b[5]+a[1]b[7]-a[7]b[1],
a[3]b[4]-a[4]b[3]+a[6]b[1]-a[1]b[6]+a[2]b[5]-a[5]b[2])
となります。目が回りそうですね(@@;)(計算間違い、ミスタイプがあるかもしれませんのでお暇ならご自分で検算してみて下さい)
これはもちろん7次元の「ベクトル積」とは一致しません。が2つのベクトルに対して同じ空間のベクトルが一意的に定まると言う意味では「ベクトル演算」の一種です。また、この「代数積」は分配法則を満たし、交代的であると言う点では3次元の「ベクトル積」の類似であるとも言えます。「代数積」が分配的、交代的であることは八元数の演算法則がそれらを満たすことから明らかです。
しかしR^7の「代数積」は結合法則を満たしません。例えば「代数積」をA†Bと書くことにすると、一般に(A†B)†C≠A†(B†C)です。ですからカッコを省略してA†B†Cなどとは書けません。これはもちろん八元数が非結合的であることから当然の結果です。
こういう話をするとさらに十六元数、三十二元数…等も存在して15次元、31次元…で同様な定義が出来るのでは…、と思われるかも知れませんが、数の体系としての拡大はある意味で八元数で尽きており、これ以上の拡張は出来ません。そこで残念ながら十六元数、三十二元数等も存在しませんから「代数積」は3次元と7次元に特有なベクトル演算であると言えます。
そして「代数積」も3次元では「ベクトル積」や「外積」と一致しますから、やはり3次元は特別な空間であると言えるでしょう。
R上の4次元や8次元の世界は単なるベクトル空間としての構造だけでなく、こういう「数」としての構造も入るため、幾何学的にも他の次元とは異なる独特な現象が見られるそうです。
では、また後ほど。
この回答への補足
oodaiko先生の講義が中断しているのですが、oodaiko先生は、2月7日以来
どの質問にも回答していらっしゃらないので、3月になりましたが、
もう少しお待ちしてみます。まだ、ポイントが発行できずすみません。
3月2日chukanshi記
ちょっとわからなくなっていたところで、解説していただき、もうお礼の言葉も見つかりません。助かりました。心から御礼申し上げます。
m(_ _)m m(_ _)m。今後の解説も、(とってもあつかましい気もしますが。。)本当に楽しみにしております。よろしくご指導お願い申し上げます。
No.11
- 回答日時:
実3次元と7次元のベクトル空間では、ベクトル積が代数を用いて同様に定義できます。
3次元のベクトル積の方は、四元数体を、
7次元のベクトル積の方は、Caley代数を用います。
作り方は簡単で、四元数体、Cayley代数の純虚数全体をそれぞれ3次元、7次元の
実ベクトル空間とみなして、それぞれにおいて2つのベクトルの積は、それぞれの代数の中でまず積をとってから、その純虚部分をとってくれば、ベクトル積xがつくれる。どちらも同様の性質を持ちます。
一般の次元については、starfloraさんが述べておられるように考えるみたいです。
以上、簡単ですが、いままでの回答で言及されていなかった部分を少し。
No.10
- 回答日時:
siegmund先生、物理側からのフォローありがとうございます。
>>「応力」はR^3上の3階のテンソルです(6階でしたっけ。)
>R^3 上の2階のテンソルですね.
やっぱり勇み足でしたか f(^^;
少しお断りしておきます。(言い訳ばっかりです (^^;)
私はスピヴァックの『多変数解析学』をネタにこの解説を書いています。今書いている定義や議論の進め方はおおむねこの本にしたがっています。しかしこの本の主題はテンソル代数ではなく、ベクトル解析の主要な定理(古典的なストークスの定理)を現代的な方法で(つまり高度に代数化、抽象化された手法で)解説しようというのが目的です。 例えていえば伝統的なε-δ方式の代わりに超準解析を使って解析学を展開しているような本です。
そこで、この本ではテンソルや外積に関する議論もその目的に必要な部分だけを取りだし、抽象化したような体系になっています。ですから伝統的なテンソル代数の教科書(もちろん数学者が書いたもの)と比較してさえ、言葉の定義や議論の進め方は若干異なっています。
chukanshi さんは
>さらに詳しく知りたくなったら、専門書をもう一度読みなおしてみようと思います。
>そのときは、大局がみえているので、少し楽になると思っています。
とおっしゃってますがかえって混乱するかも知れません。そこで今日の投稿の最後にテンソル代数の標準的な教科書との違いを簡単にまとめておきます。
さて続きです。
(7)外積
やっと「外積」が定義できるところまで来ました。
交代テンソル同士のテンソル積が交代テンソルになるとは限らないのは明らかですね。そこで交代テンソル同士の演算であって、結果が交代テンソルになるようなものを定義します。これが「外積」です。
S∈Ω^k(R^n),T∈Ω^l(R^n)とします。SとTに対し「R^n上のk+l階交代テンソル」S∧Tを次のように定義します。
(ただし×の記号は先に述べたベクトル積ではなく、通常の実数のかけ算の意味です)
S∧T=(k+l)!/(k!l!)×A(S※T) ………(*Alt)
「交代化」の部分を先の定義で置き換えて、引数を含めて書き下すと
S∧T(u_1,…,u_{k+l}) = 1/(k!l!)Σ_{σ∈S_k} sgnσ・S※T(u_{σ(1)},…,u_{σ(k+l)})
= 1/(k!l!)Σ_{σ∈S_k} sgnσ・S(u_{σ(1)},…,u_{σ(k)})・T(u_{σ(k+1)},…,u_{σ(k+l)})
となります。1/(k!l!)という係数はなにやらいわくありげに見えますが、これは後で定義するΩ^k(R^n)の標準基底をR^nの標準基底に作用させた時1になるようにするため、つまり正規化のための係数なのであまり本質的ではありません。今問題にしているのは「ベクトル」すなわち「1階のテンソル」に関する話なので係数は1と考えておいてもさしつかえはありません。
外積の演算法則をチェックしておきましょう。S,S_1,S_2∈Ω^k(R^n),T,T_1,T_2∈Ω^l(R^n),U∈Ω^m(R^n),a∈Rとします。
S∧(T_1+T_2)=S∧T_1 + S∧T_2
(S_1+S_2)∧T=S_1∧T + S_2∧T
(aS)∧T=S∧(aT)=a(S∧T)
S∧T=(-1)^{kl}(T∧S)
(S∧T)∧U=S∧(T∧U)
が成り立つちます。始めの3つは交代化の線形性からほとんど明らかですね。4つめは外積を特徴づける性質です。この性質のため外積は「交代積」と呼ばれることもあります。
最後の結合律を示すのは少々面倒です。しかし結合律が成り立つため任意のsに対し《s個の「R^n上の交代テンソル」の「外積」》を定義することができます。言うまでもなくk_1,…,k_s階の交代テンソルの外積は(k_1+…+k_s)階の交代テンソルになります。先の「ベクトル積」がn-1個の要素に対してしか定義できなかったことを考えると「外積」のほうがずっと「積」らしいと言えますね。
とはいえkを固定した場合、「外積」はΩ^k(R^n)の中で閉じていない(Ω^k(R^n)の要素同士の外積はΩ^{2k}(R^n)の要素になる)ことは明らかですから、これを「演算」と見なすのは少々無理があります。「テンソル積」および「外積」は、演算の意味での「積」というより、どちらかといえば集合の意味での「直積」に近いものと考えた方がよいでしょう。
「外積」を「演算」と見なすためにはすべてkについてのΩ^k(R^n)全体の集合
Ω(R^n)={ Ω^k(R^n): k ∈ N }
を考え、それを1つの空間と見なし、「外積」をΩ(R^n)上の演算と定義する方法があります。(定義の方法は今説明した方法の簡単な拡張です) Ω(R^n)とその演算としての「外積」を組にしたものが、いわゆる「外積代数」または「グラスマン代数」と呼ばれる代数系のことです。ここでは外積代数の話までは深入りしません。
なお(*Alt)の表現では3つ以上の多重積の場合にどう書き下すのか良くわかりませんから、s個の交代テンソルに対する「外積」の表現を書いておきます。
T_i∈Ω^{k_i}(R^n)(i=1,…,s) とすると
T_1∧…∧T_s=(k_1+…+k_s)!/(k_1!…k_s!)×A(T_1※…※T_s)
となります。もちろん T_1∧…∧T_s ∈ Ω^{k_1+…k_s}(R^n) となります。
(8)Ω^k(R^n)の基底と次元
さて外積を使ってΩ^k(R^n)の標準基底を構成し、またΩ^k(R^n)の次元を決めることができます。Ω^k(R^n)はT^k(R^n)の線形部分空間ですから当然次元はT^k(R^n)の次元より小さくなります。また先に書いたようにk>nの場合はΩ^k(R^n)は0次元です。
標準基底の定義方法はT^k(R^n)の場合と大体同じですが、Ω^k(R^n)は交代性があるため微妙に違います。
e_1,…,e_nをR^nの標準基底とし、f_1,…,f_nをその双対基底とします。すなわちf_i(e_j)=δ_{ij}です。f_1,…,f_nはもちろんΩ^1(R^n)の要素です。
f_1,…,f_nから任意のk個の要素f_{i_1},…,f_{i_k}(1≦i_1<i_2<…<i_k≦n)を取り(添字の選び方に注意して下さい)、外積
f_{i_1}∧…∧f_{i_k}
を作ります。これは当然Ω^k(R^n)の要素です。そしてこのようなΩ^k(R^n)の元全体がΩ^k(R^n)の基底になります。従ってΩ^k(R^n)の次元数は n!/(k!(n-k)!)=nCkになります。
さてR^nの「ベクトル」は「R^n上の1階交代テンソル」ですから、R^nの「ベクトル」の「外積」は「R^n上の2階交代テンソル」になります。そしてその次元はnC2となります。すなわちn=3の時のみ「外積」は「ベクトル」と同じ次元になります。R上のn次元ベクトル空間は本質的にR^nただ一つだけ(R^nと同一視できる)なので、「ベクトルの外積」はn=3の時のみ同じベクトル空間の中で閉じた演算と見なすことができます。
***********************************************************************
ここまでで「外積」についての一般論は終りです。
最初に書いたようにこの解説はスピヴァックの本を元に書いています。そしてこの本では(一般化された)ストークスの定理の証明を主目的にしているため、用語や記法もその目的に対し最適化された形で構成されています。そのため一般的なテンソル代数の本とは少々用語や定義が異なっています。
スピヴァックの本では、テンソル代数の教科書でいうところの「k階の反変テンソル」のことを「k階のテンソル」と呼んでいます。
わかりやすい例でいえば、正方行列だけを「行列」と定義するようなものです。一般の線形変換の話をするならば一般のn×m行列から論じなければなりませんが、行列式や逆行列や行列の対角化などの解説を目的とするならば、「行列」を正方行列に限定してしまっても構わないわけです。
一般のテンソル代数の教科書では「p階反変テンソル」とその双対空間というべき「q階共変テンソル」というものが定義され、これらのテンソル積をとったものが「p階反変q階共変テンソル」または「(p-q)型のテンソル」と呼ばれる一般的な「テンソル」になっています。
物理テンソルでも相対論などでは「共変テンソル」も出てきますので、ここで解説した「テンソル」の範疇に収まらない物理テンソルも存在します。
次は「ベクトル」の「外積」に話題を絞って、成分による具体的な表示や物理テンソルとの関連などをみていきます。
本当に、詳しい解説をありがとうございます。私個人の躓きそうな点までご指導頂き、本当に感謝しています。まだ、続きをご講義いただけるようなので、楽しみにしております。
No.9
- 回答日時:
siegmund です.
oodaiko さん,
身の程知らずの私の穴だらけ回答のフォローをたびたびしていただきまして
大変感謝しています.
すごい力作ですね.
がんばって読ませていただきます.
でも,これは難しい(^^;).
こんなこと言っている私が物理数学など担当することもあるのだけど,
本当に大丈夫なのかな?
> 物理に詳しい方のツッコミをお願いします。
どきっ.口頭試問に呼ばれたような気がした(^^;).
> 「応力」はR^3上の3階のテンソルです(6階でしたっけ。)
R^3 上の2階のテンソルですね.
応力は,(a)どの向きの面を通して,(b)どの方向に力が働く,
の2要素が必要です.
(a)の「どの向きの面」は法線で指定できますから,
p(xy) を y 軸に垂直な面(すなわち xz 平面)を通して,x 軸方向に働く力,
とすると,3行3列の行列で表現できますから2階のテンソル
p = (p_{ij}) ですね.x,y,z の代わりに 1,2,3 と書きました.
似たような事情で,歪みテンソル
e = (e_{ij})
が定義できます.
ばねの力 F と伸び(or 縮み) x が比例する(F = -kx)というのがフックの法則ですが,
3次元弾性体への拡張は p と e が多重線型(用語の使い方大丈夫ですかね?)
であるということで
p_{ij} = Σ_{kl} C_{ijkl} e_{kl} (i,j,k,l = 1,2,3)
ですから
C = (C_{ijkl})
は4階のテンソルになります.
Cは弾性コンプライアンス定数(あるいは単に,弾性定数)と呼ばれています.
これはk>nの例になっていますね.
そろそろ,添字地獄になっています.
具体例を持ち出さないとわからないのが物理屋(私だけ?)の弱点ですな~.
どこか,また誤解しているかも知れません.
siegmund先生、物理側からのコメント、ありがとうございます。こうして、数学と物理の専門家、両方に助けていただくと大変心強いです。こういう感じの数学と物理の共同の「教育」みたいなことは、とても大切ですよね。これからもよろしくご指導お願い申し上げます。
私の拙い経験ですと、添字地獄は一般相対性理論のときにもでてきました。添字(よく「足」と呼んでいました)4つとかはよくでてきました。足4本。こうなると計算の見とおしが悪くなって大変でした。
No.8
- 回答日時:
外積のことを詳しく書いていると、テンソル代数の教科書を書くようなはめになってしまうので、証明などは飛ばしていきます。
それでも準備だけでずいぶん長くなってしまったので、まだ途中ですがアップします。
より詳しく知りたければ先に挙げた本(スピヴァックの『多変数解析学』)などを御覧下さい。
●外積
(1)テンソル
まず「R^n上のk階テンソル」(kは自然数)と言うものを定義します。
R^nのk個のベクトルに対してRの要素を対応させる写像で、かつ各変数について線形であるようなもの(多重線形という)を「R^n上のk階テンソル」と呼びます。
もう少し数学的にきちんと定義しておくと、関数T:(R^n)^k → R であって、任意のi(1≦i≦k)、およびa,b∈Rに対して
T(u_1,…,u_{i-1},a u_i + b v_i,u_{i+1},…,u_k)=
a T(u_1,…,u_{i-1},u_i,u_{i+1},…,u_k)+b T(u_1,…,u_{i-1},v_i,u_{i+1},…,u_k)
という条件を満たすものを「R^n上のk階テンソル」と呼びます。また便宜上実数は0階のテンソルと定義します。(もちろん0階のテンソルは引数を持ちませんから「R^n上の」という修飾語は必要ありません)
「R^n上のk階テンソル」全体の集合をT^k(R^n)と書いておきます。
さて、任意のS,T∈T^k(R^n)およびa,b∈Rに対して、和とスカラー倍を
(aS+bT)(u_1,…,u_k)=aS(u_1,…,u_k)+bT(u_1,…,u_k)
と定義すると、明らかにaS+bT∈T^k(R^n)です。そこでT^k(R^n)は体R上のベクトル空間と見なせます。零元は、すべての引数の組に対し0を対応させるようなk階テンソルです。
(2)テンソル積
次に、重要な演算として「テンソル積」というものを定義します。
S∈T^k(R^n)、T∈T^l(R^n)とします。SとTに対し「R^n上のk+l階テンソル」S※Tを次のように定義します。
S※T(u_1,…,u_k,u_{k+1},…,u_{k+l})=S(u_1,…,u_k)・T(u_{k+1},…,u_{k+l})
このS※T∈T^{k+l}(R^n)をSとTの「テンソル積」と呼びます。ちなみに数学の本では一般的にテンソル積の記号として○の中に×を書いたものを使います。
テンソル積は非可換であること、すなわちS※T≠T※Sであることに注意しておいて下さい。またS,S_1,S_2∈T^k(R^n),T,T_1,T_2∈T^l(R^n),U∈T^m(R^n),a∈Rとすると
S※(T_1+T_2)=S※T_1 + S※T_2
(S_1+S_2)※T=S_1※T + S_2※T
(aS)※T=S※(aT)=a(S※T)
(S※T)※U=S※(T※U)
等の等式が成り立つのはすぐわかりますね。
和の場合はS+Tが定義できるのはk=lのときだけですが、テンソル積はk≠lでも定義できることが重要です。
さて注意を一つ。テンソルの引数になるベクトル空間の次元nとテンソルの階数kとの間に直接的な関係はありません。「テンソル積」を使えばいくらでも大きなkに対するT^k(R^n)の要素が作れます。しかし実際に(および以後の話でも)重要なのはk=0,1,2,nの場合くらいです。k>nの場合なんてまず使わないと思います。(物理や工学のことは知りませんが)
(3)テンソルの例
抽象度が高いが役に立つ数学的概念は、(物理や数学等の)豊富な具体例を元に、それらを統一して包括的に議論できるよう構築されたものです。
「テンソル」もそういうものですが、そこに包括されているもののイメージをつかみやすいように、いくつかの具体例を挙げておきます。
R^nの「ベクトル」は双対空間の要素と同一視されますから、それ自身R^nからRへの線形写像と見なすことが出来ます。すなわちR^nの「ベクトル」は「R^n上の1階テンソル」と見なすことが出来ます。
「n次正方行列」は、これをR^nの双線形形式の表現と考えれば「R^n上の2階テンソル」と見なすことが出来ます。特に単位行列を考えることにより、「R^nの内積」も「R^n上の2階テンソル」であることがわかります。
「n次行列式」これはすぐわかるように「R^n上のn階テンソル」ですね。
私は物理には詳しくないので、恥を書くことを承知で物理的な「テンソル」の例も挙げておきます。物理に詳しい方のツッコミをお願いします。
「応力」はR^3上の3階のテンソルです(6階でしたっけ。だとするとこれはk>nの例ですね)。イメージとしては引数として各方向からの力(ベクトル量)をとり、それらを合成した「効果」(もちろんベクトル的な合成とは違う意味)を実数値で表現するための関数、というところかな。
「モーメント」これが今問題にしている「3次元でのベクトルの外積」として表現されるR^3上の2階のテンソルです。イメージとしては応力と同様で、力および力点の位置という2つのベクトル量に対し、それらの「効果」を表現するための関数、というところですね。他にも「渦度」のように「軸性ベクトル」として表現される量も同様なものですね。
(4)T^k(R^n)の基底と次元
先に書いたようにT^k(R^n)はR上のベクトル空間になるので次元が定義できます。また通常のベクトル空間と同様に標準基底も定めておくと便利です。
e_1,…,e_nをR^nの標準基底とし、f_1,…,f_nをその双対基底とします。すなわちf_i(e_j)=δ_{ij}(δ_{ij}はクロネッカーのデルタ)です。f_1,…,f_nはもちろんT^1(R^n)の要素です。
f_1,…,f_nから任意のk個の要素f_{i_1},…,f_{i_k}(1≦i_1,…,i_k≦n)を取り、そのテンソル積
f_{i_1}※…※f_{i_k}
を作ります。これは当然T^k(R^n)の要素です。そしてこのようなT^k(R^n)の元全体がT^k(R^n)の基底になります。従ってT^k(R^n)はn^k次元になります。
(5)交代テンソル
さて「外積」を考える上で重要なのが「交代テンソル」という特殊なテンソルです。文字通り「交代性」を持つテンソルです。(「交代」の代わりに「反対称」と呼ばれることもあります)
「交代テンソル」を定義します。
T∈T^k(R^n)であって、任意のu_1,…,u_k∈R^n とi≠jに対し
T(u_1,…,u_i,…,u_j,…,u_k)=-T(u_1,…,u_j,…,u_i,…,u_k)
を満たすようなものを「R^n上のk階交代テンソル」と呼びます。n次行列式は「R^n上のn階交代テンソル」であることは明らかですね。(実際「交代テンソル」と言う概念は「行列式」の一種の一般化です)
また、1階のテンソルはすべて交代テンソルです。すなわち「R^nのベクトル」は「R^n上の1階交代テンソル」です。
ところで一般のテンソルの場合はk>nでも定義でき、かつ実質的な意味も持ち得ますが、交代テンソルはk≦nの時しか実質的な意味を持ちません。k>nの場合、T^k(R^n)の要素が交代テンソルになるとすればそれは0だからです。
これは引数のベクトルを基底表示して、交代テンソルを基底の組に対するものに分解してみるとわかります。
「R^n上のk階交代テンソル全体の集合」はベクトル空間として「R^n上のk階テンソル全体の集合」の線形部分空間になっていることは明らかですね。そこで「R^n上のk階交代テンソル全体の集合」をΩ^k(R^n)と書いておきます。Ω^k(R^n)のベクトル空間としての次元が、今問題にしている「外積の一般化」に本質的に関わってきます。
(6)交代化
一般のテンソルT∈T^k(R^n)(k≧2)はもちろん交代的とは限りませんが、Tから交代テンソルA(T)∈Ω^k(R^n)を作ることが出来ます。このA(T)をTの「交代化」と言います。それは次のように定義します。
A(T)(u_1,…,u_k)=(1/k!)Σ_{σ∈S_k} sgnσ・T(u_{σ(1)},…,u_{σ(k)})
ただしS_kは{1,…,k}の置換全体。sgnσは置換σの符号(すなわちσが偶置換なら+1,奇置換なら-1)
なんだかややこしい定義ですが、もともと交代テンソルというのは行列式の一般化だけに、行列式の定義を思い出してもらえばそれの類推であることがわかるでしょう。
「交代化」も線形写像であることに注意して下さい。すなわちS,T∈T^k(R^n)およびa,b∈Rに対して
A(aS+bT)=a A(S) + b A(T)
となります。
さて次でいよいよ「外積」を定義します。じらしてすみません。
本当にご親切に教えていただき、ありがとうございます。m(_ _)m。なんとかついていています。こういう本当にエッセンスだけ抜き出していただくと非常に理解しやすいです。数学の本で、定理証明の繰り返しだと、木を見て森を見ずという感じに陥ってしまい、混乱します。こうやって、oodaiko先生のエッセンスを読んで、さらに詳しく知りたくなったら、専門書をもう一度読みなおしてみようと思います。そのときは、大局がみえているので、少し楽になると思っています。本当に力作ありがとうございます。つづきを楽しみにしております。よろしくご指導お願い申し上げます。
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